テラーノベル
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ある日、世界から夜明けが消えた。どこを見渡しても太陽光なんて無く、肌を突き刺すのは人工光だけ。いつの季節も一定に保たれた気温、四季なんてものはこの世界から失われた。それは雛喜(ひなき)が産まれたころには「常識」となっていた。
「この世界には夜明けなんて無い。夜明けなど訪れない。」
そう謳う政治家達は「その存在」を象徴するような言葉を使うことを法律で禁止した。「×××」という言葉を使っていたら、いつかそれが現実になるのではないかという期待を抱いてしまうから。期待しなければ傷つくことなどないのだから。その日から、世界から希望が、消滅した。
「ねえ、雛喜。「×」って、どんな感じなのかな。」
隣で眠っていたはずの莉津(りづ)が、雛喜の方ではなく天井をじっと見つめて問いかけた。
「さあね。温かくて…少なくとも人工光よりはマシよ。」
「あはは。雛喜ったら、冷めてるね~?もう少し期待しようよ。」
「……期待したら、終わりよ。」
雛喜は寝返りを打ち、正面に林立する遮光ガラス製の窓を眺める。相変わらず、外は暗い。先が見えないような深淵に包まれている。それでも、外に出れば外灯が人工光で光って、仄かにこの夜道を照らすのだから科学も捨てたものではないと思う。
「私ね。いつかここを出て、朝を――」
「莉津!!!!!」
「……ごめんってば。わざとじゃないよ。」
そう謝る莉津の顔が、雛喜には見えない。見たくなかった。でも、きっと、とても悲しそうな顔をしていると心のどこかで思っていた。莉津は昔から、そういう素直な優しい子だった。病室で1人、腫れ物扱いだった雛喜にこうして話し掛けるくらいには――もっとも、友達が全員いなくなったから、かもしれないけれど。
「わざとじゃなくても、あなただって分かってるでしょ!?法律で禁止されてるのよ!?」
「うん」
「破ったら、何をされるのか分からないのよ!?」
「うん」
「私、私……莉津がいなくなったら…ここに独りぼっちで……そんなの嫌よ!!!」
「うん……ごめんね。もう言わない。絶対に。」
雛喜の背中に、小さな熱がくっついてきた。莉津だ。莉津が、雛喜に抱きついている。年は同じはずなのに、後ろから抱きつく莉津の身体はどこか小さく、そして雛喜よりも温かい。莉津の穏やかな顔が、雛喜の正面にある。そんな安心感からか、雛喜は雛喜の首に腕を強く絡ませた。泣き顔を、莉津に見られたくはなかった。
「……独りに、しないで。」
「うん。絶対に、独りにしない。」
雛喜が泣いていることを見透かしたように、莉津は優しく雛喜の頭を撫でた。その手は、声は、雛喜と同じくらい――否、それよりもどこか脆く、儚かった。
翌日。目が覚めた頃には、隣のベッドに莉津の姿はなかった。購買にでも行ってるのだろうと判断して、ゆっくりと起き上がり、右にある遮光製ガラスの窓を眺める。
――それが現実だと認識するには数十秒の時間を要した。
空には薄曇が、御伽噺で見たあの綺麗な幻想的な光景が目の前に広がっていた。空は思っていたよりも青く、そして淡かった。青、と形容しがたいほど、色々な色が混ざり合って「空」を創りだしていた。赤か、オレンジ色か、青か、灰色か――そんなことはどうでもいい。ただ、美しかった。そして、色々な色が混ざり合った雲の更に奥、いや手前にソレはあった。ソレは球体で、ソコが光の源だとすぐに分かるほどに力強い光を纏っていた。
(窓、窓を……いや、ダメ。怒られちゃうわ。)
窓を開けて、光を全身に浴びたかった。しかし、そんなことをすれば病院の人に怒られてしまう。理由は分からない。気付いたときには病院にいて、光に当たってはダメだと言われていた。月光も、目の前の光もきっと同じなのだろう。
(……莉津、莉津に知らせなきゃ……!!)
歪んだ正義感だった。雛喜以上に、莉津は「×××」に執着していた。きっと、この光景を見たら莉津は泣いて喜ぶかもしれない。いや、きっとそうだろう。そのときは、雛喜が莉津を抱き締めて、頭を撫でてあげよう、と思っていた。しかし、病室のどこを探しても、名前を呼んでも莉津は見つからなかった。病室にも、廊下にも、玄関ロビーにも、購買にも、莉津の姿はなかった。だから、廊下で何故か慌てて歩いていた看護師の1人を呼び止めて聞いた。看護師は口早に、まだ幼かった雛喜には理解できないくらい難しい言葉で、こう言った。
――「××ちゃんと×は…そして×××は一つになったのよ」――と。
コメント
3件
ああ、これガチで刺さるやつだわ…。「夜明け」という言葉すらタブーにされた世界で、それでも希望を囁く莉津と、それを怖がる雛喜の対比がもう切なすぎる。ラストの看護師のセリフで全部の意味が変わった。莉津はまさか「朝」そのものになっちゃったのか…? 二人の距離感とか、背中の温もりの描写がすごく生きた。続き、マジで気になる🔥
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つうん
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