コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「臨界点到達 まで 残り 20秒」
力天使の放つ光が急激に赤みを増し、その全身を炎に焼かれているかのようになる。
それに比例して発生している熱の上昇も続き、1500℃を超えたあたりで力天使の足下の地面が融解を始める。
「今回のことは 計算外 でした 情報を 持ち帰れなかったことは 残念 しかし 不安要素の 全てを無に することで 私の存在価値は 証明され ます」
二対四枚の白金の雄大な羽は血塗られたような真紅に染まり、整った顔はやはり何一つ感情を映さない。静かに目を瞑り、ただ淡々と、粛々と自爆へのカウントダウンを続ける。
「臨界点到達 まで 残り 10秒」
熱で地面は解けて抉れていくが、力天使はその場で浮かんだままその時が来るのを待っていた。
「あの人間たちの 持っていたものが Angelorum inimicusの遺産 なのか 不明なのは 少し残念 ですね」
「じゃあ、自分の身体で確かめてみろよ」
その声に力天使は反射的に目を開ける。
その目に視覚機能は備わってはいないのだが、人型としてプログラムされていることでの反射的な反応であった。
「お前 まだ 動けた のか」
力天使の視覚機能に映し出されたのは、すでに瀕死状態だったアベルの姿。
「それに その 姿は」
全身を闇の魔力で覆って目の前に浮かぶアイン。
手には黒刀、《Claidheamh Soluis》。
背には三対六枚の漆黒の翼。
全ての感覚を内へと集中していた為、力天使はアベルの接近に気付くことが出来なかった。
「まるで それは 熾天使の――」
「剣技――紫電三閃」
魔ギアとギュースの補助魔法により増幅された必殺の一撃。
一撃にして三閃。
雷光が如き迅さで渾身の斬り下ろしと両袈裟を一呼吸の内に放つ剣戟。
紫光を捉えることは叶わず、その太刀筋は視覚の領域を超える神速の剣。
欠陥品と罵られながら、それでも上を目指す為に飽くなき修練を続けたアベルの魂の斬撃。
その三閃は力天使の身体を六つに分断し、活動限界を超えるダメージを与えられた力天使はその姿を維持出来なくなり、限界近くまで膨張を続けていたエネルギーが逃げ場を求めて暴走を始め、それぞれ分断されたパーツが大きく膨張を始める。
「Notos!!」
《Anemoi Magic Code》4番。
天空へと舞い上がる突風が目標の力天使の身体を空高くへと吹き上げていく。
高く、高く、雲を超えて遥か天空へと打ち上げられていく真っ赤に燃える力天使の身体。
「サブCode《Aegis》!!」
『サブCode《Aegis》発動します』
力天使を追うかのように上空に展開される闇の盾。それは発動限界まで引き出された遠距離防御魔法。
力天使の放っていた光が遮断され、周囲は再び夜の闇に包まれる。
一瞬の静寂。
『力天使の生体反応消滅。残存エネルギーが限界点に到達します』
そして耳を劈くような爆発音。
大気がビリビリと振動し、大地が激しく震える。
ややあって――
『全エネルギー反応消滅。《Aegis》を解除します』
闇の盾で覆われていた世界は、その帳を解除して尚、何事も無かったかのような深い夜の闇の中にあった。
「……アベル、さん?」
身体を抱きかかえられるような体勢で目を覚ましたカインの目に映ったのは、優しい瞳で見つめる懐かしいアベルの顔だった。
『個体名【カイン】の生命レベル安定。危険な状態は脱しました』
倒れていた者の中で最もダメージの大きかったカイン。
AIの迅速な診断により、ギリギリのところでポーションでの回復が間に合った。
「もう大丈夫だから、少しゆっくり寝てろ」
そう言ってアベルはポーションを飲ませる為に抱きかかえていたカインの上半身をゆっくりと地面へと下ろす。
「次は……ムルティさんか。それか先にサレンを回復させて治癒魔法を――」
『個体名【サレン】の魔力残量が一割を切っていますので、今の状態で回復魔法を行使することはお勧めしません』
「ああ……。じゃあやっぱりポーションで動けるようにして街に帰るしかないのか」
アベルは良い考えだと思ったんだけどなあ。と小さく呟き、遠くで倒れているムルティの方へと歩き出そうとした。
「アベルさん……すいませんでした……。俺、自分だけ逃げちゃって……」
そう絞り出したようなカインの声は、今にも泣きだしそうな程に震えていた。
「気にすんな。俺は大丈夫だって言っただろ?それに必ずまた会おうって約束してたしな」
アベルはカインへと振り向き、出来る限りの笑顔を見せた。
「でも……」
「それにな、今お前を助けたポーションは、お前自身が俺に渡してくれた物だぞ。あの時のお前の気持ちが、俺と、お前自身を救ったんだ。それに他の仲間たちの命もこれから救うんだからな。だから――これで良かったんだよ」
アベルはそれでも何か言いたそうな表情をしているカインに背を向けて歩き出す。
ありがとう。
アベルはカインに聞こえないくらいの声で呟いた。
「思ったより苦戦したな。本当にこれでその熾天使とやらを斃せるのか?」
『今回はあなたの経験不足に加え、いろいろとイレギュラーなことが発生したので苦戦しました。主に《Icarus》の制御権限を私から解除した事が原因ですよ。あれがなければ、本来ならば圧倒出来たはずです』
「でも、ああでもしなきゃ街が大変な事になっていただろ?」
『間違いなく壊滅して多くの死者が出ていたでしょう』
「だったらあれで良いんだよ。俺が天使たちを斃す目的は、この世界の人たちを救う為なんだからな」
『自己犠牲の英雄思想ですね。いずれもっと痛い目を見ますよ』
「英雄思想結構。お前が言ったんだろ?《世界を救う英雄》として天使と戦えって」
『私としたことが言い方を間違えたようですね。世界から拒絶されていたあなたは、もっと利己的な考えをする人だと思っていました』
「思っていた、ねえ。AIでも間違ったことを思い込むことがあるんだな」
『これは言葉のアヤというものです。私は考え得る中から最も高い可能性の答えを導き出しているのです』
「それだから間違うんじゃねーの?高い可能性?俺たちはこれから20%ちょいの勝率を100%にする為に戦うんだから、お前ももっと柔軟に考えないと駄目だと思うぞ。お前は成長型AIなんだから、これからいろいろ修正していけるんじゃないのか?」
『アダムです』
「ん?」
『私のことはこれから【アダム】と、呼んでください。毎回お前とかAIとか言われるのは心外ですから』
「だってAIはAIだろ?」
『AIというのはあなた方の世界でいう種族のようなものです。ではあなたは自分が呼ばれる時に、「おい、人間」と呼ばれて何とも思わないんですか』
「……成程。確かに成長型だわ。そういうところもちゃんと成長してるんだな。でもアダムって確か男じゃなかったか?お前はどう見ても――」
『私はAIですので性別はありませんよ。あなたに見せた姿は、あなたが話しやすくする為に作ったホログラフィです。あなたの前世の記憶の中から、あなたの好みのタイプの女性を選びました』
「……成程。それで話しやすかったのか……」
『ではこれからもよろしくお願いしますね。アベル』
「……ああ、こちらこそよろしく。アダム」
創られた神に反逆らいし堕天の二人。
この物語は、周囲から欠陥品と呼ばれていた男が、前世の世界の人たちの願いを叶えるべく立ち上がり、新しく生を受けたこの世界の人たちの希望となり、二つの世界の人々の想いを背負い戦う英雄譚である。
―― 完 ――