第一章 “ 灯の届かぬ場所で ”
第四話 「 警告 」
あの日から三日ほど経った頃だろうか
僕が 、また喜八郎の穴に落ちて
喜八郎に引き上げてもらうために待っていれば
どうやら喜八郎ではない者に引き上げられた。
『あれ 、仙蔵が手伝ってくれるなんてね 。』
「あぁ 、丁度お前に用があって立ち寄った 。
少し六年生だけで集まって話があるんだ」
「……..そういうこと 。」
きっと 、話す内容なんてアレに決まってるけど
僕はそのまま土を落とし六年長屋へと向かった
「…..また穴に落ちていた 。」
『あはは、、ごめんねぇ…』
「はッ….まだ穴を掘ってるなんてな 。
演技のつもりか本当に好きなのかは
わっかんねぇもんだなァ…..?」
「やめろ文次郎 。それ以上話すな
私がお前を無理矢理にでも黙らすぞ 。
…….喜八郎は裏切っては無いと何度言えば__
「でもよ仙蔵 、あれを見ればよ。
……….そりゃらあ、俺だって信じたかったさ」
そう言って 、文次郎は仙蔵から視線を背けた
ろ組のふたりも視線を俯いているし
留三郎は壁を向いてて分からないし
きっと、さっきまで
その話で持ち切りだったんだろう 。
『……….喜八郎のこと 、?』
僕がそう言えば 、ピクリと動くのがわかった
「…..先に話して上がったんだが 、
やはりこの件は私達では荷が重い為 。
先生方や五年生にも言うべきだ…….と 。」
『……え?』
長次の言葉に 、僕は言葉を失いかけた 。
だって 、そんなの 。
『そんなの 、そんなの…..
密告してるようなもんじゃないかっ 、
そうすれば喜八郎がどうなるのか
お前たちはわかっているの!?!』
「わかってるよッ!!!」
僕の言葉に 、留三郎は勢いよく食いついた 。
でも 、その留三郎の顔って来たらさ…
涙と鼻水でぐしゃぐしゃだったよ笑
「俺だって 、喜八郎を
信じたいに決まってるだろう!!?
でも 、俺は….もう信じないって決めたんだ 。
それに考えて見やがれ!喜八郎を放っておいて
学園が危険にさらされたらどうするんだ!」
「そんなの……なってみないとわからん!」
「いい加減にしないか仙蔵!!
それで…..それでお前ッ….学園長や下級生を
守れるのか?!何かあってからじゃ遅いんだッ」
僕と同じ立場にいた仙蔵に文次郎が釘を刺す 。
その言葉はその場の全員に
刺さって抜けなかった 。
そして 、沈黙の間を壊したのは
いつも通り暴君だった 。
「よぉし!答えは決まったな?
きっと 、答えはひとつしかないだろう 。」
「そうと決まれば 、
さっそく五年を呼んでくるぞ!」
返事を聞かずに小平太は
いけいけどんどんに走り去っていった 。
そんな姿からか 、僕たちは少し笑がこぼれた
「……..あのぅ..先輩方 、お話って??」
あまりの静けさに限界が来たのか
五年生を代表して兵助がそう問いかけた 。
『…..ごめんね 、急に呼び出して
少し 、喜八郎について話があって 。』
「え?喜八郎ですか?」
そう驚く様子の五年生 。
みんなが喜八郎へ向けるその思いが
今から伝えることで
変化してしまうかもしれない事が
なんとも悲しくてこちらが苦しい 。
僕が 、伝えるはずなんだけれど 。
いつまでも言わない僕を見越して 、
仙蔵が口を開いた 。
「先日 、私達は喜八郎を尾行した 。」
「 「 「 「 「えっ 、尾行!?!」 」 」 」 」
『ちょちょ仙蔵っ 、語弊があるよ……』
「ふん 、別に語弊など無い 。
喜八郎が何者かと会っているという報告があり
それを確かめるために尾行したんだ 。」
「え?!喜八郎まさか 、恋人いんの?!」
「嘘 、マジですか……ショック。」
「えー 、まぁ可愛いしそりゃあいるよなぁ 。」
「お?お前ら 、勘違いしてるな!
喜八郎は彼氏とあってるんじゃなくて 、
アヤメ城のヤツと密会をしていたのだ!!」
────────── は?!!
「….す 、すいません 。取り乱して….」
「あぁ 、大丈夫だ 。俺らもそうなったし 。」
「…..お 、おい兵助ッ!戻ってこい!!」
「….へ 、ぁ….勘右衛門 、おれ…….うそ 。」
『ごめん….皆が喜八郎を想っているのを
知ってたのに言ってしまって 。
でもこれは…..みんなの 、
お前たちの力が必要なんだ 。』
「…..頭を上げてください 、先輩 。
少し気が動転しそうでしたけど 、
先輩方は悪くないんですし…」
「なんだ 、竹谷 。
随分と喜八郎が悪いみたいな言い方だな」
「え….いやっ 、だって……!
喜八郎は裏切ったんでしょう….?
そりゃあ 、喜八郎はスキですよ 。勿論 。
でも 、裏切られた以上 、敵同然じゃないですか」
そう 、八左ヱ門が言った途端 。
空気がどっと重くなっていくのを感じた 。
きっと 、八左ヱ門が喜八郎のことを
堂々と「 敵 」と言ったからだろう 。
でも 、そんな空気にもっとモヤがかかる
「言っちゃ悪いですけど 、
私も八左ヱ門の意見には賛成です 。
そんなのに付き合わされてたら私達 、
その城の人に呆気なくやられちゃいますよ」
「ちょっと 、言い方があるでしょ 。
でも 、僕もふたりと同意です 。
なんっつーか 、許せないです喜八郎を!!」
「…..もそ 、何故だ 。」
「何故って 、言いたくないですけど…….
絶対 、色んな人を泣かしますよ 。喜八郎は 。
昔から 、喜八郎は掴めなくてムカつく時は
ありますけど 、何も言わずそんなこと
するなんて 、一発殴らないと済まされない!」
「………まぁ 、尾浜の言うこともわかる 。
だが殴ったら私が容赦しないからな」
「じょっ…冗談ですよぉ!!」
「…….兵助は?」
「おっ…..おれは 、、」
「わかんない 、わかんないよ………
信じたいよ。でもそれじゃあダメなんだよ 。
いま 、喜八郎には裏切ったっていう
証拠しかなくて 、逆にそれを潔白できる
証拠がないんだ 。それで喜八郎を信じたって
きっと喜八郎は嬉しくないんじゃないかな 。」
涙を流しながら兵助はそういった 。
きっと 、それは本心だったんだろう 。
兵助が落ち着いて 、最後は雷蔵の話になった
「えぇ?僕….ですか 、うーん 。
僕は 、当事者じゃないので 。あんまり兎や角
決めていいものじゃないなって思ってます 。
なので 、信じる信じないは置いておいて
僕は 、綾部喜八郎の帰りを待っていたいです 。」
「雷蔵……..」
『ねぇ 、みんな 。ひとつ約束ね 。
喜八郎を信じる信じないで仲間割れはやめてね 。
そんなんで下級生が真似たら 、もし喜八郎が
戻ってきた時 、可哀想じゃないか 。
自分がされたらやな事はしないよ 。』
皆が 、僕の言ったことに頷いてくれた 。
その動きだけで 、少しは気が緩んだ 。
すると今度は 、仙蔵が再び話を出した 。
「で 、喜八郎について話はしたまでだが 。
呉々も 、今は知らないふりをしておいて欲しい。
もちろん 、先生方と私達二学年しか
知らない為 、他言無用で頼む 。」
「も 、もちろんですよ!
あの…….立花先輩 、伊作先輩の言ってた
俺たちの力がってなんですか 、?」
「…….あぁ 、お前たちには
喜八郎の監視を頼みたいんだ 。」
「監視 、ですか?」
「監視と言ってもバレない程度に 、だ
多分 、喜八郎は只者じゃないぞ。」
「……どういう意味ですか?潮江先輩___
疑問に思った勘右衛門がそう問いかけた瞬間
スパーンッ!!と勢いよく戸が開いた 。
「なッ……何故お前たちがここにいるっ…?!」
「…..滝夜叉丸 。」
「水臭いですよ 、七松先輩 。
なぜ 、あの馬鹿の一番な私に言わないのです」
「いや…..それは 、まだはやいと思って 。」
「はやいって……それじゃあ
同年代の喜八郎はどうなんですか??」
珍しい小平太の濁った返答に
さらにまっすぐ問いかける滝夜叉丸 。
一体 、ふたりはどこまで聞いていたんだろう
「…….話をきいたのなら 、
責任を負わねばならないのだ 。
田村 、お前はそれをできるのか?」
「勿論です 。私ですよ!?
私は忍術学園のスーパーアイドルなので!!」
「田村もそう言ってるんだ 、そう固くなるな 。」
そう仙蔵が言えば 、小平太がふたりの肩を
ガッシリと掴んで離さなかった 。
「よぉし!一緒に喜八郎を助けるぞー!」
「 「 お、おー? 」 」
「声が小さいぞ!!!」
はい!!!ってまた覇気のある返事をした
ふたりにもう一度 、先日の話をした 。
話したあと開口一番に放ったのは
滝夜叉丸からの謝罪だった 。
「…..喜八郎が申し訳ございませんでしたッ!!」
『えっ?!なんで謝るの 、顔を上げてよ?!
滝夜叉丸のせいじゃないし 。
それに 、まだ決まってるわけじゃ…..』
「ですがッ!」
そう謎な言い合いをしていれば 、
再び勢いよく戸が開いた 。
「みんなぁ〜!大変大変ッ!!」
「….タカ丸さん?どうしたんですか 、」
「あれ兵助くん?!えー皆ここにいたのっ!?
探したよー!!ってそんなバヤイじゃないの!」
「……..タカ丸 、落ち着け 。」
「あっ 、ごめん〜汗
じゃあ守一郎代わりに言ってくれない??」
「え!?オレですか!?」
「?守一郎 、どうしたんだ?」
「あっ ….あのですね 、食満先輩方 、」
「喜八郎がッ … 喜八郎が居なくなりました!!」
──────────────── はぁあ!?!!!
その日を境に 、綾部喜八郎の姿は
忍術学園から惣然と消えた 。
そして 、もう誰も 、落とし穴のトシちゃん 。
なんて可愛い穴は存在しなくなった
学園内では 、すっかり裏切り者の喜八郎 。
今は 、裏切ったように見えるかもしれないけど
お前がきっと戻ってくるって
僕は信じてるからね 。喜八郎 。
「…….詰めが甘いんですよ 。七松先輩 。」
「そうか….そうかっ!!」