「――ねぇ稚菜」
「何?」
「昼間さ、男の人と一緒に居たよね? 見かけない顔だったけど、誰なの?」
「え? ああ、実はね、友達の彼氏の先輩らしくて、私のこと見たときに一目惚れしたとか言われて……連絡先聞かれたり、世間話をしてたんだ」
「……へぇ……そうなんだ?」
その日、友達の彼氏の先輩だという人と一緒に居たところを見たと指摘されて私が経緯を説明をすると、始めはどこか興味なさ気な反応が返ってきていたのだけど、
「連絡先、教えたの?」
「うん、断る理由も無かったし――」
連絡先を教えたのかと問われて「うん」と答えた刹那、
「……え?」
何故か私は陽向にカーペットの敷いた床に押し倒されていた。
あまりにも一瞬の出来事過ぎて状況が飲み込めなくて私が固まっていると、
「ねぇ稚菜、何でそんなに無防備なの? そんな、よく知りもしない人間に連絡先を教えちゃ駄目じゃん」
私の腕を掴んで押し付けると、陽向は上に跨りながらよく知りもしない相手に簡単に連絡先を教えたことを咎めてきた。
いつも温厚で優しい陽向。
だけど私や奏多が間違ったことをすればきちんと叱ってくれる、しっかり者。
確かに、いくら友達の彼氏の知り合いだからと言っても私にとっては知らない人。
でも、友達の手前断れなかったし、連絡先くらい今時普通だと思う。
それなのに、陽向はそれが気に入らなかったようで、いつになく険しい表情を浮かべながら問い詰めてくる。
「あの、陽向?」
「ねぇ稚菜、その男とはやり取りしてるの?」
「え、……あ、うん、少しだけ……」
「もしかして、会う約束したりしてないよね?」
「!」
その言葉に私は反応した。
確かに陽向の言う通り、来週末に二人で会う約束をしたのだ。
乗り気では無かったけど、相手がどうしてもというので、仕方なく。
だけど……、
一緒に食事して映画を観るだけだからいいかななんて気楽に考えていた私がいけなかったのかもしれない。
「きっと稚菜は、ご飯食べたりするくらいならいいや――とか思ってるんだろうけどさ、相手はそうは思ってないかもしれないよ?」
「え……?」
「男はね、好きな女の子を前にしたら、少なからず邪な感情を持つものなんだよ。稚菜は可愛いし、隙もあるし、無防備なところも多いからさ――心配なんだよ、俺は」
「ひ、陽向……」
「俺はずっと稚菜の傍に居たから、稚菜のことはよく分かる。押しに弱い稚菜がこうして男に組み敷かれたら、抵抗なんて出来ないよね?」
「陽向、腕、……痛いよ」
目の前に居るのは陽向なのに、まるで知らない人みたいに冷たい瞳をしている。
私の腕を押さえつける手に力が篭って、痛さもあるけど怖さの方が大きくて、
「陽向、退いて? 手、離して?」
私の上から退いてもらえないかお願いしてみるけれど、
「奏多ならまだしもどこの誰だか分からない男なんかに稚菜は渡さない。稚菜の全てを知っていいのは――幼なじみの俺や奏多だけなんだから」
陽向は私の言葉に耳を傾けることなく顔を近付けて来ると――
「ひ、なた……、やめて……ッんん」
そのまま私の唇を強引に奪ってきた。
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