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コメント
17件
読み終わったあとの鳥肌やばいッッ
うぎゃあああああああああああああああああぁぁあああ⤴︎ 尊いッ!!!!!上手いッ!!!!やばいッ!!!!!!!!!!
、、、何でそんな書くのうまいんだッ! 天才か?いや、、神だな?()
『俺だけだと思ってた…』
第一章:青の孤独
放課後の教室には、窓から差し込む斜陽と、机に残された消しゴムのかけらが、ただ静かに存在していた。誰もいないその空間に、青はひとり佇んでいた。
「僕なんて、いなくなっても誰も困らないよね」
ぽつりとこぼれた言葉は、自分にすら届かないほど弱々しかった。教室の隅、いつもの席に座りながら、青は頬杖をつき、ぼんやりと窓の外を眺めていた。夕日が校庭を染めるのを、ただ黙って見ているだけ。
心の内はずっと曇っていた。
人と関わるのが苦手で、会話も続かず、周囲と比べては落ち込む毎日。唯一、水と過ごす時間だけが、心にほんの少しの明かりを灯していた。
水は誰にでも分け隔てなく優しい。明るくて、真面目で、でも時々ふざけてくれる。そんな水の存在に、青はいつしか惹かれていた。でも同時に、それが苦しかった。
「水の優しさは、俺だけのものじゃない」
そう思うと、胸の奥が締め付けられる。期待してしまう自分が嫌だった。
その時、教室のドアが軋む音を立てて開いた。
「……青?」
振り向くと、水がいた。制服の第二ボタンを緩めたまま、息を弾ませていた。きっと、探してくれていたのだろう。そう思うだけで、青の胸が少しだけ熱くなった。
「何してるの、こんなとこで」
「……別に。ただ、帰りたくなかっただけ」
青は視線を逸らし、わずかに肩をすくめた。水はそんな青の隣に、何も言わずに腰を下ろす。
しばらく沈黙が流れる。
「……最近、元気ないね」
その言葉に、青の喉がぎゅっと締めつけられた。気づいてたんだ、水は。
「ねぇ、無理して笑わなくていいよ。僕、青のそういうとこ、ちゃんと見てるから」
その一言に、青の心の堤防が崩れかけた。
でも、泣いてしまったら、自分の弱さを認めてしまいそうで。
「やめてよ、水……そんな優しくしないで」
「どうして?」
「期待しちゃうから……水が、俺のことを特別に想ってくれてるって、錯覚しちゃうから……」
そう絞り出すと、青は唇を噛んでうつむいた。
水は黙っていた。けれど、次の瞬間。
そっと、青の肩に手が添えられた。
「錯覚なんかじゃないよ、青」
その声が、あまりに真っ直ぐで、優しくて。
青は目を見開き、初めて水の方をまっすぐ見つめた。
胸が痛いほど、何かが揺れた。
第二章:気づいた想い
日差しが和らぎ、秋の風が吹き始めたある昼休み。中庭の片隅、校舎の陰で水は青を見つけた。青はベンチに座り、文庫本を読んでいたが、水の姿に気づくとそっと本を閉じた。
「……また、見つけられた」
「青を見つけるの、得意なんだ。もう習慣になってるし」
水が軽く笑うと、青の表情がわずかに緩んだ。
「最近、ちゃんと眠れてる?」
何気ない問いのようで、それは水の本気だった。青はしばらく沈黙したのち、ぽつりと答えた。
「……ううん。夜になると、胸が苦しくなって……眠れないんだ」
「誰かに話した?」
首を横に振る青。その姿に、水は思わず拳を握った。
「青、僕に言ってよ。こうやって、黙ってひとりで苦しむくらいなら……僕を頼って。僕は、青の味方だよ」
青は驚いたように水を見つめた。心のどこかで、ずっと望んでいた言葉だった。
「……水は、誰にでも優しいから。俺だけじゃない」
「違うよ。僕が、君にだけ特別なの、気づいてなかった?」
水の声は静かで真剣だった。その響きに、青の胸が熱くなる。
「毎朝、君の姿を探してる。休み時間、つい目で追ってる。放課後、君が無事に帰るか心配してる。……それってもう、ただの“友達”じゃないよ」
青の目に、涙が溜まり始める。ぽろぽろと落ちる雫を、水はそっと指先で拭った。
「僕は、青のことが好き。ずっと、君のそばにいたい」
「ほんとうに……?」
青の声は震えていた。けれど、その目はまっすぐ水を見ていた。
「うん。嘘じゃない。君が信じられなくても、僕が何度でも伝えるから」
青はうつむき、肩を震わせながら、小さくうなずいた。
水の腕がそっと伸びて、青の背中を抱きしめる。
初めて触れ合う体温に、青は静かに目を閉じた。
それは、ようやく心が溶け始めるような瞬間だった。
第三章:交わる鼓動
あれから数日が経ち、青と水は少しずつ、けれど確実に距離を縮めていた。
廊下ですれ違えば、ほんの少し微笑み合い、昼休みには一緒にベンチに座って、言葉少なに時間を過ごした。誰にも気づかれないような静かな繋がり。でもその静けさが、ふたりにとっては確かな温もりだった。
ある日の放課後。水は青を校舎裏に呼び出した。誰にも邪魔されない、ふたりだけの場所。
「青、ちょっと来てくれる?」
「……うん」
春の風がやわらかく吹き抜ける。
水は制服のポケットから、小さな紙袋を差し出した。
「これ……ずっと渡したくて」
青が袋を受け取ると、中には手編みのブレスレットが入っていた。青い糸で丁寧に編まれている。
「青の色。僕が青を想ってるって、ちゃんと形にしたかった」
青の喉が詰まったように息を呑んだ。
「……こんな、僕に?」
「“こんな”じゃないよ。僕は、青がいい。青じゃなきゃ、だめなんだ」
水の声はまっすぐで、揺るぎがなかった。その言葉を受け止めると、青の目にまた涙が溢れた。
「……ありがとう、水。こんな俺を、大事にしてくれて」
水は青にそっと歩み寄り、彼の手を取った。
「これからも、僕のそばにいてくれる?」
「……うん。俺でよければ、ずっと」
その答えに、水の顔がふわりとほころぶ。
「じゃあ、ちゃんと言うね。青、僕と付き合ってください」
青は一瞬、信じられないような表情を浮かべたが、すぐに笑みをこぼした。
「……よろしくお願いします」
その瞬間、ふたりの間に流れた空気が、確かに変わった。
繋いだ手が熱を帯び、心の奥の孤独や痛みを、そっと溶かしていくようだった。
これまでの日々がすべて、この瞬間に繋がっていたのだと、青はようやく信じることができた。
そしてふたりは、春の夕焼けに包まれながら、そっと指を絡めた。
第四章:再生の春
桜が満開の季節が訪れた。校舎の窓から見える花びらは風に舞い、空に溶けていくようだった。そんな春の朝、青はいつものように水と並んで登校していた。
以前の青なら、人の視線を気にして一緒に歩くことすら避けていただろう。だが、いまは違った。水の隣を歩くその一歩一歩が、確かな“自分”を刻んでいるように思えた。
「今日、例の件、話してみようと思う」
青の言葉に、水はゆっくり頷いた。
「……うん、僕も。もう、隠したくない。大事な人を、大事だって言えるようでいたい」
ふたりが交際していることは、ごく親しい一部の人にしか伝えていなかった。周囲の目が怖かったのはもちろん、青の心の準備が整うまで待ちたいという水の配慮でもあった。
だが時間が経つにつれ、ふたりの関係は自然と表に出るようになっていった。
例えば、教室で交わす視線。廊下ですれ違うときの小さな会釈。昼休みの席がさりげなく隣同士になっていること。
そんな“ささやか”な証が、ふたりを取り巻く空気を少しずつ変えていった。
――そして、ついにその時が来た。
昼休み、屋上。水は黒、白、赤たちの前に立ち、少し緊張した面持ちで言った。
「みんなに話したいことがある。……僕と青は、付き合ってる」
一瞬、沈黙が流れた。
それを破ったのは、赤だった。
「知ってた」
「え?」
「いや、だって明らかだったし。あいつ、青のこと見てるとき、わかりやすいんだよ」
それに続いて、黒が微笑を浮かべながら言った。
「水、お前のことだからちゃんと誠実に向き合ってるってわかるしな。別に驚かないよ」
「むしろ祝福してくれる?」と白が冗談交じりに尋ねると、水は緊張が抜けたように笑った。
「……うん。ありがとう、みんな」
青は隣で、目を潤ませていた。仲間に受け入れられるという、ただそれだけのことが、これほどまでに温かいものだとは思っていなかった。
その日の帰り道、青はぽつりとつぶやいた。
「俺、変われたかな」
「ううん、元から優しいままだよ。ただ、自分を大事にできるようになった。それだけ」
水の言葉に、青は顔を伏せて笑った。
やがて迎えた卒業式の日。
青は在校生代表として送辞を読むことになった。壇上に立った彼の姿はかつての彼からは想像もできないほど凛としていた。
「――人との出会いが、俺を変えてくれました。苦しい時、寄り添ってくれた人がいた。怖がらずに手を取ってくれた人がいた。だから今、俺はここに立っていることができています」
その言葉に、水は静かに涙をぬぐった。
式が終わった後、誰もいない教室でふたりは顔を合わせた。
「卒業、おめでとう」
「ありがとう。……水と出会えて、本当によかった」
ふたりは自然と近づき、互いの額をそっと重ねる。
「これからも、ずっと一緒にいよう」
「うん、俺もそう思ってた」
窓の外では、桜の花がまた舞い始めていた。
あの孤独だった日々も、傷ついた心も、すべてが今へと繋がっている。
ふたりはもう、ひとりじゃない。
そしてこの春から、同じ未来を歩いていく。
再生の物語は、いまここに静かに幕を下ろした。