アクアside
下駄箱を開けたら、卒業した筈の有馬からの手紙があった。どうやら、俺に話したい事があるらしい。
ルビー)先輩から呼び出された!?
アクア)あぁ
放課後、ルビーと帰る予定だった俺は、有馬に呼び出された事を伝え、先に帰ってもらうことにした。
ルビー)だから、今日は一緒に帰れないんだ
アクア)…ごめん
少し寂しそうにするルビーに、罪悪感が募る。
ルビー)全然大丈夫!その代わり、何があったか後で教えてね!
アクア)分かった。有馬に内緒だって言われなければな
ルビー)はーい!またね、お兄ちゃん!
アクア)気をつけて帰れよ
元気よく走っていくルビーをみて、ほっとする。
それにしても、どうして有馬に呼び出されたんだ。別に悪い事はしてないと思うけど。まさか、アイドルを辞めたいとか……
アクア)…それは嫌だな
あれ、なんで今、嫌だって思ったんだ…?
有馬side
中々来ないアクアに痺れを切らしそうになりながら待っていると、少し遠くからアクアの姿が見えた。
いつでも来い、星野アクア…!
アクア)有馬。待ったか?
有馬)いや、今来た所よ
アクア)そうか
めっちゃ嘘。本当はSHRが終わった瞬間、爆速で走って来た。
アクア)それで、用ってなんだ?わざわざ手紙で
知らせなくても、連絡先交換してんのに
有馬)手紙で渡したかったの
アクア)別に良いけど、まるでラブレターみたいで驚いただけだ
いきなり核心をつかれ、目を見開く。アクアは怪訝そうな顔をしながらも、心配そうにしている。
有馬)…そうよ
アクア)有馬?
有馬)私、アクアに大事な話があるの
アクア)っ……
有馬)わ、私ね……
大丈夫、大丈夫だから……!
アクア)有馬、待ってくれ
有馬)えっ?
少し焦ったアクアの声に、思わず変な声が出た。アクアの方をみると、何故か顔を真っ青にしたアクアがいた。
アクア)お前、アイドルを辞めたのか……?
有馬)……はぁ?
ダメだ。なんか今日はダメな気がする。確かに、アイドル辞めるって言ったけど、まだ続けるわよ!そんなプツンと辞める訳ないでしょ!?
アクア)俺を呼び出したから、てっきり勧誘された時の恨みを晴らされるのかと……
有馬)私をどんな人だと思ってるの!?
アクア)…ごめん
コイツ、自己肯定感無さすぎなんじゃないの?放課後に女の子に呼び出されるのって、告白だって思うんじゃ…いや、普通の男子はそうだろうけど、アクアはないわ。
有馬)あー、やめやめ
アクア)あ、有馬…?
有馬)もう良いわ。また次の機会に伝えるから
アクア)大事な話じゃなかったのか?
アクアのその言葉に、つい苛立ちが募る。
有馬)大事だからこそよ!ちゃんとした時に伝えなきゃ意味ないの!
私はそう吐き捨て、走って帰ろうとしたが、アクアに腕を掴まれた。
アクア)っ、有馬!
有馬)…なに?
あっ、やばい。不機嫌そうな声出しちゃった。アクアも若干涙目だし、どうしよう……。
アクア)余計なこと言って悪かった
有馬)……
アクア)だから…やり直しで悪いけど……もう一度、俺に伝えてくれないか?
真剣な目で語りかけてくるアクアに、思わず惚れ直してしまう。コイツ、意外と可愛いじゃない。
有馬)…し、仕方ないわねー!2度目はないから、よーく聞きなさい!
アクア)あぁ
有馬)……
大丈夫よ、有馬かな。息を吸って…吐いて……よし!
有馬)星野愛久愛海。私と付き合ってください
私はそう良い、右手をアクアの方に差し出す。心臓が出てきそうな程にバクバクしてる。緊張で瞑っていた目を開け、アクアの方をみる。
有馬)…何よ。その反応
そこには、顔を真っ赤にして、狼狽えているアクアがいた。そんな顔もするんだ、ちょっと可愛い。って思ったのは内緒。
アクア)い、きなり過ぎるだろ……
有馬)アンタの余裕そうな顔を崩したかったのよ
アクア)こんな時でも性格が悪いんだな
少し緊張が解れてきて、アクアと普通に話すことができた。さっきまで緊張してたのがバカみたい。
有馬)で、返事は?
アクア)返事…今じゃないとダメか?
有馬)別に今じゃなくても良いわよ
アクア)…少し考えさせてくれ。明日には応えるから
有馬)えぇ。待ってるから
アクアにそう言って、帰ることにした。
ルビーside
お兄ちゃんより先に帰ってきた私は、お兄ちゃんのことを考えてた。あの日、あの映画を公開した後、お兄ちゃんは復讐を終わらせてた。私たちの父親であるカミキヒカルはお兄ちゃんの手によって死に、世間をざわつかせた。ニュースでも取り上げられ、暫くは自由に外に出ることも出来なかった。あと時は辛かったけど、隣にお兄ちゃんがいたから安心できた。今は色々と落ち着いて、学校に通うことも出来るようになった。お兄ちゃんはまだ心の病気が完全に治ってないけど、いつかは元気になって、あの頃みたいに笑って欲しいな。
アクア)ただいま……
ルビー)おかえり〜
私はリビングを出て、お兄ちゃんの方に向かった。お兄ちゃんの姿をみた瞬間、目を見開いた。
ルビー)お兄ちゃん、先輩と何かあった?
明らかに学校の時と違う。見た感じ悪いことではなさそうだから安心したけど、気になってしまう。
アクア)…有馬に告られた
ルビー)おぉ!先輩に告られ…告られた!?
まさかの出来事に面を食らう。
アクア)……
あ、これマジなヤツだ。
ルビー)…取り敢えず、私に話してよ。まだ告白に応えてないでしょ?
アクア)あぁ。そうする
いつもはお兄ちゃんが淹れるけど、今日は先輩と色々あって疲れてるだろうから、私が淹れることにした。お兄ちゃんみたいに上手には出来ないけど、それなりには美味しい筈だ。
ルビー)はい、ホットミルクで良かった?
アクア)大丈夫だ。ありがとう、ルビー
ルビー)どういたしまして!
お兄ちゃんがホットミルクを飲んでほっとしてるのをみて、私も嬉しくなる。美味しそうに飲んでくれて嬉しいな。
ルビー)それで、先輩にはなんて言われたの?
アクア)『星野愛久愛海。私と付き合ってください』ってストレートに言われた
ルビー)思ってたよりストレートだぁ……
やるじゃん、先輩。もっとしどろもどろに言ってるのかと思ったよ。
アクア)それに、いつの間にか本名を覚えてたんだよ有馬の奴……
お兄ちゃんの呟きに、私はある事を思い出した。
ルビー)それ、多分私が言っちゃったせいかも。この前先輩に『アクアの本名はなんて言うの?』って聞かれたんだった!
アクア)成程な。それくらい、有馬は本気なんだな
思い悩むお兄ちゃんをみて、私は質問してみることにした。
ルビー)お兄ちゃんは、先輩のこと好き?
アクア)…分からない。俺には愛が分からないんだ。有馬のことは、多分、好きだと思う
ルビー)ふーん。曖昧だね
アクア)悪いとは思ってる
お兄ちゃん、昔からそうだよね。ママみたいにのらりくらりと躱すところは、本当にそっくりだよ。
ルビー)先輩の告白、受けてみたら?
アクア)っ、でも……
不安そうに口を噤むお兄ちゃんは、本当に誠実だと思う。もっと他の人たちみたいに、軽くなっても良いのに。重すぎるんだよ、お兄ちゃんは…心配になるくらいに。
ルビー)大丈夫。お兄ちゃんも先輩のこと好きだよ
アクア)自信満々だな
ルビー)まぁね!ずっと、お兄ちゃんをみてたんだから!
呆れたようにそう言うお兄ちゃんに、私は笑顔を返した。でも、寂しくなるな……。
ルビー)…愛されてるね、せんせ
アクア)さりなちゃん……
ルビー)少し、妬けちゃうなぁ
ルビーとして、お兄ちゃんを応援しなきゃいけないのに、さりなとしての私の気持ちがそれを阻止しようとする。
アクア)さりなちゃんは…良いのか?自惚れてるとは思うが、君は僕が好きだった……
ルビー)うん。前世でも、今世でも…私はせんせの事が、アクアの事が好き
星野ルビーとして、星野アクアへ向けた恋愛感情。天童寺さりなとして、雨宮吾郎へ向けた恋愛感情。この2つの恋愛感情は同じようで違くて、違うようで同じ。
ルビー)でもね、アクアにはもっと広い所をみて欲しい。あの病室の中だけじゃなくて、この家の中だけじゃなくて……
私にはアクアしかいないけど、アクアそうじゃない。あかねちゃんもいるし、先輩もいる。
ルビー)とにかく!アクアがもう終わった復讐に囚われずに、幸せになって欲しいって事!
アクア)…ありがとう、ルビー
アクアのその言葉に、さらに悲しくなる。でも、泣かない。アクアの目の前では絶対に泣かない。
ルビー)ねぇ、最後に一つだけ、お願い聞いても良い?
アクア)良いよ
ルビー)先輩にまだ返事してないなら、最後にキスさせて。そしたら、諦めるから
アクア)…分かった
アクアは目を閉じ、キスを静かに待ってる。私はアクアの口にそっと優しくキスをしたあと、舌を入れる。そこまでされるとは思わなかったのか、アクアは目を見開いて驚いている。快感に負けたのか、すぐに気持ちよさそうな声を上げた。この顔を先輩に見せるんだと思うと嫌になるけど、私が決めた事だからそこは割り切ろう。
ルビー)せんせ、アクア…愛してたよ
アクア)あぁ。俺も…愛してた
暫く抱きしめ合った私たちは、それぞれの部屋に戻っていった。
ルビー)っ、先輩…アクアを、幸せにしなかったら怒るからね……
あと、名字を有馬に変えたらぶっ殺す。
あかねside
久しぶりにアクアくんと会う事になった私は、いつも以上にオシャレをした。良い知らせじゃないって事は分かってる。でも、最後までアクアくんにとって良い人でありたいと思うのは普通でしょ?
あかね)そっか…かなちゃんと付き合うことになったんだね
アクア)……
申し訳なさそうにしているアクアくんをみて、つい笑みが零れてしまう。
あかね)そんな顔しなくても良いのに
アクア)その、あかねには、色々と振り回したから……
あかね)私は、アクアくんに振り回されたなんて思ってない
それに、それ以上に……
あかね)…幸せだったよ
アクア)あかね……
かなちゃんにアクアくんを取られちゃったのは寂しいけど、それが2人の出した答えなら、私は応援しなきゃ。
あかね)じゃあ、私はアクアくんとかなちゃんを応援しなきゃだね!喧嘩しちゃったら話聞くよ?
アクア)…あぁ。ありがとう
ほっとしたように笑うアクアくんをみて、私も笑う。恋人としてじゃなくても、アクアくんと笑い合えるのなら、私はそれでも良い。
あかね)で、かなちゃんの事はまだ有馬って呼んでるの?
アクア)いや、かなって呼んでる
あかね)へぇ〜!どんな経緯があったの?
そう聞くと、アクアくんは何故か顔を赤くした。
アクア)…少し、恥ずいからこっちに来い
あかね)えっ、う、うん……
恋人じゃなくても、耳に囁かれるのにはドキッとする。その相手が元恋人なら尚更。
アクア)『かなって呼んでくれるまでやめないから』って言いながら腹をずっと触られた
あかね)……うん?
恥ずかしさが吹っ飛んでいくのを感じる。思っていたより凄いエピソードだった。
アクア)……
さらに顔を真っ赤にして俯いてる…えっ、可愛い。かなちゃん、絶対にアクアくんを幸せにしてね。
あかね)かなちゃんって、意外と大胆?
アクア)…そう、みたいだな
終わり