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#ダンジョン
#学園
「……ええ。なんだ、あれは」
皇宮まであと2分。
直線距離にして500メートルまで接近していた南雲は思わず足を止めた。
目指していた皇宮が、なにやら黒い膜に負われたかと思えば、砂で作った城を子供が踏みつぶすがごとく、あまりにも呆気なくこの世から姿を消したからだ。
南雲には、何が起きているのかは分からなかった。
だが、誰が何を起こしているのかは心当たりがあった。
『南雲さん。一応、報告があるんですけど、聞きます?』
「それ、聞かなくてもすぐに答え分かるヤツじゃないのか?」
これは山根の心遣いだった。
角を曲がっていきなり死体が転がっている様を目撃するのと、「角を曲がった先に死体が転がっていますよ」と前置きされるのでは、心臓にかかる負担はかなり変わる。
南雲修一、37歳。
協会本部の健康診断では異常なしの優良な肉体を持っているが、だからと言って今この瞬間に心臓が止まらないとも限らない。
『逆神くんがですね、スキルの名前は不詳ですが、阿久津にデカいのをお見舞いしちゃいまして。サーベイランスが4基壊れましたよ。でも、どうにか種別だけは分かりました。重力操作系のスキルですね』
「君の前置きが長い時って、だいたいオチは簡潔で、私が酷い目に遭うパターンだよ。私だってバカじゃないんだから、いい加減に学習するよ」
『阿久津が今まさに死にそうです!!』
「そら見た事か!! もう予想通り!! だって、皇宮が目の前で消失したからね!!」
南雲は山根との通信よりも、まずは現着を優先させるべく再び走り出した。
2つ角を曲がると、チーム莉子の乙女たちがいた。
見れば、莉子が倒れているではないか。
南雲は慌てて駆け寄った。
「こ、小坂くん!? なんてことだ! 阿久津にやられたのか!? さすがの逆神くんでも、パーティーメンバーの身までは守り切れなかったのか!!」
「あー、南雲さん! これはですねー。六駆くんにやられたんですにゃー」
「みみっ! 逆神師匠の不意打ちで小坂さんは倒れたです!! みっ!」
「ごめんね、ちょっと意味が分からない。逆神くんは何をしてるの?」
「んー。愛の告白ですかにゃー。お金に対して。それを莉子ちゃんは曲解してしまったのですにゃー」
クララの説明を聞いてなお、南雲には意味が分からなかった。
なぜか莉子が正体を失くして、それをやったのは六駆だと言う。
意味が分からなすぎたので、南雲は彼女たちが精神操作されているのではないかと考え、思わず『双刀・雲晴』を取り出して晴刀で2人を回復したほどである。
言うまでもなくクララも芽衣も正気であり、体力、気力、煌気に余裕もある健康体。
南雲の混迷は深まるばかり。
『南雲さん。南雲さん。ちょっと、なんでそこまで行って立ち止まってるんですか』
「いや、山根くん。小坂くんが倒れていたから。ただ、事情を聞いても意味が分からなくてだな。困っていたんだ」
『えっ? 南雲さん、まだチーム莉子に意味を求めていたんですか!?』
「うん。そう言われると、なんだか私が間違っている気がしてきた!!」
続けて山根は「早いところ皇宮……だった場所に突入して下さい。サーベイランスもこれ以上は近づけません」と南雲に伝える。
サーベイランスは南雲の作った機械の中でも特に自慢の逸品で、そこが火山の中だろうが、マリアナ海溝の底だろうが稼働できるというのが売りだった。
そのご自慢の逸品が、もう4基壊れたという。
あまり積極的に近づきたくない場所なのは確かだが、南雲は行かねばならぬ。
それは、彼が監察官だから。
一歩踏み出して視界に入ってきた光景は、彼の血圧を急上昇させたのち、急降下させた。
実に危険な症状なので、特にご高齢のご家族がいる諸君は、冬の風呂場などで気を付けてあげて欲しい。
南雲は特殊な訓練を受けているので、どうにか耐えきった。
その視線の先には。
「あれ? 南雲さん! 遅かったですね! この、ええと、うん! 500万さん、とりあえずボコボコにしときましたよ!!」
最高の笑顔で『麒麟の黒雨』をなおも放出し続ける悪魔がいた。
南雲は心の中で絶叫していた。
「もうヤダ、この子! 何なの!? すっごく楽しそう!! もうヤダ!!」
だが、紳士らしくギリギリのところで口からは出さなかった。
諸君、お手すきの方は是非とも拍手を。
絶叫の代わりに、六駆に質問する。
「阿久津はまだ生きてるのかな?」
「どうでしょう? とりあえず、今も地面に埋まり続けてますよ!! あはははは!! 見て下さい! あんなに埋まって!! いやー、ウケますねぇ!!」
南雲は「スキルの解除をしてもらえませんか?」と、目の前の悪魔に敬語で、丁寧にお願いした。
◆◇◆◇◆◇◆◇
六駆が煌気の放出を止めると、皇宮だった瓦礫が一瞬浮かび上がる。
彼の周囲10メートルは、その円の外と比べて激しく陥没していた。
「ま、まあ、何にしてもだ。逆神くんが無事で良かった。ずいぶんと苦戦したみたいだね」
「本当ですよ! 僕、500万円を相手に戦ったのって初めてで!! いやぁ、こんなに苦戦したのは、異世界転生を初めてした時以来かもしれません!!」
南雲には六駆が何と戦っていたのか未だに理解できないでいたが、多分考えても理解できないだろうと結論付けて、彼にしては珍しく議題そのものを放棄した。
「阿久津の身柄を確保しなければ。……逆神くん」
「生きてると良いですね! じゃあ、引っ張り上げます! 『一本釣り』!!」
ズズズと嫌な音がして、ボロボロになった阿久津が地中深くから取り上げられた。
次の瞬間、阿久津の目が開く。
「くはっ! 南雲ぉ! この瞬間を待ってたぜぇ! 逆神ぃ!! 『金色結晶・北極星』!! どうだぁぁぁ! 『結晶外殻』の全エネルギーを圧縮させた、俺の切り札だぁぁぁぁぁ!! くはははははははっ! 油断したなぁ、お前……らぁ……? ——あぁ?」
阿久津浄汰の切り札は、逆神六駆が片手で受け止めていた。
「南雲さん、これどうしましょうか? 結構すごいですよ。爆発させたら、帝都が丸ごと吹き飛ぶくらいの破壊力があります。危なかったですね!! はは!!」
「うん。本当にね。君がいなかったら、多分私、今の一撃で死んでたよ。いやぁ、もう、世の中って広いなぁ。ああ、じゃあその凶悪なスキルは上空に飛ばしてくれる? 安全な場所までしっかりと高くお願いね」
すると六駆は「じゃあ、僕が直接行って来ます!」と言って、『激跳躍』で上空2000メートルほどまで飛び上がった。
気圧がどうしたとか、そういう話をし始めるとキリがない。
多分、逆神六駆にお付き合い下さっている諸君は、無言で頷いてくれているだろう。
「この辺りでいいかな? うんうん。本当に、エネルギー量は結構すごいなぁ。これを不意打ちで喰らってたら、僕でも打撲したかもしれない。危ないなぁ」
上空で独り言を呟いたおじさんは、「ふんっ」と右手を握り、力を込める。
「最期は綺麗にね! 戦争の終わりって事で、この国全土に見えるように! 『豪拳』アレンジ! 『連続打上花火拳』!!」
阿久津の最後の一撃は、文字通り彼の最期を告げる祝砲として六駆に活用された。
ルベルバックに巨大な花火が咲く。
2年にもおよんだ悪夢から目覚めるには、少しばかり眩しかっただろうか。
コメント
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第129話、読み終わりました…! もうね、冒頭から南雲さんの「もうヤダこの悪魔」がぴったりすぎて笑っちゃいました(笑) 皇宮が消えて、莉子さんが倒れてて、しかもその原因が六駆さんの“愛の告白(お金に対して)”って、意味不明すぎて南雲さんの混乱に全力で共感しましたよ…。 最後の花火、阿久津さんの最期の一撃を“打ち上げ花火”にしちゃう六駆さんの余裕がすごいし、ちょっと切ない終わり方も胸にきました。お疲れ様でした!