……皆さんこんばんは。御宿です。突然すみません。今回は雑談から入らせていただきます。興味ねぇよという方は飛ばしてください。
……始めます。
実は私部活に入っておりまして。点数を競う競技の部活なんですが、昨日今日で新人・旧人戦があったんですよ。この競技、最高点が10.9なんですが、私何を思ったのか4点とかいうたわけた点数出しちゃって、あえなく入賞逃しちゃったんですね…。それさえなければ入賞してファイナルまで行けたのに。本当馬鹿ですね。
ということで今回の話は自分に対する怒りに任せて書き上げました。だから文法・内容共に散々になっています。しかも長め。あと初っ端からちょいグロめです。無理だなって思ったら読まずにスマホを閉じてください。何卒……
※十七話目。続き。
⚠️流血・嘔吐表現あり。旧国出ます。戦争賛美、政治的意図共にありません。
1991年、冬─────
…………赤い色は、好きだ。
美しい朝焼けと夕焼けの空の色、全てを焼き尽くす、浄化の炎の色、大地を照らす太陽の色。それと同時に………血の色、苦痛の色、苦しみの色。
だがそれ以前に、俺の色でもある。俺の存在証明、俺の生きた証。それが赤という色なのだとしたら。
「……………」
口許を押さえていた手をゆっくりと離す。吐いたものを受け止められるように軽く丸めていた手のひらには、自分の肌の色よりもなお赤い血が溜まっていた。黒い革の手袋越しにも、その不快な生温かさが伝わる。
(赤い色を愛すべきなら……この、血の色をも受け入れ、愛さなきゃならないのか……?)
口の中が、吐瀉物の絡まりついた鉄の塊を舐めしゃぶらされているような味がする。その味を認めた途端、再び、吐き気が胸の奥から一気に突き上げてきた。
「………っ」
慌てて口許を覆う。胃の収縮を感じた途端、今までの比ではないくらいに酷く咳き込んでいた。
「うっ、ゴホッ……ゲホッ、ゲホゲホゲホッ…‼︎ ゴホッ……ヴッ、ゔぇっ……おぇえ゛ッ……‼︎」
よろめいて体勢が崩れる。思わず、近くにあった机の端をキツく握りしめ、身体を支えようとしていた。そのせいで机の上に半身を乗り出すような格好になってしまう。しまった、と思った時にはもう遅かった。机上に置かれていた書類に、手から溢れ出した血が大量に落ちて付着してしまっていた。
「はっ…………はぁっ、………んっ………はぁ……」
一瞬で血の海と化した机上を見やる。肩で息をしながら、書類書き直さなきゃだなとか、部下に渡すはずだったものを、全く面倒臭いことをしたとか、能天気なことを考えている自分がいた。
「ッ……‼︎ 」
不意に、世界がぐるんと反転した。膝から力が抜け立っていられなくなり、たたらを踏んでその場にしゃがみ込んでしまう。心臓の音がうるさかった。まるで耳の中で鼓動しているようだ。
息を切らしつつ、苦笑いを漏らした。
「……はは、………は……」
最早俺も、ここまでということか。
ふと、息子たちの顔が浮かんだ。
「…………」
あの子たちの成長を見届けられず、俺は……死んで行くのか。
「………っ」
そんな考えを振り払うように頭を振った。辛うじて汚れていない左手で机の端をグッと掴むと、震える両足を叱咤し、ゆっくりと立ち上がる。小刻みに痙攣する手から、血反吐に塗れた革の手袋を外すと、そのまま机の書類の上に放り投げた。ビチャ、という厭な音がした。それからティッシュペーパーを何枚か引き出すと、口許を覆った。それだけで吐き気が込み上げそうになったので、軽く口許を拭ってからすぐにそれは捨てた。
「……………」
顔を上げると、大量の赤が目についた。
目の前の惨状に目を覆いたくなる。机の上一面、椅子、その下の床にまで多量の血が飛び散っている。まさに血の海と形容せざるを得なかった。しかし、これだけ吐血してもすぐには死なず生きながらえているのは、自分が国であることの産物であること以外、何ものでもない。
片付けしなきゃ、と誰にともなく呟く。未だあまり言うことを聞かない脚を踏み出しかけようとした、その時だった。
カチャン
………部屋のドアの、蝶番の音。
「……………っ⁉︎⁉︎ 」
バッと振り返る。そんなはずはない、まさか、とは思ったがそのまさかだった。部屋のドアが開き、廊下からの明るい光が暗い部屋の中に一筋の光の道を作っている。そして、そこからこちらを覗き込んでいる小さな人影───。
その小さいシルエットは、ちょっとだけ身じろぎした後、掠れた声を上げた。
「……お、とう…………さん……………?」
か弱くてか細い声。すぐにわかった。何人もいる子供たちの中で、一番よく聞いてきた声。この、少し震えて元気のないような、良く言えば純粋な可愛らしさだけで構成されているような声。そんな特徴的な声で話すのは、あの子しかいない。
「え…………?」
まさか。冷や汗が背を伝った。心臓が早鐘を打ち出す。父親は、震える声で名を呼んだ。
「……っ、ろし、あ……………?」
「………っおとうさん」
ドアが開く。瞬く間に暗い部屋に光が雪崩れ込んだ。小さな人影が、逆光でその表情が見えないシルエットが、転がるように、一目散に自分に向かって駆けてくる。
「……とうさん……とうさんっ、とうさんとうさんとうさん‼︎‼︎‼︎ 」
「ロシア……⁉︎ 」
しゃがみ込んだソ連の胸の中に飛び込み、ロシアは悲鳴のような声を上げた。
「とうさん!とうさんさっきの何⁉︎ なんで、なんであんなに血が出てたのとうさんから⁉︎ ねぇなんで⁉︎ なんでなんでなんでっ‼︎‼︎ とうさんどこか悪いの⁉︎ ねぇとうさん死んじゃうの……⁉︎ っやだっ……やだやだやだっ‼︎‼︎ そんなのやだ!ぜったいにいや‼︎ 死なないで、死なないでとうさん!やだ、やだよぉ…………‼︎‼︎ 」
「……っ、」
やはり、見られてしまっていたのか。
ソ連の胸の中、火がついたようにロシアが泣き出す。ソ連のコートを握りしめた小さな手が、小刻みに震えている。ソ連は、あまりにも小さな息子を抱き抱えたまま、未だ痙攣の治らない手でその頭を撫でた。
「ロシア………俺、は、大丈夫………だから。大丈夫。大丈夫だよロシア………」
ロシアの耳元で優しくそう言った。しかしロシアは悲痛な泣き声を上げるだけだ。おそらく混乱しているのだろう、今はただ泣いて周囲の音をかき消すことによって、自分にこれ以上情報を入れることを拒否しようとしている。ロシアの頭を撫でながら、ソ連は同じ調子で優しく囁き続けた。
「大丈夫、大丈夫………俺は、大丈夫だから。なぁロシア、一回………顔上げろ、な?」
「っヒッ、うぁ……ぁああああ………」
泣きじゃくりながら目をめちゃくちゃに擦るものだから、表情が見えないどころか、ロシアは顔を一向に上げようとしなかった。ソ連はロシアを抱え直すと胡座をかいて座り、ロシアがまだ赤ん坊だった時のように優しく揺すり上げた。
「ロシア……大丈夫、だよ。お前が心配することは、何も、無い、から………大丈夫、大丈夫、大丈夫…………」
「……っ、んぅ……ぅぁああん……ぅあああ……」
自分の胸に頭を押し付けるように、強く、強く抱きしめてやる。
「ロシア………大丈夫、だか、ら………お願いだ、泣き止んでくれ………」
「っヒグッ、うぁ、ぁぁああああ………っあああっ、ぅあぁあああああっ‼︎ 」
「……?」
突如勢いを増した泣き声に微かな違和感を抱いて、ソ連はロシアの顔を見ようとした。しかし顔は、やはり見えなかった。小さな両手が顔を隠してしまっている。青い右手と赤い左手からは、涙がひっきりなしに溢れ出ていた。せめてと思って、手を伸ばしてウシャンカを取ろうとした。ロシアの額には、自分の眼帯に入っているマークと同じものが刻まれているはずだった。
しかし、次の瞬間。
「ッぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああああっ‼︎‼︎‼︎ 」
ソ連の手がロシアのウシャンカにかかった刹那だった。ロシアが絶叫した。ソ連の違和感は確信へと変わった。
(おかしい……!一体……何が)
全身の毛が逆立ったような感覚をソ連は覚えた。喉も裂けよとばかりに絶叫し続けるロシアを前に、ソ連はとにかくロシアを抱きしめることしかできなかった。精神的負担が重すぎたせいで、一時的にキャパオーバーとなり、発狂しかけているものと考えたからだ。
「ロシアッ!大丈夫だから!大丈夫‼︎ 大丈夫……落ち着けロシア!俺の顔見ろ、な⁉︎ 」
そう叫んだが甲斐なく、ソ連の胸の中でロシアは顔を押さえて悶絶し、絶叫する。そのうち、ロシアの言葉の中に何か言葉が混じっていることに気づいた。
「っゔぁあああああああ!痛い!痛い痛い痛い痛い痛い痛い‼︎‼︎ とうさっ、ぁあ゛ぁああああああああああああっ‼︎ かおっ、かおがっ、痛、あぁあああああああああああああああッ‼︎‼︎‼︎ 」
ソ連の顔が青ざめた。
「顔だと………⁉︎ ロシア‼︎ 言うことを聞け‼︎ 今すぐ手をどかせ!俺に顔を見せろ‼︎ 」
その時だった。
今まで、美しい青色だったロシアの右手。ソ連の見ている前で、その色が、ずるん、と変わった。ソ連は一瞬、ロシアの手の皮が指先から全て剥け、剥がれ落ちたのかと思った。それほどまでに、強い赤色……まるで血のような、ソ連の赤色よりもなお赤く、力強い色合いの赤に変化したのだ。ふと左手を見ると、こちらも同様、今までより強い赤色に変化している。
(⁉︎ )
一体、ロシアに何が起こっているんだ⁉︎
心臓と、耳鳴りの音がうるさい。呼吸が荒くなる。しかし、胸を潰されるような恐怖混じりの畏れと心配とは裏腹に、ロシアの絶叫は弱まっていった。波が引くように、声が小さくなってゆく。
「ッ、うぁっ……ああぁ、ああ………はっ、はあっ、はぁ………あぁぁ…………」
度を越す痛みを経験したがあまり、ロシアは息を切らしていた。
「………ッロシア………」
ソ連が声をかけると、ロシアは、やっと、その小さな手を顔からどかした。しかし、そこにあったものに、ソ連は自分の目を疑った。
「…………え……?」
もはやロシアは今までのロシアとは違っていた。その涙ぐんだ目が自分を見ているが、到底、ソ連はロシアの変化についていけなかった。
「………っ、とう、さ………ん」
ロシアが手をこちらに伸ばしてくる。まるで、抱っこをせがむ赤ん坊のように。しかしソ連は、ただただ唖然とロシアの顔を眺めるばかりで、その手を取ってやろうとしない。………否、取ってやれなかったのだ。
ロシアの顔は、今までは右側三分の一ほどが水色がかった青色、残りが赤色だった。いつもはウシャンカに隠れてしまっていて見えなかったが、額にはソ連のマークが金色で刻まれていた。瞳の色は透き通るような青色だったが───、今、随分と変わってしまったロシアの顔に受け継がれたのは、その瞳とその色だけだった。
ソ連は口元を押さえた。空いている方の手で、ロシアのウシャンカを取る。
「……………、…………‼︎‼︎ 」
見えたものに息を呑んだ。
白、青、赤。白と青と赤の三色が目を射た。美しい色が、目の覚めるようなその色が、今の、ロシアの顔だった。父親と同じあのマークは額から消え去っていた。
ロシア・ソビエト。これが今までの彼の名前だった。それが、ロシアに変わった瞬間だった。
「………っロシア、お前っ………」
ガクガクと震える手で、ロシアの顔に触れようとした、その時だった。
半分ほど開いたドアの向こうから、悲鳴と叫声の入り混じったような大絶叫が聞こえてきた。まるで、苦痛をそのまま固めたかのような声だった。ソ連は咄嗟に立ち上がった。
(まさか………)
声は多分リビングからだ、リビングには、おそらくロシア以外の全ての子供たちがいる。一瞬のうちにロシアを抱き抱えると、ソ連はドアを蹴破る勢いで書斎を走り出た。長い廊下を駆け抜け、突き当たりの階段を駆け降りる。この時ほど、書斎とリビングが遠いと思った時は無かった。
「皆っ…………‼︎ 」
バン!と大きな音を立ててリビングのドアを開けると、ソ連はすぐさま中に飛び込んだ。……と、見えた景色に一瞬、彼は体を凍り付かせた。
部屋にいた子供達のうち、半数が床に倒れ、うずくまって啜り泣きのような泣き声をあげていた。残りの半分ほどは、呆然とした顔で立っているか座り込んでいるかしており、皆、一様に涙を流していた。
「ベラ……?カザフ⁉︎ ジア……アゼルッ……‼︎‼︎ 」
子供達の名を叫んだソ連は、ハッとしたようにすぐに、一番近くでうずくまっていた子に走り寄った。フード付きの上着を着ているせいで頭部は見えなかったが、そのうずくまった格好から誰なのかは容易に予想できた。加えて、すぐ近くにボロボロに引きちぎられたヴィノクが散乱していた。痛みを堪えようとしたあまり力任せに引きちぎったのだろう、それを見ただけで、いかにその子が痛みに耐え苦しんだかが手に取るように分かる。ロシアを抱いていない方の腕ですぐさまその子を抱き抱えると、ソ連は声を震わせて叫んだ。
「おい!ウクライナ⁉︎ しっかりしろウクライナ!目を開けろ!ウクライナッ‼︎ 」
「…………」
ソ連に身体を揺さぶられ、ウクライナがゆっくりと顔を覆っていた腕を退けた。怯えたように涙に濡れた瞳がソ連を捉える。くしゃ、と顔を歪めたウクライナは、弱々しい声で父親を呼んだ。
「………っ父さん……」
「…………‼︎ 」
ソ連は下唇を噛んだ。
黄金に勝るとも劣らぬ上品な黄色と、青空をも凌ぐような素晴らしい紺碧。目に焼きついて離れない、力強い二色。これが、今のウクライナの色だった。
ロシアと同じ変化が、ウクライナにも起こっている。
腕の中にいてこちらを見上げているその子は、もはや、ソ連の知るウクライナでは無かった。
コメント
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構成国たちが苦しみながら独立していく様子がすごく辛い… 特にロシアの叫び声には鳥肌が立ちました。 とても勢いのある文で毎度のことですが読みやすかったです。ありがとうございます。 (グルジア・ソビエトのことをソ連が「ジア」と呼んでいることに その後の国名変更でジョージアになっても変わらない「ジア」の部分 を残す御宿さんの気遣いを感じました。好き)