ここは校舎の中庭。そこにはベンチが2、3個設置されており、お弁当を食べたり、読書をしたりするのにうってつけだ。
輝はここをとても気に入っている。いつも学園の生徒や教師に愛想ばかり振り撒いてばかりいるので、ここにいれば教師はおろか生徒すらあまり来ないのだ。来ると言っても自分に告白をしに来る女子ぐらいだ。だからいつも輝はここで読書をしている。静かに一人の時間を作れるからだ。
今日もここでいつものように読書をしているとどこからか足音が聞こえてくる。
足音なんていつもの事だから気にしていなかったのだが、段々とその足音はこちらに近づいてくる。
また誰かが自分に何かを言いに来たのか?と思っていると「あっ」という聞き馴染みのある声が聞こえてきた。
その声のするほうを振り返れば後輩の八尋寧々だった。
彼女は旧校舎の女子トイレに居座っている七不思議の7番、通称「花子くん」というやつと仲良くしている生徒の一人だ。
八尋は恐らく輝と同じように読書でもしに来たのか本を持っていた。
輝がこんにちはと挨拶すると彼女も同じようにこんにちはと挨拶を返してくれた。
「源先輩ここで何してるんですか?」
「読書だよ。八尋さんは?」
「私も同じです」
八尋はにこっと笑ってそういい奥のベンチに座った。
二人とも読書をするのに夢中なのでその場はシーン…と静まり返っている。
風の音や、生徒達の話し声、足音、いろいろな音が聞こえてくる。
ふと八尋の方を見遣る。彼女は読書に夢中でこちらの視線には気付いていない。
八尋は邪魔だったのか横髪を耳にかける。輝はその様子を見て胸がドキリと跳ねる。輝が見惚れていると視線に気が付いたのか八尋が恥ずかしそうになんですか?と問う。
「あの、私になにか付いてます?」
輝は問いかけにハッとしてなんでもないよと取り繕う。
そうですかと安心したような顔で八尋は言いもう一度読書に戻った。 輝も同じように読書に戻った。
心の中で 決してこの気持ちを気づかれぬように、悟られぬようにと願いながら。
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