街を歩いていた。
そこから前の記憶はなく、またこれから先の記憶もないだろう。
朝の街は死んでいた。何も変わり映えがなく、悪く言うならつまらなかった。
この街も、この街に住んでいる人もみな死んでいる。息をしていない。音を立てていない。
そんな死の世界を壊したのは私の歩く音だった。否、そう思わせた。生きた者が、たった一人死の世界に迷い込んだ。否、私が死んだのか?
隣の家の中から聞こえるラジオの音。誰かがSOSでも届けにきているのかな。
街の中に人はいた。だけどまるで私が存在しないかのように接した。たまに反応する人もいた。
つまり、つまり、つまり、つまり、つまるところ、私はもう死んでいて霊感がある人だけが私と接しているんじゃないか。
ここが死の世界と思い込んでいる地縛霊なのかもしれない。
故に、私の世界。私だけの世界。その世界に、その世界を作った私が引きずり込まれる。溺れる。息ができなくなる。
私の世界は、簡単に言えば水の膜の内側の空間だ。私の声や環境音ではその膜を割ることはできない。誰かが明確に私へ話しかけたという前提がなければ割ることはできない。
そうして、私はその世界の住民じゃない私になる。寝ると夢の中の私が起きて、起きると夢の中の私が寝るようなことだ。
ねぇってば。
起きてる?ちゃんと起きないと怒られるよ。
今は誰もいないんだからさ。
貴方が出てこないとただの独り言になるし。
呼吸?してるよ。
してるって感覚はないけど。
貴方なら分かるはずだよね。
呼吸を認識した後の呼吸のしづらさ。
だから今も喉を渇きを感じないよ。
私が認識していなければいいの。
認識していないことを認識すると無意味。
その認識することを認識することを認識することを認識することを認識することを…
入れ子構造苦手だったっけ。
無駄に頭が疲れるから?
だってこうすれば簡単に人の思考を壊せる。
対処法はただ一つ、考えないこと。
たまには思考なんて捨てないの?
……。
思考することは嫌いだし好きなのか。
めんどくさいね。
じゃあお手本を見せてあげる。
問題出すよ。
あくまで例えばの話。
貴方の目の前に暗闇があって、そこから物音がしたら何がいると思う?
正解は猫。
明かりをつけるまで可能性があるものは全部存在している。
こんな考え方でいいの。
それ以上は必要ないでしょ?
……、ちょうどいいじゃん。
起きて、遅刻するし怒られるよ。
コメント
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登校中、静かな街を歩いていると、私が歩いている音がその静寂を壊している気がしてどこか怖かった