「本條――いい?」
「…………」
一之瀬の『いい?』が何を意味するのか分からない程、子供じゃない。
頭では拒まなきゃいけないと分かっているのに、「駄目」の二文字が答えられない。
肯定も否定もしない私を前にした一之瀬は、
「今日だけは、酒のせいって事にしよう? 俺もお前も酔ってた、そのせいで、こうなった――ただ、それだけって事に」
優しく囁くような声でそう口にした。
私たちが酔ってなんかいないのは一目瞭然なのに、お酒のせいにするなんて……とは思ったけれど、もうそれでいいと思った。
だって何かを理由にしなければ、その先には進めないし、すっかり熱を帯びた私の身体はもう、一之瀬を求めてしまっているのだから。
答える代わりに小さく首を縦に振った瞬間、再び一之瀬は唇を塞いできて、さっきよりも強引な口付けをする。
「ッんん、……ふぁ、……ッ」
そして、両手で頭を撫でられたと思ったらその手は髪を掬いながら耳、首筋へと下がっていく。
「――っんん!?」
擽ったさに身を捩ると、今度は舌を強引に口内へ捩じ込ませてきて、キスは激しさを増していく。
勿論、ディープなキスなんて初めてじゃないし、これまで付き合った人とは何度も経験した。
けど、これまで経験したものとは比べ物にならない程、初めてキスが心地良いものだと思ってしまった。
(何これ……キスって、こんなに気持ちよくなれるもの、なの?)
それとも、やっぱり私はまだ、酔っているのだろうか?
(もう、どうでもいいや……)
そう思った私は自身の両腕を一之瀬の首へ回していく。
「本條って、結構積極的なんだな?」
「……こういうの、嫌?」
「本條がしてくれるなら、何でも嬉しいよ――」
「ッんん……」
なんて言うか、今目の前に居る一之瀬は、一之瀬じゃ無いみたい。
(一之瀬ってこういう時……すごく優しい顔するくせに、すごく……強引なんだ……)
再び口を塞がれ、何度も何度も角度を変えながらキスが繰り返される。
そして、何度目か分からない口付けの後、背中に回された一之瀬の両手に支えられながら身体を起こされ、向かい合う形になった。
「……一之瀬……」
「……何つーか、スゲェ緊張する……」
「……何、それ……ッ」
つい先程まで余裕たっぷりだったはずの一之瀬の意外な台詞に驚きつつも、ブラウスのボタンに手を掛けられて一つ、また一つと外されていく度に、これから一之瀬に抱かれる事を想像すると、恥ずかしくなる。
(……本当に、いいのかな……)
自分の事なのに、まるで他人事みたいに映るこの光景。
ボタンが全て外されたブラウスを脱がされ、目を覚ました時同様下着だけを纏った姿になる。
「あ……、あのさっ! 後は、じ、自分で……脱ぐから……その……私だけ裸とか……恥ずかしいから、一之瀬も、その……自分で、ズボン、脱いでよ……」
何だかブラジャーまで一之瀬に外されるのが恥ずかしかった私はそう言って全力で身体を押し退けた。
「……分かった」
自分で言っておいてなんだけど、今の私の台詞だと、何だかやる気満々みたいに思われなかったか不安になる。
(何これ……何か、もの凄く緊張するんですけど!?)
経験無い訳じゃないのに、まるで初めてするみたいに心臓がバクバクと音を立てている。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、一之瀬は私の言葉通り黙々とズボンを脱いでいるので、私も自らブラジャーを外していく。
そして、私はショーツ、一之瀬はボクサーパンツのみという格好になり、私が恥ずかしがってなかなか向かい合えないでいると、
「――本條」
「……ッん、」
後ろから抱き竦められ、耳元で名前を呼ばれた私は擽ったさと緊張からピクリと身体を震わせ、漏れ出そうになった声を我慢した。
「俺との事、真剣に考えてよ」
「……こんなこと、されて……そんな風に言われても、……ッ」
「俺ならお前の事、絶対離したりしねぇけど?」
「そんなの、分かんない……じゃん……」
「絶対だよ。だってお前、凄く魅力的だし、他の男に触れさせたくなんか、ねぇもん」
「……ッや、」
耳元で話していたと思ったら、舌で耳朶を舐めた一之瀬はそのまま首筋へと舌を這わせていく。
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