俺は気に入ったバスターソードをカウンターへ戻しガンツに話しかけた。
「これが気に入りました」
「ほほう、見る目は持っておるようじゃな。儂もそれがいいと思うぞ」
「それで幾らで譲っていただけますか?」
さてさて、如何ほどと言われるのか内心ヒヤヒヤである。
「10万バースと言いたいところじゃがタミさんの知り合いなら95000バースでいいぞ」
うぉー、なかなかのお値段。
まぁ、日本刀でも100万、200万円はザラにするからなぁ。名工のようだし妥当な金額であるのだろう。
「今、お金の持ち合わせがありません。それで……、これを引き取ってもらうことはできますか?」
俺は例の物を (ミスリル・インゴット) 手渡してみた。するとガンツはそれを見て固まっている。
「こっ、こいつをどこで手に入れた。どこじゃ!」
「何処と言われてもおいそれとは答えられませんが、この国ではありません。先日来たばかりですので」
「もしや、まだ持っていたりするのか? 持っているなら売ってくれ。頼む!」
……う~ん、どうしてこうも必死なんだ?
「良かったら、訳を聞かせてもらえますか」
「おお、そうじゃったの。よその国からではわかるまいの」
「それがのぉ、この国ではミスリルが出なくなって久しいんじゃ。近年では外国から僅かしか入って来ん。それにこのクラス (純度) のミスリルなんぞ儂でも数回しか見たことがない。だから持っておるのなら譲ってくれんか。商人に渡ってしもうたら儂らでは到底手が出せんのじゃ」
そのように、切実に訴えてくるのである。
なるほどね、欲しくても手に入らないのか。確かに一番必要としているのが鍛冶職人なのかもしれないな。
それに、もともとが売るつもりであったし、これも何かの縁だよな。
よし、いいだろう。幾つか売ってみようか。
「あと2つだけあります。ただ俺の名前を出してもらっては困りますよ。そうすることで誰に迷惑が掛かるかは分かりますよね?」
少し脅してみるとガンツはコクコク頭だけを振っている。
俺は懐から出しているように見せ、インベントリーからミスリルを2つ取り出した。
ガンツは、またカウンターの奥に引っ込むと今度はすぐに戻ってきた。
手には立派な革袋が握られている。
そして、中から取り出したのは直径8㎝程の大きい金のメダル?
鑑定すると ”クルーガー金貨” と出た。それが4枚。
「これで何とか頼む」
「バスターソード (片手半剣) の代金はどうなりましたか?」
「もちろん込の値段じゃ」
「この国ではそれ程の価値があるんじゃ。知らんじゃろうがその塊一つで普通のミスリル合金ソードが20本は打てる。ほんの少し混ぜるだけで硬度が増し切れ味が格段に上がるんじゃ。魔法剣にするには配合の比率がだいぶ上がるがそれでも5本は打てる。とにかく貴重なんじゃ」
「そうですか。それなら、また手に入るようなことがあれば真っ先にガンツさんに届けますよ」
クルーガー金貨が入った革袋を懐に納める。
そして、バスターソードは鞘と柄を両手で持ち押し頂くようにして受け取った。
「ガンツでいい。儂もゲンと呼ぶ。おぬしはなかなか面白い奴じゃな。物腰も立ち居振る舞いも、とても若者とは思えんわい」
そう言って豪快に笑いながらバシバシと肩を叩かれる。――普通に痛い。
そして、鞘に入ったバスターソードを左手に持ち宿屋へ帰る。
なんかもう、この後の買い物などはどうでもよくなった。
ただただ、無性に嬉しくってワクワクするのだ。
帰り道だし、お礼も言いたかったので再びタミねーさんの八百屋に寄ることにした。
「はい、いらっしゃい!」
振り向きざまに声を掛けてくる。お客さんだと思ったんだねぇ。俺がニコニコして、
「こんにちは! 今戻りました」
そして、バスターソードを掲げてみせる。
「なーんだ、あんたかい。しかし、本当にガンツに認められるなんてねぇ」
などと言っている。――失礼な!
でも、つかみのところはタミねーさんなんですよねぇ。
「いやいや、本当にタミねーさんのお陰ですよ!」
「かぁ――っ。おべっかはいいからしっかり買っていきな」
そう言って商品を指差してきたので、くだものを中心に葉野菜なんかもたんと買い込んだ。
そしてタミねーさんは帰りに、
「また、おいでよ!」
ポンッとリンガを投げ渡してきた。――プラムだけど。
『あぁ~、何か良いよなぁ。こんなやり取り』
なんて思いながら俺たちは宿屋へ足を向けた。
つき合ってくれたシロには乾物屋の露店で干し肉をたくさん買ってあげた。
お陰でシロもご満悦の様子だ。
程なくして俺とシロは宿屋に帰って来た。1階のテーブル席にはまだ誰もいない。
夕食の時間までは少し間があったので、宿の人に許可をもらい裏庭で剣を振ってみることにした。
剣についてはもちろん素人なのだが、高校生まで剣道をやっていたので素振りぐらいはできる。
たしか、『剣道とは違い足元まで振り下ろす』とかラノベ小説に書いてあったのを思い出した。
暫し何も考えることなく素振りを行なった。
身体頑強とレベルアップのお陰でわりと楽に振ることができる。
打ち込むまでは軽く持ち打ち込む瞬間に力を入れる。200回程気合を入れて振り抜いた。
剣を鞘に納める。この素振りぐらいは毎日やろうと心に決めた。
井戸で顔を洗い部屋にもどった。
ベッドに腰掛け水筒の水を飲む。フライパンに水を入れシロの前にも置いてやる。
そして、本日手にした『クルーガー金貨』をインベントリーから1枚取り出し繫々と眺めてみた。
これは凄いな! 存在感が半端ないぞ。ついニヤニヤしてしまう。
この竜のデザインが王国の紋章なんだろうか……。
ハァー、いつまで見てても飽きないなぁ。今なら『いいね』100回は押しただろうね。
それにしても、この純ミスリルの塊 (インゴット) が3つで約500,000バースとは恐れ入ったな。
う~ん。 女神さま ありがとうございます。
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