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――学院入学前夜
魔術大会から、一年。
その一年は、驚くほど早く過ぎていった。
私は王立魔法学院へ入学するまでの間、
ほとんどの時間をノクティス公爵邸で過ごしていた。
魔法の制御訓練。
魔力量の調整。
光と闇、それぞれの性質の理解。
加えて――
魔法理論。
歴史。
数学。
語学。
貴族としての礼法。
(……詰め込みすぎでは?)
そう思わないでもなかったけれど、
誰一人として「ほどほどでいい」とは言わなかった。
「基礎は、積み重ねた分だけ裏切らない」
リヒトはそう言い、
父も母も、無言で頷いた。
「もう倒れる心配はないな」
父がそう言って、珍しく表情を緩める。
(よかった……)
心から、そう思った。
――けれど。
「……だが」
父は私の顔をじっと見つめ、再び真顔になる。
「別の問題がある」
(……はい?)
母も、深刻そうに頷いた。
「ええ。とても深刻です」
ユリウスお兄様が、嫌な予感しかしない顔をする。
「……なに?」
「可愛すぎる」
「……は?」
思わず、間の抜けた声が出た。
「成長して、なおこの容姿」
「しかも学院という、目の多い環境」
「……狙われますね」
エリオスが、冷静に補足する。
(魔力の話じゃなかった!?)
「自覚はあるか?」
父に問われ、私は正直に答えた。
「……ありません」
母はため息混じりに、でもどこか楽しそうに微笑む。
「そこが問題なのよ」
「無自覚で可愛いのが、一番厄介なの」
(理不尽では……?)
***
夜。
寝る前になり、部屋は静けさに包まれていた。
荷物はすでに整えられ、
制服もベッド脇にきちんとかけられている。
鏡に映る自分は、
一年前より背が伸び、幼さも少し抜けていた。
(……ほんとに、行くんだ)
王立魔法学院。
守られていた場所を離れ、
初めて、完全に「外」の世界へ出る。
ノックの音がした。
「入るぞ」
父と母が、静かに部屋へ入ってくる。
「明日から、学院生活だな」
「無理はしないこと」
「何かあったら、すぐ連絡するのよ」
「……はい」
母は私の頬に手を伸ばし、優しく微笑んだ。
「倒れなくなったのは、安心したけれど……」
少し困ったように、続ける。
「別の意味で、心配は増えたわ」
父も小さく頷いた。
「だが、それはお前が成長した証だ」
胸の奥が、じんわりと温かくなる。
「行ってこい、ルクシア」
「ノクティス家の娘として、しっかりね」
「……はい」
扉が閉まり、部屋には私一人。
ベッドに腰掛け、制服に視線を落とす。
明日から始まる、新しい日々。
光も、闇も。
美貌も、力も。
すべてを抱えたまま――
私は、学院へ行く。
静かな夜は、もうすぐ終わる。
物語は、次の舞台へ。