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緑茶は飲めないが紅茶は飲める
「うぅん…」
と名前は全身鏡の前で唸っていた。
「どっちのワンピがいいかな…」
ベッドの上も散々コーデを考えたから大量の洋服が山。
「…さ、さすがに冬だし初めてのデートでミニスカートはいてたらなんかあれかな…」
う~ん…と名前はいつもカウンターから手を振る安室を思い出す。
よく着てるのはセーターだし…カジュアルめにこちらもしていこうとは思っているが…
名前はちょっとによ、としてしまいベッドにバタバタした。
こうやって…恋って…してる間がいちばん楽しいんだよね…
「はあ…♡」
いつものあの笑顔が目の前で独り占めできるなんて!足しげく通った甲斐あったな~と名前は胸を押さえる。
「髪は…巻きかな…いつも通りだけど…メイクはちょっと甘めでいくか…よし!ネイルも今リボン系だからな…」
当日。車で迎えに来てくれると言われたので、名前は早めに起きてパックして、スチームを浴びながら鼻歌で支度をしていた。
「…」
鏡に映る自分を見て、名前は強く頷いた。
「最高よあなた!!」
ガッツポーズする。
「頑張って!!」
はっ、と名前は時計を見て、腰までの短いコートを出してマフラーを巻き鞄を持った。
「えっ!」
名前はマンションを出てびっくりした。車の前に安室が座ってスマホを見ていたからだ。
時間はまだ10分くらい前なのに…
「あ、安室さんっ」
安室2度見してやっと笑った。名前はもう胸きゅんで動けない。
「やっほー。まだ時間じゃないのに早くない…?」
安室時計を見た。
「安室さんこそ早いよ!寒くなかった?ごめんなさい」
名前すぐに安室の手を握った。
「…あ」
「ほら!冷えちゃってるよ!早く車乗ろっ?」
ねっ?と名前は笑顔で首を傾げる。
安室も笑って頷いた。
ばたん、とドアが閉まると急に名前はどきどきしだした。
相変わらずいい匂いだなあ…香水かなあ…
「気にしないでね」
「え?」
安室ちょっとばつが悪そうにする。
「いやあの…僕が楽しみにしすぎただけ…だから…」
名前思わず赤くなり首を振る。
「ううん。わたしもすごい会えて嬉しいっ!」
安室しばらく名前を見た。
「すごいそのワンピース似合ってるね…可愛いよ、まじ」
「ほんとっ?」
マーメイドのワンピースにした。からだの線も少しは出さないと!
「…いやあの」
「え?」
「いつも可愛いけどさ…今日はなんか…もっとなんか…大丈夫かな僕。おかしくない…?」
安室は黒で全身まとまっていて、ただ、やはりその上着では寒いのではないかと。
名前は首を振った。
「い、一応さ…これでも考えたの。名前ちゃん…いつもそういう感じだから…合わせたくて」
名前は赤くなってしまった。
「…わ、わたしもです…」
しん、と一瞬車がなり、名前はまた笑って首を傾げる。
「ならお揃いだね!嬉しいっ」
「…めっちゃいい匂いするわ。なんの匂いなんだろな…」
安室困ったように首を傾げる。
「あ。とりあえず今日はごはん食べてショッピングセンターで買い物でもしよっか?」
「うん」
名前が頷くと、暖まった車は動き出した。
「名前ちゃん喉乾いてない?」
「あ…大丈夫だよ。てもやっぱり乾燥はしちゃうよね…」
安室おもむろに、足元のスタバの袋からカップを出してきた。
「はい」
「へっ?」
「…じっとしてたら寒いでしょ…?ショッピングセンターまでのドライブのお供です」
名前思わず目をきらきらさせてそれを受け取った。じんわり指先が暖まる。
「ありがとう!」
「あと後ろに膝掛けある。今停まったら…」
「大丈夫だよ!そんなにお姫様扱いしなくても!」
名前すぐに後部座席にからだを捻る。もふもふしたそれに思わず抱き締めてしまう。
なんて幸せなデートなんだっ!
名前はるんるんしてしまう。
「…ふふ」
と安室は笑っていたが、名前は気がついた。片手で運転していて、もう片方は暖房の風が出るところに当てている。
「…安室さん寒い?」
「ううん」
安室勢いよく首を振る。
「こう見えて冷え性なの。だから、寒さには強いから、大丈…」
ぶ、で名前は自分の太ももの間に安室の手を入れた。
安室大爆笑する。
「え?!嘘でしょ!」
「すぐあったまるから…」
「いやめちゃくちゃあったかいけど!セクハラって後で言わない?大丈夫これ」
名前も笑いだしてしまう。
「言わないよ!むしろして!」
「んっ?」
名前大慌てで首を振って、髪で顔を隠して笑い続けた。
軽いと思われたかな…本当はカイロもあったけど…
「あは…あ、ありがと…嬉しいわ。素直に…恥ずかしいけど…」
しばらく車が走り、無言が続く。
「ごめん。なんか聴く?僕運転してるときは気が散るから聴かないんだけど…」
「ううん。大丈夫だよ。そ、れより」
安室さんと話してたいから…
ふ、と安室を見たら赤で停まって、安室もゆっくりこっちを見た。
「…僕もです」
にっこりして軽く頭を下げる安室に、また名前は笑う。
そのときむに、と軽く太ももを掴まれて名前は真っ赤で悲鳴を上げて手を外した。
「あははは…」
安室ハンドルに寄りかかって笑いだす。
「言われた通り、セクハラさせていただきました」
「もう!」
「めっちゃあったまった。あはは…」
「ばか!」
名前たまらず安室にぼすんと頭を埋めて叩いた。
そのまま頭を撫でられて、名前はびっくりして顔をあげる。
安室が口を開いた瞬間にクラクションを鳴らされ、車はまた動き出した。
「久しぶりに来たよ~」
名前は駐車場でドアを閉めた。
「まずはご飯にしようか?」
「うんーー」
名前思わずはっとしてしまった。完全に無意識だった。安室の腕に掴まってしまった。まだ…彼氏でもないのに。
安室を見上げたら、きょとんとしていたが膝に手をついて駐車場で大笑いし始める。
「ごっ、ごめんなさい!さっきからずっと馴れ馴れしいよね!でも悪気はな…」
「あー…あはは…いやごめん…その…」
安室ゆっくりからだを起こす。
「…あんまりにもさ…僕より先に…したいことされちゃうから…」
「え?」
安室顔を隠す。
「…もうちょっと…うん…今日僕カッコ悪いわ…」
「そんなことない!めちゃくちゃーー」
格好いい、と言う寸前で名前は口を押さえた。
こんなこと言ったら気まずくなんないかと…
「…行こっか」
名前は差し出された腕の隙間に、笑って飛び付いた。
「もうクリスマスだね…」
中でかかるジングルベルとクリスマスの装飾に、名前は安室にからだを寄せたまま上を見て歩いていた。
「…予定あるの?」
名前はむうとした。
「安室さんこそたくさんの女の子とパーティーじゃないの?」
「何それ?」
安室くすくす笑う。
「どこで吹き込まれたのそんなこと」
名前はエスカレーターに乗ったとき背中を見て思った。
そうだよね…たぶんわたしみたいな女子がたくさんいるんだろうな…
ふう…とわからないようにため息が出た。
次だってあるか、わかんないしさ。
「何食べたい?」
「あ、うん…そうだねぇ…」
「なんの気分?」
パネルをいじりながらふたりでうーん。
「…お。このカフェさ」
と安室指差す。
「ポーチドエッグのサンドイッチが話題なんだよ」
「ポーチド…?」
「ふふっ…じゃあここにしよっか」
素敵なカフェ。その通りだった。まるで海岸線にあるような、水色の窓枠や真っ白なペンキの椅子。
柔らかそうなソファにからだを預け、たくさんのカップルや女子が楽しそうに笑っていた。
通されたソファ席で、名前はクッションを抱いて笑った。
「雰囲気いいね」
「うん!癒される~」
出された水にはレモンが浮いていた。
「ほら、これ」
安室はメニューを広げ、そのポーチドエッグのサンドイッチを指す。
「へぇえ?」
「…一応僕もカフェの店員だからさ。インスタとかでよくチェックするんだけど…ポーチドエッグって作るのすごく難しいんだよね…ひとつはこれにしよっか」
名前水を飲んだ後すぐに口を押さえてから言う。
「んっ…っていうか安室さんインスタしてるなら教えて?」
「え」
安室顔を上げて言う。
「あ…でも駄目か…わたしお客さんだもんね…」
しゅんとした瞬間安室すごい速さでスマホを出した。
「全然!全然だよ!むしろいいの!?」
「むしろ?」
アッ、と安室口を押さえる。
「いやだって…ほら…逆に…カフェの店員がお客さんのプライベート見ちゃうから…」
「こっちこそ全然だよ!じゃあ今申請するね~」
「ありがと…」
「わたしはじゃあ何にしよっかな~あ、このハンバーガーにしよっかな。おっきそうだから別けて食べよっ?」
「…」
何も言わない安室に名前また顔をあげる。
「…名前ちゃんてさ」
「ん?」
「そうやって食べるもの分ける派なんだね」
「え?だって美味しいものは分け合いたいでしょ?あ、もしかして嫌な感じ?」
安室首を振る。
「ううん。僕もそっち派だからさ…同じだなって…飲み物は?」
ちょっと嬉しくなっちゃって…
「…」
「あ、すみません」
と注文する安室を名前は見つめていた。
先に運ばれてきた飲み物のカシスオレンジティーは、瓶に入っていて花とオレンジがついていて名前はテンションが上がった。
「可愛い~写真写真…」
カシャカシャしていて気づいた。意図せず安室の上体が若干写ってしまう。
「…(これ匂わせみたいになっちゃうな…わかる人はわかっちゃいそう…)」
「どうかした?」
名前笑顔ですぐスマホ裏返す。
「あのさ」
と安室。
「…今日来てくれてありがとね」
名前ジュースを飲みながら目をぱちくりする。
「いやあの…よかったなって…勇気出して誘ってさ…」
「勇気出して!?」
今度は安室がびっくりする。
「え?」
「安室さん女子誘うのに勇気いるの!?」
安室またしばらくしてテーブルに肘をついて笑いだす。
「ねぇ…だからさ…どういうこと?さっきから」
名前も半笑いする。
「いや…安室さんみたいなイケメンはそんなのホイホイできると思ってたから」
「出来ないって!まぁ…できるときもあるけどね…」
と紅茶に口をつける。
「それは…君じゃないときの話ね…」
名前はしばらく黙ってしまった。
すぐに運ばれてきた食事に目が行く。
「あ、へぇ…なんか温泉卵みたいな感じなんだぁ」
「これ作るときってさ…ずっと鍋かき混ぜてないといけないの。卵にふれないようにね…それが至難の技なの」
とろ…と溢れてきた黄身がトーストを流れていく。
「美味しそ~う!」
「待ってね…今ーー」
とフォークでそれをすくっている安室に、名前は「あーん」と言って笑顔で口を開けてしまう。
「…」
安室が手を止める。名前またはっとした。
「うわあぁ!ご、ごめんね!まだ安室さん食べてないのに…」
しかも子供っぽいよね!?最悪…と名前も急いでハンバーガーを倒してからナイフで切り始めた。
大急ぎでフォークを安室に向ける。
「はいっ!あーん…」
「…まじ?」
安室まだナイフとフォーク持ったまま動かない。
「…あ」
ちょっとして控えめに口を開けた安室に名前フォークを突っ込む。
「ん…」
「どおどお?わたしもいただきまーす!」
うんん!と名前もモグモグして頷いた。
「おいひい!」
「うん。牛ひきだね。かなり食べ応えある…全部食べられる?」
名前はさらに頷いた。
「いつまでも食べてられる…安室さんの作るナポリタンみたいに!」
安室はふと笑って、名前にフォークを向けた。
名前は素直に口を開けた。
「僕も写真撮っとこ…」
と安室。名前は気にせず大きな口を開けてハンバーガーを食べ続けていた。
「あ」
「うむ?」
「ついてるよ」
指で唇の横を擦られ、名前はまた赤くなった。
「…安室さん、いつも女子にそうやってるんだね。慣れてるもん」
「…慣れて……」
うーん…とまた安室苦笑しながらからだを動かす。
「あれ?でももしかして嫉妬しちゃってたりして?あはは…なんちゃってーーそんなわけな…」
と笑いだす安室に名前むっとしてこくりと頷く。
安室真顔になった。
「だって…目の前にいるんだよ?」
独り占めしたくなるに決まってるもん
「…」
「ふぁー!ご馳走さまでしたっ」
名前はまたクッションを抱いて寄りかかる。
名前は素直に聞いた。
「安室さんて普段は何してるの?」
はっとしたように安室顎に指をやる。
「そうだね…筋トレくらい…かな」
あははと名前は笑った。
「名前ちゃんは?」
「映画見てるよ!アマプラもネトフリも入ってるもん」
「そんなに?最近何か見た?」
「えとね…ディズニーのクルエラと…アメリカン・スナイパーと…ゼロ・ダーク・サーティ」
「わりとサスペンス系が好きなんだ。僕もそう…どっちも見たよ」
名前からだを起こす。
「最後のマヤが輸送機で泣き叫んだときやばかったよね!?」
「そうだね…胸が痛かったよ」
安室カップに口をつける。
「じゃあ今度は映画もアリか…」
「え?」
安室笑顔で首を振った。
「安室さんお家でも料理する?」
「ああ、うん。基本自炊だから。だって誰も作ってくれないからさ…」
「ふふっ…わたしね、この間無性にハッシュドポテトが食べたくてね…電子レンジでジャガイモあっためてたの…」
「茹でじゃなくて?」
「茹で時間かかるから嫌で…」
安室笑い出した。
「水分出ちゃって固くなんなかった?」
「そう!でもね…あっためてたら煙が出ちゃって…火災報知器鳴らしちゃってもうびっくり!大家さんが近いからすっ飛んで来て…本当に焦った…」
ははは…と安室も寄りかかった。
「怪我しなかったならよかったよ…」
「電子レンジが怪我したよ…」
ふたりでまた笑い合う。
「じゃあ、さ…次は…僕が作るよ…」
「え?」
「嫌じゃなければだよ!嫌じゃなければさ…」
安室は両手を出して慌てながら言う。
「う、家でさ…クリスマスとかできるかなーって…その…予定ないって聞いたから…」
ちら、と安室は名前を見上げた。
「考えてくれたら…嬉しい…です」
「…安室さんてラザニア作れる?」
「え?あぁ…うん?」
「オーブンある!?」
名前は乗り出した。安室きょとん。
「え?あ、あぁ…備え付けであるけど?」
「やった!じゃあピザ作れるね!ケーキも!」
お邪魔しまーす!と頭を下げる名前に安室顔を覆って笑った。
やった!クリスマスデートも決まっちゃったっ♡
名前はまたストローに口をつけた。
「…名前ちゃんてさ、本当に…無邪気で明るいよね…そういうところ、すごく…あのーー」
「本当に?ありがとう!安室さんもいつもセクシーだよ」
ぶっ、と安室は紅茶を吹いた。咳き込む安室に名前慌ててふきんで辺りを拭く。
「大丈夫?」
「ごめ…ゴホッ……」
「安室さんがモテるのはさ、もちろんイケメンだし優しいからだけど…それがキッチンに立ってるから余計なんだよ」
「どういうこと?」
名前は人差し指を立てて首を傾げる。
「女性ってね?キッチンに男性が立って何かしてるとセクシーに感じるものなの。よく理屈はわからないけど、そういうものなの。だからポアロのインスタには、安室さんがケーキのクリーム作ってる動画とか、フライパンふるってる動画とか山みたいにあるよ」
「えぇ?初めて聞いたよ…ゲホ…しかもそれ盗撮だよ…」
ふふっ、と名前は肩を縮める。
「ちなみにさ?男性は逆にどんなときにその女性を意識する?」
安室斜め上を見て呟く。
「…からだにぴったりしてる服を着てるときーーあぁいやっ…」
すぐ首を振る。
「そうだね…やはり自然体でいる人は魅力的だよ」
「そういうの、聞き合うの面白いよね」
名前は笑ってまた首を傾げる。
「…きみとはずっと話せちゃうな」
「わたしもっ!ふふっ…」
「何かでも見たいものはない?」
「あ、うんっ!お洋服も、コスメも、ぜーんぶ!」
名前は両手を広げた。安室は声をあげて笑った。
「じゃあ、行こっか…」
「ありがとうございました」
と店員が言った瞬間、名前は安室に手を取られた。
はっと名前安室を見上げる。
「とりあえず歩きながら見る?それともピンポイントで行く?」
なんともなさそうな安室に、名前は頭を寄せて微笑んだ。
「歩きながらっ♡」
幸せだぁ……サンタさんありがとう!
ショピングセンターを歩きながら、名前はたくさんの冬使用のマネキンを見ながら、後ろに行っては同じ服を自身に当てて見せた。
にこにこしている安室に、名前はアッ、と口に出た。
色違いのマフラーをしている女性と男性のマネキンに近寄る。
「安室さんこのマフラー絶対似合うよ!」
「え?そうかな…」
「うん!巻いてみてっ!」
名前が頭を下げる安室にそれを巻く。
「グレー似合う!これは買い!絶対!」
「ほんと?車で普段移動してるからあんまりマフラーとか持ってないんだよ」
「今日の格好にも似合ってる~」
「でもほら、じゃあ名前ちゃんこっちは?」
名前はお揃いの、少しオレンジのマフラーを巻いた。
「可愛いよ」
名前は赤くなって俯く。
「そ…かな…」
「名前ちゃんが使うなら僕も買おうかな…」
ボソリと呟いて鏡を見る安室に、後ろから名前顔を出す。
「じ、じゃあお揃いにしちゃう?」
安室笑顔で振り向いた。
「(本当にお揃いになっちゃった…)」
レジで安室の後ろにいると。
「あ、これも会計一緒で」
「!」
「すぐつけて行きます」
「安室さんーー」
しー、と安室はやる。
「いいの。今日付き合ってくれたお礼だから…プレゼントさせて」
名前は胸がきゅう。となった。
店を出て互いを見て、ふふふと笑う。
「ありがとうございます…」
「ううん。僕こそありがと…」
また手をつなぐ。しばらく歩いていたら、名前はとあるカフェの前まで小走り。
「ここの緑茶ソーダ!美味しいの!」
安室眉をひそめてメニュー板を見上げる。
「緑茶をソーダで割ってるってこと…?」
「たぶんそう!最初みんなそういう反応するんだよね!」
あはは、と名前。
「でも信じて。まじで世界変わるから」
ぶっ、と吹き出す安室。
「じゃあ騙されたと思っておひとついただきましょう…」
「ここにいてねっ」
名前はすぐレジに並び、それを持って通路に寄りかかる安室に渡した。
「…」
すっ、とすすった安室。名前をすぐ見た。
「…何これ。うまいわ」
「だから言ったじゃん!」
ははは…と名前は安室をぱしりと叩く。
そのままエレベーターを降りて行く間。
「さっきさ」
「ん?」
「【みんな】そう言うって言ってたけど…女友達、とか…?」
名前は目をぱちくりする。
「あ、うん?職場の人とか…なんで?」
「あぁいや…なんでもない…だ…誰とよく来てんのかなって思っただけ…」
「えー?」
尻窄みになる安室に聞こえず名前は首を傾げる。
「あっ安室さん!ここ寄って!」
「フランフランか…完全に女子の世界だわ…」
「うちの家具はぜーんぶ!ここので揃えてるのっ!高いけど…可愛さには勝てなくて…わ、今アナスイとコラボか~このちょっと妖しい感じ!可愛いよねぇ!」
安室はそのドレッサーに置かれている、壺に入った羽根を取り出して名前にふさふさした。
「やぁ!何し…クシュンッ!」
安室腰を折って笑いだす。
「ははは…ごめ……」
「もう!今日はマグカップを見に来たの!」
名前は安室のマフラーを引っ張った。
「可愛い~っ…蓋乗せるとケーキになるんだぁ…」
「可愛いけどさ、ちょっと使いづらくない?」
「ちょっとの不便は可愛さには敵わないよ~こっちのピンクのもいいな~」
結局ふたつ買ってしまい、肩を落とす名前に安室くすくす。
「…いつも言い聞かせてるの…キャンドルと…リップはもう十分家にあるでしょって……」
「なんかすごく想像つくよ。でもあそこアットコスメだよーー目の前プラザ」
名前は走り出した。
「わぁ~!カネボウのリップまだ品切れだよ~!」
「人気なんだ」
「発色よし、色持ちよし、唇荒れにくい。もう3種の神器だよ」
「そうか」
安室苦笑しながら店内を歩く。
「…名前ちゃんこの色は?」
「あ、Dintoの新色!可愛い~!」
「塗ってみて、そのピンク」
名前近くのメイク落としで唇落としぬりぬり。
鏡に入ってきた安室びっくりする。
「うわやべ!」
「えっ!!」
「めっっちゃ可愛いわ!!」
「ほ、ほんと…?」
名前目を細める。
「ごめん!なんならさっきつけてたやつより似合ってる!」
「えぇ~…今日は一応リプモンのクリスマス限定色を見に来たんだけど…」
「じゃそっちも塗ってみて」
またぬりぬり。
「あぁ~…こっちもいいなぁ…僕の好みじゃなくてだよ?名前ちゃんに似合うかどうかでちゃんと見てるからね?」
名前笑って頷く。
「…」
名前ふたつを持ったまま俯く。
「…どっちか1本…1本にしなさい…」
安室そう唸る名前から、ふたつを取り上げてレジに行く。
「ふたつ買いな」
「えっ!でもお洋服が…あっアプリありますーーポイント貯めたままで」
名前は歩きながら、アットコスメの袋を前に出し眺めていた。
「安室さん…こんなに買ってくれて…」
「いいよ。似合ってたんだから」
「…うん!」
名前はまた安室の腕に巻き付く。
だが一瞬思っていた。
もしかして…だからからだで払えってことにならないかな…と。
ばれないようにちらと安室を見る。
でもだとしても……
そこで安室に見られた。
「あそこだよスナイデル」
「あぁあもう…」
名前はハンガーにかかるワンピース1枚ずつを、切なげに見つめてため息をつくしかない。可愛すぎる。
また安室がくすくすしている。
「今日のもそう?」
「うん…」
「ていうかこれ…名前ちゃんスタイルいいよね…ウエストこれしかないよ…」
と両手でわっかを作る安室。
「それは言い過ぎだけどさ」
名前は笑う。
「迷っちゃうんだよいつも~…決めらんない…」
「どれとどれで迷ってるの?」
「こっちと、こっちと…これ」
安室少し離れて真面目に首を傾げる。
「いやこれはなし。レースがうるさい。名前ちゃんが埋もれるわ」
「じゃあこのふたつ?」
すると店員が近づいてきた。
「よろしければどちらもご試着いかがですか?」
「はい。是非」
と何故か安室が頷く。
名前は試着室から出て、安室の前でくるりと回った。
拍手する安室に店員が静かに吹き出す。
「ど、どうかな…」
「いい。いいよ。似合ってる。これ色違いは?」
と店員に聞く安室。
「こちらはあと、クリームです。これですね…」
「んあっ」
と安室は嫌そうに首を振った。
「次お願いします」
と言われて笑いながら名前戻った。
安室さん…本当に買い物に付き合ってくれてる…あんまり服選びに前向きな男性に会ったことがない名前は素直に嬉しくなった。
また試着室を出る。
「おぉお~…あ~…」
もう店員全員が安室の反応に笑っている。
「どう?私的にはこっちが好き」
「いや。これはかなり難しい…」
顎に手をやる安室に、店員即座に色違いを見せた。
「こちらはあとピンク…こちらですね」
「ピンクもいいな。当てるだけ当ててみて…」
鏡の前に行く名前に、安室が指を鳴らした。
「決まりだ。さっきのと、ピンク。2枚ください」
ははは…と店員は笑いながら頭を下げる。
「あ、安室さん!さすがにもうーー」
「素敵な彼氏さんですね」
名前は目をテンにした。彼氏じゃ…
「可愛い彼女でうらやましいです。うちの服は本当にお顔立ちが綺麗系よりもお客様のような方がよく似合いますので…」
「そうですよね。僕もそう思います」
と試着室で着替えていたら聞こえて、名前は人知れず赤くなりながらタイツをはいていた。
「こんなに買ってもらっちゃったよ…」
スタバで座る名前は困ったようにしていた。
どうしよう…帰り…ホテル寄るかな…
一応何があっても大丈夫にしてきたけど…
「お待たせ」
安室は目の前にカップを置く。
「ありがとう」
「今日ほんと楽しかったよ…本当に誘ってよかった」
名前首を振る。
「わたしこそこんなに…ありがとう…ちゃんと何かで返すからね!」
「いいよ…何もいらない」
安室はイルミネーションが光り出した窓の外を見る。
「でももし…また…機会くれるなら…」
そのときは、着てきてほしいな…
名前はカップを両手で持ちながら頷く。
「もちろんっ!」
安室は時計を見る。
「イルミネーションの時間になってきたか…楽しくてあっという間だったよ」
「ね。一瞬だったよ」
「名前ちゃんまだ時間平気?」
「あ、うん。全然…」
「…このあとはじゃあーー」
その瞬間だった。泣きわめく子供の声がした。
「やだ!ドーナツも食べるもん!」
「そういう約束じゃなかったでしょ!」
母親が子供の手を引くが、子供地べたに寝転がる。
「やだやだ!買ってくれるまで動かない~!じゃなきゃママなんかいらないもん
!」
「ならママは帰るからね!もう知らないから!」
「安室さん?」
がたりと安室席を立ち、すたすたと子供の前まで行きしゃがみこむ。
突然泣きわめく真似をしだした。
名前は唖然とする。もちろん店内の全員が。
「…僕今、きみの真似したんだけど。かっこよかった?」
子供慌てて起き上がり、首を振る。
「じゃあまず、叫ぶのはやめよっか?」
「…」
「ドーナツ食べたいの?なら、お兄さんが買ってあげる」
「本当に!?」
「でもさ…きみ、ママが買ってくれないならママいらないって言ったよね?」
「…」
安室にっこりする。
「じゃあ、僕が買うからママいらないね。これからはお兄さんとずーっと一緒にいようね。ママにはもう会えないよ」
子供ぷるぷると震えて、母親に抱きついた。
「ママ!ドーナツいらない!帰る!」
母親も口を開けていたが、はっとしたように安室に頭を下げていそいそと店内を出て行った。
店内が安室に言う。
「申し訳ありませんでした。こちらが対応しなければならないことを…」
「いいんですよ。子供なんてそれが仕事のようなものですから…」
店員はドーナツをひとつ包み、安室に渡そうとした。それを安室は手を出して断る。
「…でも」
「次にまた、あの親子が来たときに差し上げてください。もう、ここでそうならない約束として」
名前はすぐ荷物を持ち安室の元へ駆け寄った。
「…では」
スタバの店員含む全員が拍手していた。
ふたりは店を後にするとーー安室が名前の手を取り走り出した。
「やべぇ!何!?超恥ずかしかったんだけど!?普通じゃんあんなの!」
名前は大笑いする。
「それくらい、ヒーローだったってことだよ…」
気が付いたら外に出ていて、安室は膝に手をついてハアハアと立ち止まった。
「あ~…柄じゃないのに…」
「安室さん…」
名前はたくさんのイルミネーションで彩られた木の下で、安室の前に立つ。
わたしはーーこの人のことが……
口を開こうとした瞬間。抱き締められて荷物を落とす。
「お願い…言わないで……聞いてほしいの…」
名前が肩を持たれ離れると、安室はそばのベンチにうずくまるように座った。
「今日1日…ほんとにきみが…か、可愛すぎて……」
安室顔を覆った。耳まで赤い。
「…僕の彼女だったらって…何百回も思った……」
「安室さ…」
「…手の握り方もわからなくなってさ…荷物だって持つべきなのに…そんなこともできないやつになってた」
呆れたように安室はまた立ち上がる。
「…キスの仕方も…わからないよ」
「!」
「だから…今日のデートは…僕は失敗したと思ってる…全然クールじゃないもん」
「でもわたしは!安室さんがすーー」
瞬間、ふたりはキスしていた。
名前は目を見開いたまま。
ふっ…と離れると、安室は俯いた。
「ごめん…」
「なんで謝るの…?」
「きみが好きだ。離れたくない。帰したくない」
だけど…と安室はまた自嘲する。
「…そういう目で見てないって…本当に大事にしたいのに…今みたいにキスしたら…よくないじゃん……」
「安室さん。じゃあわたしの話今度聞いて」
名前は安室を見上げる。やがてゆっくり微笑み、その頬に手をやった。
「……もう1回して…?」
安室は目を見開いたが、同じようにゆっくり微笑んで、今度はふたりとも抱き合ったままキスした。
「…大好きだよ、透さん」
「僕もだ」
あはは…とふたりで笑う息は白く、色違いのマフラーが北風で揺れた。
「…次に会うのはクリスマスだね」
「うん!」
ふたりで荷物を持ち、手を握り、駐車場へ歩き出す。
「…クリスマスの前にもう1回会えない…?」
と不安そうな安室に名前は笑って飛び付いた。
また入ったショッピングセンターの中は暖かく、知り合い同士で買い物をし、恋人としてふたりは店を出た。