テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
黒スーツの男に案内されたのは、地下鉄の廃駅だった。看板も電気も消えた空間。
だが、奥には灯りがある。
「ここが“裏”だ。」
扉が開く。
そこには十数人の男女がいた。
誰も派手な装備をしていない。
むしろ地味だ。
スーツ。パーカー。制服姿。
だが空気が違う。
全員が、静かに強い。
「新人か。」
長い黒髪の女がこちらを見る。
「スキルは?」
「《保存》です。」
一瞬の沈黙。
そして、数人が小さく笑う。
「地味ね。」
「倉庫番向き?」
……表と同じ反応だ。
だが、奥の椅子に座る男だけが目を細めた。
「面白い。」
その男が立ち上がる。
「俺のスキルは《反転》。」
説明はそれだけ。
次の瞬間。
背後から殺気。
振り向くより先に、刃が首元へ。
(速い。)
だが俺は動かない。
保存――解除。
昨日保存した“魔物の踏み込み”。
身体を一瞬でずらす。
刃は空を切る。
「へぇ。」
刃の主は、小柄な少年だった。
「俺は《微調整》。ほんの少しだけ、ズレを作れる。」
さっきの殺気も、足音も。
全部“わずかにズラして”認識を遅らせていたのか。
地味だが、凶悪だ。
「ここはな。」
黒髪の女が言う。
「表で評価されない連中の集まり。」
炎帝も雷神もいない。
いるのは――
《遅延》
《圧縮》
《誤認》
《固定》
一見、戦闘向きではないスキル。
だが、使い方次第で世界を壊せる。
「君を試したのは、選別だ。」
椅子の男が言う。
「本当に“理解している側”かどうか。」
「理解?」
「スキルの説明文を、そのまま信じていないかどうかだ。」
俺は少し笑う。
「信じてたら、ここには来てませんよ。」
空気がわずかに和らぐ。
その瞬間。
警報が鳴った。
地下空間が赤く染まる。
「観測外ゲート発生!」
モニターに映るのは、都市中心部。
しかも――
「二重構造だと?」
表のS級部隊が出動する映像も映る。
だが。
裏の男が呟く。
「……本命は地下だ。」
俺は理解する。
囮と本命。
昨日と同じ構造。
「どうする?」と黒髪の女。
椅子の男が笑う。
「裏は裏らしく動く。」
次の瞬間。
全員の姿が消えた。
《誤認》が周囲の認識を歪め、
《固定》が足場を空中に作り、
《遅延》が崩落を遅らせる。
派手な爆発はない。
だが、世界のルールが微妙にズレていく。
地下通路。
黒い塊が蠢いている。
昨日より、濃い。
「新人。」
椅子の男が俺を見る。
「保存できるか?」
「条件次第です。」
黒い塊が触手を伸ばす。
触れた壁が“崩れた状態”で固定される。
(状態固定型か。)
俺は目を細める。
保存――開始。
触手が振り下ろされる。
直撃。
衝撃で肺の空気が抜ける。
だが俺は、その瞬間を保存する。
“崩壊した自分”。
次に、無傷の自分を解除。
世界が巻き戻る。
「ほう……」
裏の連中が、初めて興味を示す。
俺はさらに保存する。
“敵が最大出力を出した瞬間”。
それを、圧縮。
一度、二度、三度。
重ねる。
「お前、それ……」
微調整の少年が息をのむ。
俺は静かに言う。
「保存に上限はありますよ。」
嘘だ。
正確には――
“管理できるかどうか”だ。
黒い塊が、再び膨張する。
俺は保存した最大出力を、まとめて解放する。
地下が白く染まる。
轟音は、ほとんどない。
ただ、黒が消えた。
沈黙。
崩れ落ちる塊。
黒髪の女が笑う。
「新人、合格ね。」
椅子の男が近づく。
「君はもうC級じゃない。」
俺は首をかしげる。
「じゃあ?」
男は静かに言った。
「裏S級だ。」
その言葉に、少しだけ胸が高鳴る。
表では凡人。
裏では、選ばれた異常。
悪くない。
だが。
俺は空気の違和感に気づく。
「……終わってない。」
誰も動かない。
その瞬間。
地下のさらに奥。
もう一つの鼓動が鳴った。
ドクン。
昨日と同じ音。
だが、もっと近い。
椅子の男が目を細める。
「どうやら――」
俺は笑う。
「本番は、これからですね。」
闇の奥で、何かが目を開いた。
裏の実力者たちが、静かに構える。
俺は拳を握る。
保存するのは――
“世界が壊れる瞬間”かもしれない。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!