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 クレントスで1週間ほど準備してから、私たちは再び浜辺へと向かった。

 これからはクレントスと浜辺を往復して、それぞれ1週間ずつ滞在しながら発展を見守る予定だ。


 今回一緒に来てもらったメイドさんは、ルーシーさんとマーガレットさん、ミュリエルさんの3人。

 他には鍛冶屋の下見を兼ねて、アドルフさんにも来てもらった。



 浜辺よりも内陸に構えられたポエール商会の拠点に着くと、早速ポエールさんが出迎えてくれた。

 拠点はサーカスのテントのような佇まいで、必要があれば移動することもできるという。


「アイナさん、みなさん、お疲れ様です!

 急ごしらえではありますが、この拠点も前より立派になりましたでしょう?」


「そうですね、何だか馴染んできたというか……?

 そうそう、今回はアドルフさんと、メイドさんを3人連れてきました。よろしくお願いします」


「ようこそいらっしゃいました!

 何か不自由なことがあれば、お気軽に仰ってください!」


「「「よろしくお願いします!」」」


「よろしく頼むよ。

 ……それで早速、俺は鍛冶屋の予定地を見てみたいんだが……」


 アドルフさんは少しそわそわした感じでポエールさんに聞いた。

 将来の自分の店になるのだ。それは気になるに決まっているだろう。


「えーっと、それじゃどうしましょう。

 ポエールさん、私は今日の予定、何かありますか?」


「はい、申し訳ございません。

 クレントスで預かって頂いた資材や物品を、各所に運んで頂きたいのです。

 ここのところ作業も順調でして、方々で物が足りていないのですよ」


「分かりました。うーん、今日はアドルフさんの案内はできなさそうですね……」


「それは残念だ……。

 アイナさんと一緒に見たいから、今日は我慢しておこうかな」


「大丈夫ですか? それじゃ明日、一緒に見に行きましょうね。

 ポエールさん、他に人の手が要るところはありますか?」


「今日は大丈夫です。

 むしろアイナさんを求める声が圧倒的に多くて、少し困っているんですよ」


「は?」


「いえ、資材を加工するのも一瞬ですし、邪魔な岩もあっさり砕いてくれますし……。

 アイテムボックスでの運搬効率も桁違いなので、今は引く手あまたですよ。

 それと、調理チームから水と塩を作って欲しいという要望も来ています」


「……」


「アイナ様、大活躍ですね……」

「さすがに私たちでは、お手伝いができませんね……」

「見守るしかできないなんて……」


 そんなことを口々に言うメイドさんに、私は少しだけ距離を感じてしまった。

 ちょっと専門が違うだけで、私は普通の人間なんだよー……?


「錬金術師って、凄いんだなぁ……」


 アドルフさんに至っては、何故かしんみりと頷いていた。

 それについては、一般的な錬金術師は違うと声を大にして言いたいところだ。


「えーっと……、今日は私、忙しそうですね。

 うーん、他のみんなは寝泊まりする準備をお願いできますか?」


「宿屋も早く欲しいところなんですが、なかなか手が足りなくて……。

 そうだ、また職人を募集しているので、次回クレントスに戻ったときは受け入れ試験をお願いします」


「ああ、やることが増えた……」


 ……とは言っても、これはリリーが頑張るところだ。

 私としては、移動を抜かせば楽な仕事ではある。


「本当にお手数をお掛けいたします。

 さて、私ももう少し作業がありますので、1時間ほど休憩を取っておいて頂けますか?

 そのあとはしばらく、資材の運搬をお願いすることになりますから」


「分かりました。……終わるころには夜になりそうですね。

 お言葉に甘えて、今はのんびりすることにします」


「はい、そうなさってください。

 あ、そうそう。職人の宿泊地区の側に、ちょっとした変化があったんですよ」


「変化、ですか?」


「是非とも、散歩のついでに見てきてください!」


「はぁ……」


 何があるかは分からないけど、ポエールさんの満面の笑みに圧されてつい承諾してしまった。

 ……さすがに悪いことでは無いよね? 一体何だろう……?




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ポエールさんから教えてもらった場所に行くと、そこは少し賑やかな場所になっていた。


 職人さんは基本的に、1週間に1日の休日がある。

 所属するチームごと、もしくは人ごとに休日が分かれているため、毎日誰かしらは休日になっているのだ。


 つまり、今ここにいる職人さんは休日を楽しんでいるわけだけど――


「アイナさん! 屋台ですよ、屋台!」


「……屋台、ですね!」


 そう。宿泊地区に隣接する形で、食べ物の屋台街が作られていたのだ。

 私も旅の途中、いろいろな村をまわったものだけど――……大体、それと同じくらいの規模で集まっているかな?


「ママー、お腹空いたー」


「うむ、妾もじゃ。ふふふっ、良い匂いがしてくるわい」


「夕飯まではまだ時間があるし、食べてきても良いですよ。

 もちろんお小遣いから出してくださいね」


「今月はまだ残っておるからのう。

 よーし。リリーよ、食べてまわるぞ!!」


「なの!」


「……アイナさん、私たちも……」


 グリゼルダとリリーの様子を見て、エミリアさんがおずおずと聞いてきた。


「そうですね、私も少し小腹を満たしておこうかな。

 それじゃみんなで、適当に買い食いしていきますか」


 私の言葉に、全員が嬉しそうに頷いた。

 30分くらいしたら私はポエールさんのところに向かわなきゃいけないけど、それまでは楽しみながら、この辺りの様子を眺めておくことにしよう。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――いかがでしたか?」


 屋台で食事をしたあと、私はルークとエミリアさんと一緒にポエールさんの元を訪れていた。

 他のみんなには、私たちが寝泊まりする場所の準備をしてもらっている。


「たくさんの屋台、素晴らしいですね!

 前に来たときよりも、職人さんたちが活き活きとしていましたよ!」


「この辺りは海産物が美味しいですし、それに屋台ではお酒も提供されているんですよ。

 過度の飲酒はご遠慮頂いておりますが、やはりあるのと無いのとでは大違いですね」


「確かにみなさん、嗜む程度でしたね。いやぁ、管理が行き届いているようで」


「……実はですね、3日ほど前に乱闘騒ぎがあったんです。

 それで急遽、提供する量を抑えるようにしたのですよ……」


 せっかく私が褒めたというのに、ポエールさんはすぐに真実を明かしてしまった。

 信用度は上がるから、私としては望むところなんだけど。


「そ、そうでしたか……。でも、その判断もフットワークが軽くて良いと思います!

 それに、ここには娯楽がありませんからね。お酒のルールは、今がちょうど良い感じなんじゃないですか?」


「ありがとうございます。

 ちなみにあの屋台、近隣の村の方たちが出しているんです。

 こちらとしては多少の場所代を頂いておりますが、早速この場所に人が集まってきた……という形ですね」


「人がいるところには商機がありますからね。

 私も早く、錬金術のお店を出したいところです」


「そうすればきっと、さらにたくさんの人がここに集まるでしょう……!

 ところでアイナさんに、少し確認しておきたいことがあるのですが」


「はい? 何ですか?」


「それではこちらへ……。

 アイナさんだけ、お願いします」


 そう言うと、ポエールさんはテントの奥の方に向かって進んでから、私の方をちらっと見た。

 どうやらルークとエミリアさんには聞かれたくない話のようだ。


「……何だろう? すいません、ちょっと待っていてください」


「はい」

「はーい」



 ポエールさんのところに小走りで向かうと、彼は申し訳なさそうな感じで小声で話してきた。


「すいません。本来はアイナさんのような、お年頃の女性にお話することでも無いのですが……」


「は、はぁ……」


 まぁ外身は17歳だけど、中身は24歳だからね。

 世間一般の17歳よりも、そこそこ大丈夫だとは思うけど――


「あの、職人の方々から要望がありまして。

 ……その、風俗街が欲しい……と」


「……あ、はぁ。はい、はい。……ああ、なるほど。……はい」


 よくよく考えてみれば、職人さんは全員男性だ。

 商会の人を含めれば、男性の人数は100人を超えてしまう。

 ……このまま放っておくと、商会に勤める女性がピンチになってしまうかもしれない……?


「実はですね。そういった営業許可も、打診が来ているのですよ。

 さすがにやるとなったら、この場所から離れたところでお願いすることになりますが……」


 ちなみに私たちは誰もいない場所に街を作り始めているが、これはアイーシャさんがアルデンヌ伯爵から奪った権利に基づいて行われている。

 ヴェルダクレス王国としては認められない行為ではあるものの、今はその力が及んでこないため、いわゆる『私たちが法』のやりたい放題の状態なっているのだ。


「……総合的に考えると、そういうのはあった方が良いんですよね?

 王都にもありましたし、しっかり統制が取れるなら良いのでは……」


「ありがとうございます。商会の女性職人も、これで一安心することができます。

 ……それと、一部の男性職員も……」



 …………。


 男性は男性で、アブノーマルな目を向けられる人はとても大変そうだ……。

異世界冒険録~神器のアルケミスト~

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