二日程千景の部屋で寝込んだが、やっと動けるようになり自宅へ帰ってからも毎晩千景が家まで来て、家事など身の回りの世話をしてくれた。
自分も疲れている筈なのにせかせか動いて看病をしてくれている姿がなぜか嬉しかった。
「もう大丈夫だよ。1人で出来るから。」
「ダメだって!あんなに寝込んだんだから、ゆっくり治さないと!またぶり返したらどうすんだよ!」
どうにもこうにも話しは聞いてもらえそうに無いので本当に大丈夫になるまで好きな様にさせておいた。
毎日毎日来るのでいい加減帰る様に言うと、渋々帰宅する気にはなってくれたけど、帰り際に圧死しそうなくらい抱きしめられたので脇腹へ拳をお見舞いしてやった。
・・・・
体調が回復して昼夜の仕事へ出られる様になった。
保育園の子ども達や、保護者の方達にまで心配をかけてしまい、子ども達に「先生だいじょうぶー?痛かった?」と心配された。
辛かった事も子ども達の優しい言葉で遥か昔の様に感じた。子ども達には癒してもらう事ばかりだ。
身体は元に戻った。でも、地元の公園で尚人を見かけた日から、その姿を思い出しては複雑な気持ちになってしまう。何か感じるのか僕がボーッとしていると千景が必ず声をかけてくる。やっぱりこいつは犬なのか?物凄い嗅覚の持ち主なのだろうか?
体調を崩したあの日以来、なんだか千景と過ごす事が当たり前になってきている。時間を見つけてはせっせと家まで通って来る様になった。
音信不通を心配したジュリから鬼の様に電話がかかって来た。『ツキー!大丈夫?!!もぉー何で言わないのよー!!!』と、心配してくれていた。元気になってからジュリの元へ行ってその時の話しをすると、「ツキが辛い時に一緒にいられなかった事は悔しいけど、ツキが一人じゃなかったなら私はそれで良かった。だけど、私がいる事も忘れないで。」と言ってくれていた。
壮一からも連絡は来ているもののなかなか会えていない。マスターから聞いたが、千景と壮一は僕の家で鉢合わせしたらしい。そんな話しは二人からは何も聞いていなかったので少し驚いた。壮一とは仕事の絡みで会えない事も時折あったから特に気にはならなかったけど、その日を堺に会えなくてもいつもよりまめに連絡が来る様になっていた。やはり周りに心配をかけてしまった。でも今更ながら、心配してもらえる嬉しいさを僕は感じていた。
◆◆◆◆
都希くんもすっかり元気になり、約束をしていた水族館へ行く日になった。人気の水族館なだけあってかなり混んでいる。入り口から入ったところにパンフレットがあり手に取って見ていると、都希くんが横からパンフレットを覗き込みながら「イルカショーやってる…。」と興味がある様だった。「見てみるか?」と聞くと「うん。見てみたい。」と乗り気だった。
実は見ても見なくてもイルカショー用のチケットはバッチリ購入している。
『用意しておいて良かった。』
都希くんの隣に並んで歩く。初めて一緒に出かけたのは俺が酷い扱いをした事を謝ってセフレになった日だった。その日の俺の提案は全て不発に終わり、結局都希くんが連れて行ってくれた夜景が一番良かった。
それ以来一度も外では会っていない。というか、昼出かけるのは初めてだった。
髪型や洋服選びにも思ったより時間がかかってしまった。今日の都希くんは…一つ結び。ハーフアップか…シンプルに黒コーデだけど、いつもよりアクセも多めだし、オシャレしてきてくれたのだろうか…。
保育園で働いている時に近い様な…。今日一日俺の心臓が持つのかが一番不安だ。
入場時からイルカショーを気にしていたので、座席を取っておいた事を伝えると笑顔になってくれた。今すぐ連れて帰りたい…。いや、こんなに嬉しそうな都希くんが見られるなら毎日どこかへ連れて行ってやりたくなった。
ショーではインストラクターとイルカの息の合ったパフォーマンスに楽しそうに手拍子をする都希が子どもみたいで可愛かった。歳上なのに恐ろしいやつだ。
「はぁ、イルカ可愛かった…。」
「???!!」
『お前の方が可愛いんだが?!!』
「見られて良かったな。」
「うん!」明らかに機嫌が良い。
今日分かった都希の事は、昼間の方がノリが良いらしいという事。水族館のメインの大水槽に行くと周りの小さい子どもと同じ様に水槽の目の前まで近づくと座って水槽ないを眺めていた。都希くんの隣に同じ様に座っていた子どもと泳いでいる魚を指差しては楽しそうに話している。保育園での都希くんを目の前で見れている気持ちになった。
デートの終わりに都希へイルカのおおきなぬいぐるみをプレゼントした。
「いや、悪いよ!」と、言いつつも都希くんからは見た事無いくらい嬉しそうな雰囲気が駄々漏れていた。
「イルカさん…。」
抱きしめながら都希は小さい声でそう呟いていた。
都希の笑顔が何度も見れた事は嬉しかったが、今日一日、長時間歩いた事や、まだ寝込んだ時の姿を思い出して心配だった。もう大丈夫だとは分かってはいるけど…。むしろしつこく世話を焼き過ぎて脇腹にワンパンもされたし…。
朝から水族館へ入り、日も暮れて来た。
「都希、もう疲れたろ?送るから帰ろ。」そう言うと、「もう少し一緒にいたいんだけど。」
と都希くんに言われた。
・・・・何を言われたのか正直頭に入って来なかった。
「明日も休みだし、そっちの部屋行っても良い?」と聞かれた。
・・・・「あ、はい…。」
驚き過ぎて丁寧に答えてしまった。
『今一瞬心臓止まったかも…。』
そこからはあんま覚えて無いけど、確か、水族館から出て、タクシーを速攻で呼んで、タクシー降りてから近所のコンビニで酒やらつまみやら大量に買って、「買い過ぎじゃない?」と、心配する都希に「大丈夫!!」だけ言い放ってから大きなイルカのぬいぐるみを抱えた都希の手を引きながら家に帰った……と、思う。
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