鳥の可愛らしい声が窓の隙間から入り込み、日の光共に朝が来たことを知らせた。
カーテンなどない社に直接光が入り込み 顔元に当たる。
それを拒むため手で光を遮りながら体をおこした。
昨日は、社に帰ってきた後黙々と寝支度をし、布団に入った。
一日中、魔力を使いながら動きっぱなしだったせいで その分の負担が今日にきている。
さすがの俺でも 魔力の制限はある。
それに、最近は人間界に混じり力を使っていないことが多かったため感覚が鈍くなり、余計な魔力までも使ってしまっていた。
寝巻きのまま、布団をしまい台所で朝食を作った。
俺の社は、少し林の中にあり人気(ひとけ)が少ないためある程度外に出て姿を隠さないまま散歩ができる。
普段外に出る場合は、この世界の住民に姿を見られては行けないため、術を自分に掛け姿を「見えにくい」ようにしている。
とはいえ、「見えにくい」程度のため 霊力の高い人間や神職のものには、透けて見えてしまうことがある。
まぁ、その相手が子供だった場合は ちょちょいと記憶を入れ替える。
俺は、他の神様に比べてかなり自由に行動している。元の性格もあるのか、その場にじっとしている事があまり好きでは無いからだ。
朝食を平らげ、洗顔や鳥たちの餌の追加、聖服である仕事着を着る。
最後に顔の目元に赤い紅を入れ、完成だ。
俺の住んでいる社の本殿から、願いや祈りをうける拝殿に移動をした。
「おはようございます、伏見様」
声を掛けられた方を向くと、ここの社を管理している宮司(神主の1番位の高い人)が掃き掃除をしていた。
「ハジメさん!久しいな」
宮司は、生まれた頃から霊力が高く小さい頃から俺のことが見えていた。
初めて会ったのは、俺が社近くを散歩していた時に偶然林の中でハジメさんが遊んでいた時だった。初めの方は、子供だったことから、毎度社の近くであう会う度に少し話した後に術をかけて記憶を曖昧にし、元の場所に帰していたがくど何度も来るものだから、宮司に訪ねてみると、次の宮司の跡継ぎだと言った。
そしてこの、聞き馴染みのあるこの名前「はじめ」はそう、元ライバーであった。
渋谷はじめ先輩の生まれ変わりだった。
まさかこちらの世界で、新しく生まれるとは予想していなかったが、おかげで仲間がいる安心感がうまれた。
「そうですね、伏見様。お加減はいかがでしょうか」
陽だまりのような柔らかい笑顔で箒の手を止め俺の方を見上げた。
「良いよ、はじめさんこそ大丈夫か?」
「ええ、私はいつでも元気でございます」
はじめさんが心臓のある場所に手を当てる。
俺が最初にあった頃よりは、鼓動の速度は落ちたものの異常のない速さだ。
「そうか、、相変わらず俺の姿が見えてるんだな」
俺の姿が見えるものは極めて少ない。
そして、人間は歳をとればとるほど、見えなくなるものが多く。
最初は見えていた姿も歳と共に薄れ最終的には気配や声だけになったり、ほとんどの人はそこにいるのさえも何もわからなくなる。
はじめさんは、年を老いても俺を認識できる唯一の存在だった。
「見えていますとも、伏見様のお姿は今日も何年前も変わらず美しい」
「私は、もうこのように皺だらけの老人になってしまいました」
自分の手の皺を優しく撫でながら、笑顔をこぼした。
俺が空けていたこちらの世界の数十年間は、あっちの世界よりかは短くなるが、一人の大人が老人になるには十分の時間があった。
「ありがとうな、はじめさんも笑顔が素敵なままだぜ」
そう言うと、はじめさんは嬉しそうな顔をして頭を下げた。
「ありがとうございます。有難くお言葉頂きます」
「仕事中邪魔したな、久々に話せて良かった。失礼するぜ」
はじめさんは、ゆっくりと礼をし仕事に戻った
俺は目眩しの術を自らにかけ、願いを聞きに向かった。
神社の中には、所々に彩られたもみじやイチョウが植えられていた。
紅葉の季節か。
人々は、金を貢ぎ皆心の中で願いを発する。
俺は、その願いを心を開いて聞く。
叶えてもいいものであれば、手助け程度に力を使い、掟に反するものや世の理を崩す願いは、流す。
誰の願いでも聞くものでは無い。
しっかりと吟味してから手助けの方法を考え力を皆のために使うのだ。
掟に反すると自分自身に罰が下る。
責任を取らなければならないのだ。
俺のように、神でも色々な管理職がある。
フミ様は、俺のような願いを手助けする神ではなく、災害や自然を管理する神だ。
お女神様は、人の「死」や「生」などのもっとも大分部を判断する管理の神だ。
「かみさま、ここにほんとにいるの〜?」
書類に目を通していると、元気な女の子が拝殿に訪れた。
歳は6つ程か。
「ふふっ、いるわよ」
母親と一緒に参拝に来たようだ。
「でも、みえないよ!」
娘は、霊感がないようだ、あるものなら気配を感じ警戒する
キラキラとした丸い目をこちらに不思議そうに向けている。
「私たちには姿が見えないのよ。でも、ちゃんと居るわ。」
娘の同じく母親も霊感がないようだ。
落ち着いた表情で財布からお金をだし、娘に手渡した。
さぁ、仕事しますか。
意識を娘と母親に向ける。
「さぁ、#*-&ちゃんここにお賽銭入れてね」
娘は、こくりと頷き言われた通り入れ手を合わせた。
「じぃーじの病気がなおりますよーに」
娘の心の願いは、祖父の病気回復。
事前に親がそう願うように言ったのだろう。
参拝を終えた親子は、手を繋いで話しながら帰って行った。
姿を拝殿の中から見送り、紙に書き写した。
手で狐の形をつくり、穴を除くと心を覗くことができる。覗いてみるとそこまで彼女の祖父の病状は酷くなく、数年は持つものだった。
もう少し様子を見つつ判断することに決めた。
それから数時間座り続け神社の参拝客が途切れた所で最低限の結界を張り、仕事はおしまいとした。
「はじめさん、もう帰って大丈夫だぜ。結界もはり終えたし、今日はこれにておしまいにしよう。」
「わかりました、お疲れ様でございました。おやすみなさいませ。」
はじめさんは、お茶を一杯飲んでから帰ると言い戸締りは任せ、俺は本殿へ向かった。
本殿へ向かう長い廊下の途中に強い向かい風が吹いた。
木々の葉を揺らし、葉を落とした。
背後にざわっと何かを感じた。
後ろを向くと、女神様の使いであろう白い翼を持つ者が立っていた。
俺が驚きながら見ていると、その者は一礼をし手紙のような紙切れを渡した。
「モイラ様からでございます。そちらを読んだ後は、伏見様の術で燃やしてください。そちらの紙一枚でも、力が大きすぎてしまい、こちらの世の理が変化してしまう可能性があります。ご注意を。」
「わかりました。ありがとうございます」
「では、私はこれで失礼致します」
もう一度頭を下げ、夜の深いところに白い翼を羽ばたかせながら金粉を靡かせ消えていった。
もらった紙を読むため、早足で廊下を渡り本殿に光をつける。
居間の火を指を鳴らして灯し、紙の文字を読む。
「稲荷神社主 伏見様へ
ごきげんよう ガクちゃん。
急に手紙がきて驚いたことでしょうね。けど、何も心配することはないわ。
どちらかというと、良い知らせなのだわ。
前世名 剣持刀也 が生まれ変わったの、本当はこういうことは、秘密事項で他の神様達にも知らせない方がいいのだけれども、ガクちゃんは誰よりも知りたいだろうと思って手紙を送ったのだわ。
いつものように、神様専門の連絡機関から送ると女神がバレて怒られちゃうから、信用の厚い使いの者をそちらに送って届けてもらったのよ。
あと、この手紙のことは聞いたと思うけど一応ね。
この手紙は、天界で使われるものだから、下界では力が強すぎちゃうの。
何か影響を及ぼす可能性が大いにあるから、読み終わったら直ぐに燃やしてね。
生まれ変わりの刀也ちゃんの詳しい事が聞きたかったら、天界までいらっしゃい。
ガクちゃん、顔がニヤけてるわよ。
天界女神 モイラより」
はっとして、口角を戻し。
手紙を跡形なく燃やした。
そして、今通ってきた廊下を振り返りはじめさんのいる本殿近くまで戻った。
内心嬉しくてたまらなかった。
また、剣持さんと話が出来る。
また、剣持さんと笑うことが出来る。
また、、剣持さんと会えるんだ。
もちろん、容姿も性格も元の彼ではない。
彼と異なった、また別の人物として生まれただろう。俺のことは忘れ、覚えているはずがない。
また、一から交友関係を気づきあげなければならない。そして、彼には俺のことは知られてはならない、前世の事も。
それでも、彼と会って話がしたかった。
「おや、伏見様どうかされましたか?」
暖かい緑茶の湯のみを両手で支えているはじめさんが、不思議そうに問いた。
「はじめさん、急で申し訳ないんだか、俺は明日本殿を空ける。」
「何か緊急のご用事でしょうか」
「女神様と話がある。明日は、神社の結界を解かずに閉めておいてくれないか」
「わかりました。お気をつけてくださいませ」
柔らかい笑みを向け、苗色の髪を揺らした。
俺は頷き本殿へ帰った。
明日の朝は早くなるな。
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作者 黒猫🐈⬛
「まどろみのなかで」
第5話 こちらの日常
※この物語は本人様との関係はありません
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続きます𓂃 𓈒𓏸𑁍
コメント
7件
初コメ失礼します。 泣きました。……話がしっかりしすぎてて、 もう……神です、!! 続きも楽しみです。
お勧めから来た者です。 儚げな雰囲気で凄く頭で 想像のできる様なストーリーに一発で惚れました….!!! 最後がバトエンなのか、ハピエンなのかが凄く気になってやばいです。 神、仏様の様な作品を有難う御座います!!!!!!
主さんまじで最高ですほんとに