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カンタロー×貧ちゃん
捏造注意
夜の空気は少しだけ冷えていた。
カンタローはスマホの画面を何度も点けては消していた。今日はどうしても落ち着かない。
——まだ帰ってこない。
貧ちゃんから「今日は職場の飲み会」と聞いていた。薬剤師の仕事は不規則だし、付き合いもある。頭では分かっているのに、胸の奥がざわつく。再会したあの日からずっとだ。
「彼女欲しい」「結婚したい」
軽口みたいに何度も言っていた貧ちゃんの声が、いまだに消えない。
——俺じゃ、足りないのか。
自分でも馬鹿らしいと思う。三十四にもなって、こんなことで不安になるなんて。
モヤモヤと考え込んでいるとガチャ、と音がした。
「……ただいま」
少しだけ掠れた声。振り向いたカンタローの視界に、ふらりと揺れる細い影が映る。
「貧ちゃん」
近づくと、すぐに分かった。顔が赤い。眼鏡の奥の目もとろんとしている。
「飲みすぎだろ」
「んー……そんなこと、ない……」
言いながらも足取りは危うい。カンタローは自然と肩を支え、そのままリビングへと連れていく。
「ほら、水飲め」
コップを差し出すと、貧ちゃんは素直に受け取ってごくごくと飲んだ。
「……ありがと」
小さく笑うその顔に、カンタローは一瞬目を逸らす。
——やっぱり、綺麗だ。
昔からそうだった。
小学校の頃から華奢でスタイルが良く女性のようなどこか守りたくなる雰囲気。自分と真逆のタイプだが何故か当時属していたグループの中でも自分の隣によくいてくれた。
再会してから当然のように惹かれて想いを伝えても、何度も振られた。
それでも諦めきれなくて、しつこく食い下がって、やっと手に入れた恋人。
なのに、どこか距離がある。
「着替えるぞ」
酔ってぼんやりしている貧ちゃんを半ば強引にパジャマに着替えさせ、ベッドに寝かせる。
「……ん、カンタロー……」
「寝ろ。明日も仕事だろ」
布団をかけると、すぐに静かな寝息が聞こえてきた。その顔は無防備で、子どもみたいだった。
——こういうときだけ、隙だらけなんだよな。
苦笑しながら、カンタローは寝室を後にした。
数時間後。
持ち帰った仕事の帳簿やらを終えて、ようやく一息ついた頃には日付はとっくに変わっていた。
「……様子見てくるか」
静かに寝室の扉を開ける。
案の定、布団が半分ほどめくれていた。
「風邪引くっての…」
呟きながら、そっと掛け直そうとしたそのとき。足を引っかけた。
「——っ」
ぐらり、とバランスを崩し、そのままベッドへ。
柔らかい感触。貧ちゃんの身体の上に、思い切り倒れ込んでしまった。
「わ、悪い!」
慌てて起き上がろうとした瞬間、グイッと首に腕が回る。
「カンタロー…」
すぐ目の前にある顔が、ゆっくりと笑った。
「寝込み襲いにきたの?」
「……っ」
心臓が跳ねる。
「ち、違うって……!」
離れようとするのに、腕は緩まない。
「最近してないから、期待したじゃん」
クスッと意地悪く笑う。
「カンタロー、俺のこと嫌い?」
「そんなわけあるか!」
思わず強く言ってしまう。
貧ちゃんは目を細めて、それを楽しむように見ていた。
「今日さ、別の病院の人達も来てて」
「……」
「そこの若いイケメンに気に入られちゃって。今度二人きりで飲みに行こうって」
さらりと爆弾を落とす。
「行っちゃっていいの?」
その瞬間。
カンタローの中で何かが切れた。
「——絶対ダメだ」
低い声。次の瞬間には唇を奪っていた。
驚くかと思ったのに、貧ちゃんはすぐにそれを受け入れる。寧ろ自分から深く応えてくる。
息が混ざる。体温が上がる。
ようやく唇が離れたとき、カンタローも貧ちゃんも少しだけ息を乱していた。
「……そんなの、酔ってるからだろ」
カンタローの口から思わずこぼれる不安。
「いつもより…積極的なのも」
視線を逸らす。怖かった。
全部、酒のせいだったら。
「……何言ってんの」
呆れたような声。
「酔いなんか、とっくにさめてる」
「え」
「さっきのも、全部本音」
真っ直ぐ見つめられる。逃げ場なんてない。
「俺、そんなに冷たい?」
「……ちょっと」
正直に答えると、貧ちゃんは少しだけ眉を寄せた。
「ちゃんと好きだよ」
ぽつりと落ちる言葉。
「伝わってないなら…ちょっと寂しい」
その一言で、胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
「俺は……」
言葉が詰まる。
「お前が、女の方がいいんじゃないかって…ずっと思ってた」
貧ちゃんの目が、わずかに揺れる。
「前に言ってただろ。彼女欲しいとか、結婚したいとか」
「…ああ」
「だから」
言い切る前に、指が唇に当てられた。
「それは過去の話」
少しだけ照れた顔で。
「今は、カンタローがいればいい。カンタローじゃなきゃダメなんだよ」
その一言で、全部どうでもよくなった。
理屈も、不安も、全部。
気付けば、もう一度唇を重ねていた。
今度は、確かめるように。ゆっくりと、深く。
その夜は、長かった。
言葉よりも、触れることで確かめ合う時間。
何度も名前を呼んで、何度も確かめて。
離れたくないと、体温で伝え合う。
朝。
カーテンの隙間から光が差し込む。
「……ん」
先に目を覚ましたカンタローは、隣で眠る貧ちゃんを見つめる。穏やかな寝顔。
昨夜のことが夢じゃないと、ようやく実感する。
「なあ」
軽く肩を揺らす。
「昨日言ってたこと、覚えてるか?」
「……んー……?」
貧ちゃんがぼんやりと目を開ける。
そして、数秒。
みるみるうちに顔が赤くなっていく。
「……覚えてない」
「嘘つけ」
「ほんと!」
耳まで真っ赤にして、そっぽを向く。
その様子があまりにも分かりやすくて、カンタローは思わず笑った。
「じゃあ、もう一回言ってよ」
「やだ!」
「言って!」
「絶対やだ!」
布団をかぶって逃げる貧ちゃんを、軽々と引き寄せる。
「逃がすか」
「…カンタロー、しつこい」
「今更だろ」
そう言って、額に軽く口づける。
「まあ俺は、ちゃんと覚えてるからいいか」
小さく呟くと、貧ちゃんは少しだけ顔を覗かせた。
「……何て言った?」
「教えない」
「いじわる」
拗ねたように言うその顔は、今までよりもずっと柔らかかった。
ツンとした態度の奥にあるものにようやく触れられた気がした。
酔いが醒めても残ったのは、確かな想いだった。
END
――――
普段はカン貧はXで書いております。
よければ。☞@iw_ta_cho