テラーノベル
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最終話です!!
――記憶の終点、6色の夜明け
朝焼けが、館を包んでいた。
窓の向こうで、橙に染まる空が、6人を静かに照らしている。
誰もが黙っていた。
けれど、その沈黙は重苦しさではなく、深く繋がった心の余韻のようだった。
昨夜、悠が自分の記憶を語り、すべての想いを曝け出してくれた。
それによって、6色のドレスはようやく揃った。
それぞれの痛み、悲しみ、そして願い――
全員が「一人じゃない」ことを確かめ合った朝だった。
「みんな……ありがとう」
悠がぽつりと言うと、ほとけが優しく微笑んだ。
「僕らも同じ気持ちだよ。ありがとう、悠ちゃん」
「さぁ――」
りうらがゆっくりと立ち上がった。
「最後の扉を、開けに行こう」
*
6人は並んで、あの不思議な回廊を歩いていた。
床に敷かれた赤、白、桃、水、青、そして黒の絨毯が、6つの足元で一つに溶けていく。
それはまるで、彼女たちの絆が一つに結ばれていく道筋のようだった。
やがて、巨大な扉が姿を現す。
そこには金色の文字が刻まれていた。
【あなたたちが心を重ねたとき、この館は終わりを迎える】
誰からともなく、手を繋いだ。
それは、これまで何度も繰り返してきた儀式。
でも今は、少し違う。
手の温かさが、心の奥まで染みていく。
悠が最後に、一歩前へ出る。
扉の前で振り返り、6人を見渡す。
「うちは……この館に来て、初めて本気で生きたいと思えた」
彼女の目には、もう迷いはなかった。
「またどこかで会えるって、信じとるから。
みんなも、自分を嫌いにならんといて。……な? 」
小さな頷きが連鎖して、最後に全員で扉に触れた。
すると、世界が光に包まれた。
*
――目を覚ましたとき、りうらは病室にいた。
点滴のチューブ、機械音、まぶしい蛍光灯。
確かに見覚えのある「現実」。
「ここ……」
「目が覚めたんですね、りうらさん!」
看護師が駆け寄り、医師が大声で指示を出す。
そのざわめきの中で、りうらの目から涙がつぅっとこぼれた。
(夢じゃなかった……夢じゃ、なかったよね?)
枕元の引き出しを開けた。
そこには、誰かの落としたような小さな紙片があった。
《会えて、よかった。また、きっと会おう。――黒のドレスより》
その瞬間、心が確かに繋がったと知った。
*
ほとけは、退院した翌日、空を見上げていた。
(また誰かに「天使みたい」って言われるかもしれない)
(でも、僕はもう……ちゃんと、「僕」として生きていく)
遠ざかっていた母の笑顔も、少しずつ取り戻せそうだった。
「今度、誰かの“救い”になれたらいいな」
ポケットに、青いリボンが結ばれた小箱が入っていた。
その中には、あの館で描いた6人の肖像画が入っていた。
*
初兎は、いつもの坂道を、自転車を押して歩いていた。
日常が戻ってきても、ふとした瞬間に胸が熱くなる。
「はぁ、懐かしなぁ……けど、もう泣かへんで」
空に向かって、指で円を描いた。
「次会ったときは、あんたらにお弁当作ってあげるんやからな!」
その手には、館で交わした“再会の約束”が書かれたメモ帳が握られていた。
*
ないこは、駅のベンチで電車を待っていた。
膝の上には、ノートパソコン。
画面には、自作のゲームのキャラクターデザイン。
赤、白、水、青、桃、黒――6人の少女が並んでいた。
「6色のドレスってタイトル、どうかな……」
微笑みながら、自分に頷いた。
「今度は、フィクションとして誰かの心に残せたらいい」
その目には、確かな未来が映っていた。
*
いふは、学校の廊下を歩いていた。
すれ違う人々が、自然に目を向けてくる。
けれど、もう“強がる自分”を演じなくてもいいと知っている。
「なぁ、あのときお前らと話せて、ほんま良かったわ」
誰に向かって言うでもなく、笑いながら空を仰いだ。
(ウチも、弱さを見せてもええんや。せやろ? 悠)
*
そして――悠は、また“絵”を描き始めていた。
静かな公園のベンチで、スケッチブックを膝に乗せ、鉛筆を走らせる。
描かれていたのは、6人の少女たちが並んで笑っている風景。
「今度こそ、夢じゃなくて、現実で会いに行く」
そう決めて、携帯のホーム画面を6人の写真に変えた。
ほんとうに出会って、笑って、泣いて、心から繋がれた。
“たとえ夢だったとしても”――
「うちにとっては、本物やった」
*
季節は巡り、春が訪れた。
どこかの街の交差点。
偶然にも、6人の少女が同時に立ち止まる。
目が合い、誰かが「あっ」と声を漏らした。
そして――
「やっぱり……!」
「うそやん、ほんまに?」
「久しぶり……!」
再会の瞬間に、涙があふれる。
誰かが言った。
「この世界で、また会えるなんて、奇跡やな」
そしてもう一人が答えた。
「奇跡やない。これは、“約束”やで」
全員の胸元には、それぞれのドレスと同じ色の、小さなリボンが結ばれていた。
6人は再び手を繋ぎ、笑った。
今度は、夢じゃない。現実の絆だった。
エピローグ
――ある古びた洋館にて。
管理人の青年は、静かに微笑んでいた。
「また6人、救われたようですね」
背後には、棚に飾られた6色のドレス。
赤、白、桃、水、青、黒――
それぞれの色が、確かに輝いていた。
「さあ、次の願いを聞きましょう。
あなたの痛みも、ここで癒やすことができるかもしれませんよ」
扉が、また一つ、静かに開かれた。
コメント
7件
好きです(((( ほんとになんか1個すごい重いゲームやったみたいな気分になってる今()
なるほどぉおお…そういう展開ね… 好き…