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今から、ふた月前。舞踏会の翌る日から、ヴィオラの妹アンナリーナを城へと迎入れた。名目は妃教育だったが、レナードはアンナリーナに妃教育を受けさせるつもりなど微塵もなかった。
この時レナードは、普段侯爵家の三女であり、屋敷に篭り余り外には出ないアンナリーナを親元から引き離す絶好の機会だと考えた。舞踏会などには必ずモルガン侯爵夫妻が参加しており、お茶会などは他の家の目がある。
妃教育と称して、城へ招けばアンナリーナは1人になる。
「お茶の淹れ方……ですか。お、お任せくださいませ」
数日間、アンナリーナには妃教育の真似事をさせ、その中に妃教育には関係ない項目を混ぜた。妃教育にお茶を淹れるなどある筈がない。そんなものは侍女や執事の仕事だ。
最初、お茶を淹れる練習をする様に告げると、アンナリーナの顔は引き攣った。だが「アンナリーナ嬢、期待しているよ」そうレナードが笑いかけると「お任せください!殿下!」と言ってやる気になった。全くもって容易い。
因みに、最初アンナリーナはレナードの事を「レナード様」と呼んだが、レナードから「正式に婚約者になったら名前で呼んで欲しい」と言われた事により殿下になった。
「まあ、アンナリーナから名前で呼ばれる日などくる筈はないけどね」
レナードは、必死にお茶の淹れる練習を繰り返すアンナリーナを見遣り不敵に笑った。
そしてあの日。
「これは、毒だっ」
妃候補をお披露目するとの名目で、レナードは人を集めお茶会を開いた。アンナリーナには、レナードの分だけでなく招待客達の分もお茶を淹れさせた。
「アンナリーナ嬢は、お茶を淹れるのがとても上手なんだ。皆にも是非堪能して頂きたい」そうレナードは話した。
アンナリーナは、1人1人丁寧にお茶を淹れては、テーブルに置いていく。そして最後にレナードの前にお茶を置いた。
皆カップに口をつける事なく、その様子を見守っている。その理由は、王太子であるレナードがカップへ口を付けるまでは、飲む事は出来ない為だ。
そして、レナードがカップを手にした瞬間、背後に控えていた従者が声を上げた。毒だ、と。
「え、毒?」
お茶を淹れたアンナリーナは、その言葉に固まり呆然とした。
「確かに、反応してるね」
レナードがそう話すと、招待客らも一斉にカップを手にして確認をする。銀製のカップは毒に反応し色が変わっていた。
「何をしている‼︎早くその娘を捕らえよ!」
従者の言葉を受け、アンナリーナは捕縛された。
「ちょっ、何するの⁈離しなさいよ‼︎触らないで‼︎」
「アンナリーナ嬢」
「殿下っ‼︎助けて下さいっ、私何もしてません!毒なんて、そんなっ」
アンナリーナは、腕を掴まれるも暴れ続けている。レナードが側に来た事に気づくと助けを乞うが。
「残念だよ、アンナリーナ嬢」
レナードはワザとらしく眉を寄せ戸惑う表情を作る。そして、それだけ述べるとアンナリーナの横をすり抜けその場を後にした。
背中越しにアンナリーナの喚く声が聞こえたが、レナードは1度も振り返る事は無かった。