「じゃあ、ちょっと歩こうか!」
私がそう提案すると、李斗は「はぁ?」と面倒くさそうな顔をした。でも、なんだかんだで付き合ってくれるのが彼らしい。
「どうせ歩くなら、ちゃんと目的地決めろよ。」
「うーん…じゃあ、あの並木道のほうに行ってみたい!」
「……はいはい。」
李斗は小さくため息をつきながらも、ちゃんと私の隣を歩いてくれた。
***
並木道を歩くと、涼しい風が心地よくて、私は思わず深呼吸する。
「ふふっ、気持ちいいね。」
「そんなにか?」
「うん。なんだか落ち着く。」
李斗は「ふーん」とそっけなく返すけれど、その横顔はどこか穏やかに見えた。
しばらく歩いていると、私はふと気づく。
李斗との距離が、いつもより少しだけ近いことに。
手が触れそうなくらいの距離で、意識しちゃダメだと思うのに、心臓がドキドキしてしまう。
──このまま、この距離が普通になったらどうなるんだろう?
「なぁ、まりあ。」
「え?」
李斗が立ち止まって、私の方をじっと見つめる。
「お前、本当に“お試し”のままでいいのか?」
「え…?」
突然の問いに、私は思わず固まってしまう。
「……最近のお前、ちょっと“お試し”って感じじゃねぇよな。」
ドキッとする。
だって、図星だったから。
確かに最初は「恋を学ぶため」だったけど、今は──
もう、その理由じゃない。
李斗と一緒にいると、心がぽかぽかして、ドキドキして、それがどんどん当たり前になってきている。
「……私、わかんない。」
本音だった。
「わかんない?」
「うん。李斗といると楽しいし、ドキドキする。でも、それが“本当の恋”なのかどうか、まだちゃんとわかんなくて……」
私の声が少し震える。
自分の気持ちを言葉にするのが、こんなに難しいなんて思わなかった。
李斗はしばらく黙っていたけれど、ふっと息をついて言った。
「……じゃあ、もう少しでいいから、俺をちゃんと見てろよ。」
「え?」
「お試しとか関係なく、お前が本当にどう思ってるのか、考えろ。」
李斗の言葉は、どこか優しくて、でも強くて。
私は、ただ頷くことしかできなかった。
その帰り道、さっきよりも近い距離で歩きながら、私は初めて──「お試し」じゃない気持ちを、しっかりと意識し始めていた。