テラーノベル
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素敵なお話をたくさん読んだら満たされてしまって続きを書くのを忘れていました。
なんかラブコメみたいになった。こんなアラサーいないだろと思ってもあたたかい目で見てやってください。
アイドルスマイルを浮かべた亮平くんがさっさと出て行ってしまい、取り残された僕たちの間にはただただ沈黙が走った。僕も元貴もお互い何を言えばいいのか分からず、視線をうろつかせて目が合うこともなかった。
さっき、僕は亮平くんに何て言った? えーと、何だっけ、元貴に恋してるって思った理由を訊かれて……そうだ、元貴には笑顔でいてほしくて、それで、元貴を独り占めしたい……え、待って、いつから聞いてたの? 亮平くんが僕を起こしてくれたときには既に元貴はそこにいたってことだよね? ってことは、僕の告白、全部聞かれてたってことにならない?
眠ってしまったくらい酔っていたのに、いきなり頭を殴られたくらいの衝撃でそんなものはどこかにいってしまった。どちらかといえば頭の中は真っ白になって、どうしよう、どうしたらいい? と焦りばかりが募っていき、俯いて手をぎゅぅと握り締める。
「……涼ちゃん、そっち、行っていい?」
元貴の静かな声に顔を上げると、どこか泣きそうな顔をした元貴と目が合った。潤んだ目にドキッとしながら、おずおずと頷く。元貴は腰を上げて立ち上がると、仕切りの扉を閉じて僕の横に座った。何で前じゃないの……? 近くない……? 距離を取ろうにも背後は壁で行き止まりで、逃げようにも逃げられない。
せめて元貴の視線から逃れるように俯いて、泣きそうなのを知られないようにしなければ。
「……さっきの話だけど」
穏やかだけど戸惑っている元貴の声。そりゃぁそうだ、応援すると宣言していた人間から遠回しとはいえ告白を受けたのだ。困惑して当たり前だし、怒ったっておかしくない。
「ぁ、ぅ、わ、分かってるから!」
「は?」
「元貴が若井のことが好きなの、ちゃんと分かってるから! だからその、さっきのは、えっと、き、気にしないで!?」
元貴が何か言う前に言ってしまおうと元貴の目を見ずに捲し立てる。だって振られるって分かりきっているのだから、自分から終わりを告げた方がまだマシだ。応援するって言っていたくせに、なんて様だろう。
亮平くんが悪いわけではないけど、こんなふうに元貴にバラさなくたっていいじゃない、と少しだけ恨みがましく思ってしまう。そもそもなんでここに元貴がいるのか分からないけど、亮平くんは元貴がいることが分かっててあんな話を僕に持ちかけたのは、流石の僕でも気付く。なんのためにそんなことをしたのかまでは分からないけれど、僕に諦めるきっかけをくれたのかもしれない。
「ちゃんと、元貴の恋……応援する、から……」
元貴が息を呑む音が聞こえて、ズキズキと心臓が痛む。心が応援なんてしたくないって悲鳴を上げている。
元貴からしたら迷惑な話だろう。でも、元貴が好きだって気付いてしまったら、感情が止められなくなってしまった。元貴への想いがあふれ出して止まらなくなってしまった。だけど、かなわないって、ちゃんと分かっているから、2人がしあわせそうにしている姿を見せてくれたらきっといつかは諦められるから、それまででいい、想うことだけは許してほしい。
自分勝手でごめんなさい、そう言うべきなんだろうけど言葉にはできなかった。
「……なんもわかってないじゃん」
戸惑いから怒りに変わった元貴の低い声に思わず顔を上げる。静かな怒りと呆れを滲ませた瞳に、ビクッと肩を震わせた。
「なにも、なにひとつとして分かってないじゃん!」
ぼろっと元貴の目から涙がこぼれ、あまりの衝撃に言葉を失い、泣くほど僕に想われるのは嫌なのかと絶望の淵に落とされる。整った顔をくしゃくしゃに歪めて、綺麗な目から涙をこぼす元貴に何度謝ればいいのか分からない。
「も、もとき、ごめ」
「俺は!」
「はいっ」
「涼ちゃんが好きなの!」
……はい?
「保険かけまくった俺も悪いけどさぁっ、なんで分かんないんだよこのポンコツ!」
「は、はぁ!?」
突然の罵倒に声をあげて抗議をすると、ぼろぼろと涙を流しながら元貴が僕を睨みつけた。
「阿部さんも風磨くんもみんな分かるのになんで涼ちゃんは分かんないわけ!? 俺はずっと、10年前からッ、涼ちゃんのことしか見てないのに!」
……え?
「え?」
心の声と全く同じ言葉ががポロッとこぼれ落ちる。きょとんとする僕に元貴が信じられないと言いたげに声を上げた。
「まだ分かんないの!? なんて言ったら分かんの!?」
「だ、だって……」
だってそんなの、聞いてないもの。
だってこんなの、知らないもの。
恋愛なんてほぼほぼしたことがないんだって、元貴は知ってるでしょ? 僕の経験値がとてつもなく低いことを、一番よく知ってるじゃない。
すると元貴は僕の目をまっすぐに見て、やけくそのように続けた。
「俺はこの10年間ずっと! 涼ちゃんに俺だけを見て欲しいって思ってた! 涼ちゃんを独占したいって思ってた! これから先ずっと俺の傍にいて欲しいって思ってる! デート企画で涼ちゃんが風磨くんといちゃいちゃしてんの見て死ぬほど嫉妬したんだよこっちは! 阿部さんと仲良くご飯食べてんのにも嫉妬してんの! わかる!? 今だって涼ちゃんを抱き締めて甘やかしてキスしてぐずぐずに抱きたいって思ってんの!」
「んなっ!」
わーわーわーわー! 声大きい! 元貴酔ってるの!?
慌てて元貴の口を手で塞ぐと、フゥフゥと肩で息をしながら、元貴が濡れた目で僕をじっと見つめた。たぶん僕の顔は真っ赤になっているだろう。だって頬がずっと熱い。
そのまま元貴が落ち着くまで口に手のひらを押し付けていると、元貴が僕の手に自分の手を重ねた。ゆっくりと自分の顔から僕の手を外すと、そのまま王子様がキスするみたいに手の甲に唇を寄せた。元貴の形の唇のやわらかな感触にとくんと心臓が跳ねる。
な、なんか恥ずかしいんだけど……! 元貴がいつもの倍以上かっこよく見えるんだけど……!?
恥ずかしくて目を逸らしたいのに、僕を見つめる元貴の目が不安に揺れていて目が離せない。
Mrs.の主軸として僕と若井を引っ張ってくれる元貴の目はいつだって未来を見据えていた。僕なんかじゃ到底想像もつかないような構想を練って、そのためにいつだって行動をしてきた。
繊細で、だけど自分のなすべきことをよく理解している元貴の目が、こんなにも揺らいだのは休止を決めたときくらいなものではないだろうか。それでもあのときだって、結局は前を見続けていた。足元にあるものを大切にしながら、もっとずっと大きな世界を見つめていた。
そんな彼の目が、今は僕だけを見つめている。
「……お願いだから信じてよ」
掠れ気味の声が懇願する。僕の手を両手で包んで、祈るようにおでこを寄せ、そのままチラリと視線を上げた。
「好きなんだよ……、どうしようもないくらいに涼ちゃんのことが好き。ずっと、涼ちゃんだけが欲しくてたまらない」
僕の手を握る元貴の手がかすかに震えていた。
どんな大きなステージに立つときだって緊張しない元貴の、怯えすら漂わせる表情に胸がギュッとなる。元貴にはいつも笑っていて欲しいと思っているのに、他でもなく僕自身が元貴にこんな顔をさせてしまっていることが情けなくなる。
なにも言えない僕の代わりに、元貴が言葉を紡ぐ。
「若井はただの友達。Mrs.の仲間。大切な存在だけど、あいつとどうこうしたいとか恋人になりたいとか考えたこともない」
「で、でも否定しなかった」
「涼ちゃんが聞く耳持たなかったんじゃん」
「う……」
それは確かにそうだ。僕の中で元貴が好きなのは若井だって答えを見つけて、それが絶対的に正しいと思い込んで元貴たちの話を聞こうとはしていなかった。若井も元貴も何度か話がありそうな素振りをしていたような気もする。
なんだか申し訳なくなって、しゅんと俯く。元貴はそんな僕を見て、少し落ち着いたのか肩の力を抜くように息を吐き、表情もやわらかいものに変えた。僕の手をやさしく握り込みながら、正直さ、と話し始めた。
「涼ちゃんあんまり恋愛に興味なさそうだったから、このまま誰とも付き合わずに俺の傍にいてくれるならそれでもいいやって思ってたんだよね。キスとかハグとかしたいけど、涼ちゃんが同性に対してどう思っているか分からなかったのもあって、現状が最善だって思ってた」
でも、と元貴の指先が風磨くんにもらったブレスレットに触れた。キラッと光る赤い石を目を細めて見つめる。
「涼ちゃんと付き合いたいって人、結構いるの、知ってる?」
「えぇ? う、うそだぁ……」
「ほんとだよ。俺や若井がそれとなく牽制して散らしてきたけど、抑えきれないくらいになってる。風磨くんみたいにすり抜けちゃう人まで出てきた」
あっ、と思った。元貴はきっと風磨くんが僕に言ってくれた言葉を知っているんだ。僕に自分と恋愛してみないかって、今は無理でも、いつまでも待ってるからって言ってくれたことを知っているんだ。
「……風磨くんが教えてくれたんだよ。赤い石を選んだのは、涼ちゃんが、元貴の色だって言ったから、って」
「そ……そう、なんだ」
「……涼ちゃんも、俺と同じ気持ちだって、思っていいんだよね?」
俺の手を握り込んだまま、元貴が首を傾げる。
「……うん」
「俺のこと、好き?」
穏やかなのに、どこか不安に揺れている声だった。
確信があるのに信じきれなくて、言葉にして欲しいって願っているようだった。
「元貴が、好き」
小さく、だけどしっかりと頷いて言葉にすると、元貴がパッと身体を離して僕に抱きついた。
「おわっ!」
「俺も、涼ちゃんが好き! 大好き!」
ぎゅうぎゅうと抱き締められて、少し苦しいくらいだ。
僕も元貴の背中に腕を回して、ぎゅぅと抱き締め返す。じんわりと心の中があったかくなっていく。満たされていくっていうのがよく分かる。
元貴がゆっくりと身体を離し、やさしく目を細めた。いつものテレビ向けの表情じゃなくて、甘くてやわらかい、僕の大好きな笑顔だった。ここがお店だって忘れそうなくらいの熱を持った瞳に、なんだか恥ずかしくなって俯く。僕の頭にキスをした元貴が、耳元に唇を寄せた。
「……帰ろ、涼ちゃん」
「……う、うん」
くすぐったくて少し声が裏返ってしまった。小さく笑った元貴が荷物をまとめながら店員さんを呼んだ。亮平くんにここは自分がって言っていた通り、自分の財布からカードを取り出した。会計を待つ間、僕も自分の荷物を片付ける。元貴はアプリを起動してタクシーを手配してくれた。
「俺の家でいい? お泊まりセットあるしいいよね?」
「えっ?」
さっき勢いのままに元貴が言った言葉を思い出して過剰な反応をすると、元貴がいたずらっ子のようにニヤッと笑った。
「安心してよ、まだ何もしないから。なんの準備もしてないし、涼ちゃん明日、朝から忙しいでしょ?」
は、恥ずかしすぎる……。
ちょうど店員さんが領収書を持って戻ってきたから、元貴から視線を外して帽子をかぶる。
店員さんの姿が見えなくなると、元貴が僕を再び抱き締めた。扉は少し開いているけれど、外からはよく見えないだろう。
「抱き締めて寝るくらい、いいよね?」
「……うん。俺も、そうしたい」
ふふっと笑うと、元貴が息を呑んで天を仰いだ。可愛い、と噛み締めるように呟き、僕に向き直る。
「今度、買い物行こ」
「急だね。欲しいものあるの?」
「うん」
俺の右手のブレスレットに視線を少しだけ向け、それ、無理に外さなくていいけどさ、と言ったあと僕の左手を掴み、
「指輪贈るから、ここに、着けてくれる?」
薬指に唇を寄せた。
終。(後日談的なのをひとつ予定しています)
本当は昨日更新する予定だったから時間軸がズレていますがご容赦ください。
今日中には10周年記念小話をひとつ書けたらいいな……お祝いなの? ってお話になる予感しかしないんですが、お暇でしたら(暇じゃないですよね、供給過多すぎて。若様の心配からのお褒めのストーリーなんなのほんと)お付き合いください。
コメント
10件
完結、ありがとうございました〜🥹 良かった♥️💛無事に、付き合えて🫶 💛と付き合いたい人たちを2人が牽制して蹴散らしてた様子がめちゃくちゃ気になります🫣笑 記念小説も是非読ませてほしいです💕
更新ありがとうございました。 もう、💛ちゃんの恋愛偏差値の低さが、❤️の激重愛の告白を引き出したかと思うと、それもまた尊くて🙏 今日は生配信やら、テレビジャックやらで、みんな嬉しい忙しさでしたね💕 また作者様の作品読めるのを楽しみにしています🍏
やっぱり元貴だよね!ってなりました(風磨くんごめんよ)あー、涼ちゃんお幸せに♡