彼女は右手の薬指を左手で隠しながらこう言った。

『それが私の幸せだから』

そのポーズになんの意味があるのか、その言葉の意味がどういうことなのか、私には何もわからなかった。

彼女は承認欲求が強いのに、責任感も強すぎ、よくパンクしかけてしまう。

認められたいから頑張るのに、「頼りにしてる」なんて言われたら辛いのだとか。どうすればいいんだよって感じ。

だからいつも適当に流してた。

彼女は空の拍手で満足なのだ。

どういう意味か？

簡単なこと。なんの想いも詰まっていない拍手。

例えば、ロボットとかって感情がないでしょ？そのロボがプログラムされたデータによって手を動かし、拍手する。もちろん、表情なんて変わらない。

そんな拍手で彼女は満足なのだ。

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『なんでネットに依存してるの？』

『リアルの方が楽しくない？』

目を閉じる。そうすると目の前には一本の糸が出てくる。

その糸は黒っぽく、とても脆い。

ハサミの刃が少し当たっただけで切れてしまいそうだ。

後ろを振り返る。

目の前には赤、青、紫、黄色…カラフルな糸が数え切れないほどある。

どれもピンッと伸びていて、少し硬い。

簡単には切れなそう。

そんな糸がモニター越しに輝いている。

どちらが欲しい？と言われたら私はカラフルな糸を選ぶ。

リアルだと、顔でほとんど分かってしまう。

私はそれがとても嫌なのだ。

だから顔なんて見えない、ネットに進んでしまう。

リアルだって楽しい。

けど、比べた時点でダメなのだ。

結局私は後ろに下がってばかりだ…。

『幸せは人それぞれ』

よく言われる。ほんとうか？

幸せの形は否定されやすく、壊れやすい。そう思ってる。

『最近＿＿が反応してくれない』

そんなことを愚痴ると必ずこう返ってくる。

『じゃあなんで一緒にいるの？』

冷たい目であの子は言う。もう分かってた。

あの子は私に興味無い。＿＿もそうだ。

ただその事実から目を背けたかった。

でも、もう無理なのかもしれない。

そう考えるとズキッと痛くなる。なんというか、身体中が痛いような気がする。

特に痛む右手の薬指を左手で抑える。

私は自分が落ち着くため、今日も嘘をつく。

そしてあの子にこう言う。

『それが私の幸せだから』