9.弱い俺にさよならを。
「あ、玲王!やっと出た。」
電話の応答ボタンを押すとすぐに潔の張った声が聞こえた。
「ごめん、洗濯してた。」
「こんな大事な日に家事かよ」
「凛!お前らもう病院か?」
「俺と凛は朝に面会時間貰ったんだ。」
「じゃあ俺も一緒にいくよ。どっかで合流してから…」
俺の言葉を遮るように電話が切られた。
潔とのLINEのトーク画面には「午後19時。凪誠士郎様の病室にて面会希望。」と書かれた紙の写真が送られてきた。
見終えるとすぐに次が送られてきた。
「ただいま。れお。」
きっちりした潔は俺の名前を絶対変換してくる。
凛は潔とのLINEからして人の名前は間違えないし正しく変換する。
昔から何一つ変わってない平仮名の癖。
俺は走り出した。
冬の寒さの中コートも着ないままで街中を走った。
ここから走れば19時に間に合うだろうか。
2年前、ちゃんと向き合ってれば今頃車で迎えに行ってやれたんだよな。
俺の弱さが失った大事なもの。
でも、まだ残ってる。凪がいる。
「坊ちゃん、お乗り下さい。今は我慢が正解ではないのですよ、貴方がすべきは凪誠士郎様に会いに行かれることでしょう。早く。」
信号で止まった真っ黒な見覚えのある車の後ろのドアが開かれた。
「…ありがと。ばあや。」
疲れた息を吐き出して最後の力で飛び乗った。
早まる鼓動がうるさくて何も聞こえない。
「坊ちゃん。会ったらまずは誤るんですよ。」
「…あぁ、謝る。ちゃんと向き合う覚悟は…これから凪と見つける幸せの中でするんだ。」
ついた病院の目の前で車を降りると走り出す。
その途中でばあやの声がした。
「ばあやはいつでも坊ちゃんの味方ですよ。」
「…ばあや。」
「いってらっしゃい、坊ちゃん。」
「……行ってきます、ばあやッ!!」
もう振り返ろうとはしない。
凪のために、自分のために、これからの為に。
「凪…ッ!!」
「れお…。久しぶりなのかな。」
「久しぶり…だよ。本当に、待たせて…」
「泣いてるの、れお。」
「…凪に話さないといけないことがある。潔から聞いたかもしれない、意識があったかもしれない。でも…俺から伝えなきゃいけない。」
「わかった。聞くよ、れお。 」
こんなに眠っていたからだろうか。
凪は眠そうではなかった。
その代わりに凄く幸せそうに目を細めて俺を見つめてくれていた。
抱きしめる手が自然と伸びる。
凪は自ら体を近づけて俺の胸に顔を埋めた。
次回最終回です‼️
コメント
2件
やばい、泣きそう 最終回待ってます‼️