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翌朝。建築に関わるメンバーはいつもより早く起きていた。ケット、ムツキ、ナジュミネ、リゥパ、クマたち、ゴリラたち、ねこさんチーム、いぬさんチームである。今日のねこさんチームは大工仕事が得意な手先の器用な猫たちで構成されており、いぬさんチームもまた手先の器用な犬たちで構成されている。
「ご主人、何をしているニャ……」
「スキンシップだ!」
ケットの視線の先には、クマからまさにベアハッグを受けているムツキがいた。しかし、クマが本気を出してもムツキは平気な顔をしており、むしろ、自らもクマに抱き着いている。周りは若干引き気味である。
「それに、ゴリラまでいるなんて……昔、動物園で見たっきりだからな」
「動物園?」
ナジュミネが聞き慣れない単語に反応すると、ムツキは首を横に振った。
「あー、いや、こっちの話だ。クマさん、ありがとう! 次はゴリラさんだ」
クマに下ろしてもらい、次は意気揚々とゴリラの方へと駆け出すムツキだったが、ケットがその前に立ちはだかる。2本の尻尾でバツを描いて、前足もクロスさせている。
「ご主人、ダメニャ。作業も話も進まニャいニャ。ゴリラとは後でニャ」
ムツキのモフモフ行為やスキンシップ、通称おモフを止めると、ムツキの機嫌が少し悪くなることがある。ケットはゴクリと喉を鳴らし、じっとムツキを見つめる。やがて、ムツキは観念したかのように寂しそうな顔をした。
「……わかった。ごめんな」
「そんニャ悲しそうニャ顔をしニャいでほしいニャ……心苦しいニャ」
ケットがそう言うと、ムツキは顔を上げて元気な姿を見せる。
「……すまない。そうだな、元気よくいこう!」
「良かったニャ。さて、みんニャ、ありがとうニャ。今日は柱を立てて、屋根を作っていくニャ。安全第一でいくニャ!」
ケットが拳を振り上げると、そこにいた全員が同じように拳を振り上げる。
「おー」
「おー」
「おー」
「にゃー!」
「わん!」
「クマッ!」
「ウホッ!」
一同の心が揃ったので、それぞれが持ち場へ行こうとする。その前に、ナジュミネがムツキに声を掛けた。
「旦那様。ところで、この家は誰が設計しているんだ?」
「誰って、ケットじゃないかな?」
「……設計図は?」
「設計図なんてないが……強いて言えば、ケットが指示してくれているな」
「え。どうやってこんな上手くできているのだろうか、これは……」
ナジュミネも素人ではあるが、どういうものがあるのかくらいは聞いたことがあった。しかし、彼女が知っている必要なものがここには一切なさそうだった。
「ちょっと、ナジュミネ」
「ん? どうした、リゥパ」
今度はリゥパがナジュミネに声を掛ける。
「下手なこと言わない方がいいわよ? この辺りは大地の揺れも小さい上に少なくて、風も強い風なんて吹かないから、ある程度立っていれば、何とかなるみたいね」
「そんなバカな」
ナジュミネは驚く。そもそも、取ってきてすぐの木材を使えるのかさえ怪しいのに、周りはそれを気にした様子もなかった。
「というか、ほとんどの外部衝撃には、ムッちゃんの魔力で対応しているようだから、そういうところ気にしていないみたい」
「ん? この大きな建物の内側を常に快適に維持している上に、外からの衝撃にも魔力を振り分けているのか?」
どうやら普通の家とは違う。リゥパがそのように説明し、ナジュミネは首を傾げた。
「ムッちゃんの無尽蔵の魔力によるところが大きいわね……。多分、ムッちゃん本人も気付いていないわよ」
「まさか」
これほどの建築物に魔力を流し続けているのだから、環境の変化や急な外からの衝撃などの消費魔力が大きいものに気付かないわけがない。ナジュミネは言葉を疑う他なかった。
「本当よ。例えるなら、……砂漠は分かる?」
「あぁ、知っている。あの砂が一面に広がっている場所だろ?」
ナジュミネは金色の砂漠と呼ばれる場所を思い出す。砂以外にほとんど何もない荒れ果てた大地の末路のような光景を彼女は忘れることができない。
「そうね。その砂漠からスプーン一杯の砂を汲んでいる程度だと思えばいいわ。スプーン一杯の砂がなくなったところで分かると思う?」
「なるほどな」
ナジュミネはそのたとえで何となく気付かないことについて理解をした。
「ちなみに、私たちがムッちゃんと同じことをしようとすると毎日、夜には魔力切れ寸前になるし、魔力供給以外の行動は全くできなくなるわね。もっと言うと、外からの衝撃が強すぎると、魔力が枯渇して昏倒するわ」
「…………私たちでさえもスプーン一杯の砂程度の魔力ということか」
ナジュミネは魔人族の中でも指折りの魔力の持ち主である。その魔力は妖精族であるエルフとも引けを取らないほどの魔力であり、自分が強いという証拠の1つでもあった。しかし、それがムツキの前では比較にならないと知らされて愕然とする。
「おーい。ナジュ、リゥパ、こっちに来て、手伝ってくれないか?」
ムツキは2人の会話などまったく分からなかったが、自分の方に向けられた視線を感じて、2人に手伝いを促した。
「はーい」
「分かった」
「ということで、まあ、あまり気にしないようにしましょ?」
「そうだな。規格外過ぎて、土台が一緒にならないことだけは分かった」
ナジュミネはムツキとの差を考えるのを止め、目の前の仕事に集中することにした。