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◆静かな交番勤務と、変わらない彼

交番勤務へ異動になってから数カ月。


日向ヒカルは、毎朝の戸口点検と巡回を繰り返しながら、少しずつ傷を癒していた。


SATでの銃撃による後遺症は残っていた。


腕を上げると時々走る鈍い痛み。


そして、夜にだけ訪れる、あの事件の残像。


それでも、そばには必ず黒部アキトがいた。


放課後デイサービスの仕事帰りに、ヒカルを迎えにきて、

「今日も無事で良かったです!!ヒカルさん」

と笑ってくれる。


その笑顔を見るたび、ヒカルの胸の奥はじんわりと温まっていった。


◆不器用な優しさ


ある夜。ヒカルは交番での残業を終えて外へ出た瞬間、足が震えた。


ああ、まただ。


疲労が一気に押し寄せた。

身体の奥底に残る後遺症なのか、以前より限界が急に訪れることが多くなっていた。


「ヒカルさん!」


駆け寄ってきたのはアキトだった。


パート帰りらしく、リュックを背負っている。


ヒカルは倒れそうになりながらも、

「だいじょう…ぶ、だから…」

と、いつものように笑おうとした。


だがアキトは彼女の手首をそっと掴み、震えを感じ取って目を見開いた。


「大丈夫じゃないですよね」


その優しい言葉に、ヒカルの心のどこかが溶けた。


アキトのアパートに連れて帰られ、布団に寝かされる。


熱でふらふらになるヒカルに、

アキトは不器用な手つきでお粥を作り、

汗を拭き、

髪を留めなおしてくれた。


パート帰りで疲れているのに、

目の下にクマがあるのに、

それでも一晩中そばに居続けてくれた。


ヒカルは眠りながら、かすかに思った。


ああ、好きだ。

この人のこと、やっぱり

好きになってしまったんだ。


◆穏やかなデート


ヒカルが回復した頃。

休日にアキトは勇気を出して言った。


「よかったら、海にでも

行って

散歩でも…?」


告白ではない。

だけど、誘い方がぎこちなくて、ヒカルは思わず笑ってしまう。


「うん。行こ、アキト」


二人は千葉の海辺を歩いた。


夕陽が広がる中、

波の音だけが二人の沈黙を包む。


アキトはぽつりと漏らした。


「僕みたいなダメ人間が

ヒカルさんみたいな人と一緒に歩いてるなんて、不思議だな」


「ダメなんかじゃないよ。

アキトに救われた日、私、何度あったと思う?」


ヒカルは立ち止まり、真っ直ぐ彼を見た。


「アキトがいたから、私はここにいる。

アキトは…私のヒーローだよ」


アキトの顔が一気に赤くなる。


そして―


「ヒカルさん。

好きです。ずっと前から。

あなたを支えたいと思ってました」


海風が止まり、世界が静かになる。


ヒカルはゆっくり微笑み、彼の手を取った。


「私も。

アキトが好き。

ずっとそばにいてほしい」


二人の手は、初めて強く結ばれた。


◆恋人としての始まり


その日から二人の関係はゆっくりと深まった。


・アキトが仕事帰りに交番へ差し入れ


・ヒカルがアキトの部屋の掃除を手伝う


・休日は手をつないで買い物


交番の同僚にはすぐバレた。


「日向巡査部長、最近めっちゃ顔色いいじゃないっすか」


「帰りに、迎えあるんだろ?恋人持ちは違うねぇ」


「ち、違いますっ!」


と慌てるヒカルを見て、みんな笑った。


アキトは照れつつも、ヒカルの肩に手を置き、


「違わないですよね?ヒカル巡査部長!!」


と言ってくるのがずるい。


ヒカルの耳は真っ赤になった。



◆そして未来へ


夜道を歩きながら、ヒカルはふと呟いた。


「私、SATをやめて、本当に良かったのかなって…時々思うんだ」


アキトは立ち止まり、ヒカルの肩に手を添えた。


「ヒカルさんは、命を懸けて人を守ってきた。


身体を壊すまで頑張った。

…もう十分すぎるほど、戦ったと思います」


アキトの声は震えていた。


「これからは

僕にも守らせてください。

ヒカルさんが笑って生きられるように」


ヒカルの胸があたたかくなる。


「うん。守って。

…私も、アキトのこと、守るから」


二人はそっと寄り添い、

街灯に照らされながら、静かに唇を重ねた。


そのキスは、救いと約束の味がした。


■ アキトからの静かな提案


ヒカルが交番勤務に戻り、ようやく身体も心も落ち着きを取り戻し始めた頃だった。


アキトはヒカルの家に通うことが多くなり、ヒカルの体調の変化にもすぐ気づけるほどになっていた。


ある日の夜。

ヒカルの家のソファで、2人並んでテレビを見ていたとき、アキトが少し照れたように言った。


「ヒカルさんさ、そろそろ…

一緒に暮らすってのは、どうかな?」


突然の言葉にヒカルは目を丸くしたが、アキトの表情は真剣そのものだった。


「ヒカルさんのそばに、もっといたいんだ。

体調が悪いときも、嬉しいときも…全部、共有したい。」


ヒカルは胸がぎゅっと熱くなり、そっとアキトの手を握った。


「私も、アキトと一緒にいたい」


2人は見つめ合い、静かに頷き合った。


こうして、「同棲」という新しい一歩が決まった。


■ 新しい部屋、新しい空気


2人が選んだのは、駅から少し離れた静かなマンション。


1LDK、陽当たりのいい部屋。

ヒカルの職場にも行きやすく、アキトの勤務先にも近い。


引っ越し当日、ヒカルは戸惑った。


「こんな…普通の生活を、私がしていいのかな」


SATとして生き続け、戦うことばかりだった人生。


恋愛も、穏やかな家庭も、遠い世界のようだった。


しかしアキトは笑って言った。


「ヒカルさんは普通の人だよ。

涙も流すし、疲れたら倒れるし、笑うときはめっちゃかわいいし」


「か、かわ…!?」


「うん。だから一緒に住むの、すごく自然だよ」


ヒカルは真っ赤になりながらも、その言葉に心が軽くなった。


■ 生活が重なるということ


最初は生活リズムの違いに戸惑った。


ヒカルは勤務によって帰宅が遅くなることがあり、

アキトは放課後デイサービスの子ども達のために早起きする事もしばしば。


それでも、不思議と大きな喧嘩はなかった。


朝、アキトが淹れるコーヒーの匂いで目覚めるヒカル。


夜、帰宅したヒカルに「おかえり!」と笑い言う

アキト。


そんな日々が、ヒカルには新鮮で、温かかった。


ある晩、ヒカルは帰宅して泣きそうになった。


アキトが、夕飯にヒカルの大好物の味噌カツを手作りしていたのだ。


「ヒカルさん、今日疲れてたでしょ?

食べて元気出して」


「アキト。ありがとう」


あの日、瀕死で病院に運ばれ、目を覚ましてからずっと抱えていた喪失感が、少しずつ薄れていった。


■ 心の距離が近づく瞬間


休日、2人で家の近くの大きな公園を散歩した。


ヒカルはふと、アキトに言った。


「ねえアキト…私、もう一度誰かを失うのが怖いの」


アキトは歩くのを止め、ヒカルの両手を優しく包んだ。


「失わないよ。

俺、死ぬほど弱いし、戦えないし、逃げ足も遅いけど…

ヒカルさんを1人にする気は、これっぽっちもない」


ヒカルの目から涙がこぼれた。


「ずっと、側にいてね」


「うん。ずっと」


強く抱き合う2人。

ヒカルはその温もりが、救いのように感じた。


■ 同棲生活の小さな幸せ


・アキト、失敗しながら卵焼きを作る


・ヒカルがアキトに護身術を教えて、投げ飛ばしてしまう。


・休日にゲームをして、アキトがボロ負けてアキトふて寝。


・ヒカル、猫カフェで子猫に懐かれすぎて本気で連れて帰りそうになる。


どれも、平凡で愛しい日々だった。


ヒカルはある晩、寝る前にアキトの横顔を見ながら思った。


(私は今…生きていてよかったって心から思えてる)


アキトは眠りながら、ヒカルの手を軽く握っていた。


その何気ない仕草に、ヒカルの胸は満たされていく。


同棲生活は始まったばかり。



静かな幸せ


SATを退き、交番勤務へ戻ったヒカルは、以前よりも穏やかな日々の中で市民と向き合っていた。


命を狙われるような極限任務はなくなったものの、ヒカル自身が抱えていた傷はまだ完全に癒えていなかった。


そんなヒカルが同棲するマンションには、いつもアキトの作った温かいごはんの匂いが漂っている。


「おかえり、ヒカルさん。今日もお疲れさま」


「ただいま…アキト。ごめんね、ちょっと遅くなっちゃって」


「大丈夫。今日はハンバーグ作ったんだ。ゆっくり食べよ?」


ヒカルはワイシャツの襟に触れながら、心の奥がじんわりと温まるのを感じた。


アキトは決して派手でも頼りがいのあるタイプでもない。


しかし彼は、命のやり取りをしてきたヒカルが初めて「守られたい」と思えた相手だった。


プロポーズの前触れ


同棲から半年。

ヒカルは、アキトとの未来を本気で考えるようになる。


しかし、ひとつだけ不安があった。


自分は、人として普通の幸せを得ていいのだろうか?


SATで失った仲間。瀕死の傷。父カイと南條陸の「戻れ」という声。


全部がヒカルの中でまだ整理しきれていなかった。


そんなヒカルの胸の内を、アキトはそっと察していた。


ある晩、アキトはヒカルの肩に頭を寄せて、言った。


「ヒカルさん。無理に前を向かなくてもいいよ。

向ける時に向けばいい。

でも…僕はずっと、あなたの隣にいたい」


その言葉はSATのどんな武器よりも強くヒカルの心に届いた。


アキトの決意


アキトは職場である

放課後デイサービスの契約社員に昇格し、仕事にも自信がつき始めていた。


ヒカルとの将来を考えるにつれ、彼の中である決意が固まっていく。


「ヒカルさんを一生守りたい」


アキトは休日に実家へ帰り、勇気を振り絞って言った。


「母さん…俺、結婚したい人がいる」


「え!?だ、誰!?どんな子なの?」


「すごく強い人で…でも、本当は誰よりも優しい女性なんだ」


母は、息子が初めて見せる大人の表情に胸が熱くなった。


「そんなに大事に思える相手なら、会ってみたいわ」


アキトはプロポーズする決意を固め、指輪を買いに行った。


プロポーズ


休日、ヒカルとアキトは二人で海辺を歩いていた。


治療とリハビリを終えたとはいえ、ヒカルの身体にはまだ傷痕が残っている。


潮風が吹き、波音が寄せるなか、アキトは立ち止まった。


「ヒカルさん…」


アキトは小さな箱を取り出す。

緊張で手が震えているのが分かった。


「あなたが危険な任務に就いていた時も、昏睡していた時も…

怖くて何度も泣きそうになった。

でも、離れたいとは

思わなかった」


ヒカルの胸が締め付けられる。


「俺、強くない。でも…あなたがどんな過去を背負っていても、どんな未来が来ても、

あなたと生きたい。

結婚してください、ヒカルさん」


ヒカルの目から涙があふれた。


「…私で、いいの?こんな、傷だらけの私で。」


「ヒカルさんじゃなきゃ嫌だよ」


ヒカルは震える手で指輪取り

薬指にハメた。

そして、アキトを抱きしめた。


「はい…お願いします。私と、ずっと一緒にいてください」


夕日が二人を優しく包み込んだ。


家族への報告


ロジンと白石は、家に帰ってきたヒカルを見てすぐに気付いた。


「ヒカル…その指輪は。」


「うん。…アキトと、結婚することにした」


ロジンは涙を流し、白石は「ようやく幸せになってくれたか」と微笑む。


「ヒカル。幸せになりなさい。あなたの人生は、あなたのものよ」


ロジンの言葉に、ヒカルは涙をこらえきれなかった。


式に向けて


アキトの母親もヒカルに会い、優しく受け入れてくれた。


「ヒカルさん、うちの子をよろしくお願いします」


「こちらこそ…

私なんかでいいのでしょうか。」


「あなたほど息子を変えてくれた人はいないのよ」


式の準備、衣装選び、新居探し。


2人の生活は忙しくも幸せに満ちていた。


結婚式前夜


結婚式の前夜、ヒカルは窓の外を眺めながら、亡くなった父カイと南條のことを想う。


「私ようやく、幸せになっていいんだね…?」


その夜、夢の中で優しい声が聞こえた気がした。


『行ってこい、ヒカル。お前の幸せを生きろ』


父カイと南條の声だった。


ヒカルは静かに涙を流し、眠りについた。



春の柔らかな光が差し込む午前。


千葉県郊外の小さな教会の前には、白い花びらが風に舞い、 まるでふたりを祝福するようだった。


今日は

ヒカルとアキトの結婚式の日



ヒカル、花嫁になる


鏡の前に立ったヒカルは、純白のウェディングドレスを身に纏いながら、

どこか照れくさそうに微笑んだ。


元SAT狙撃班班長として数々の修羅場をくぐってきた彼女も、

この日は

一人の女性として輝いている。


ドレスの背中のリボンを結んでくれるのは、ロジン。


白石も式に来ており、控室の外でそわそわしている。


ロジン

「ヒカル……本当に綺麗。パパも南條さんも、みんなあなたを誇りに思うはずよ。」


ヒカル

「うん。私、生きててよかった。今日を迎えられて、本当に」


涙をこぼしそうになるのを必死に堪え、彼女は微笑んだ。


アキト、緊張の待機室にて


一方、アキトはタキシード姿で式場の控室にいた。


SATに所属していたヒカルを守れなかった。


そんな自責の念を抱えていた時代もあった。


だが、あの日倒れたヒカルを看病し、

そして

ヒカルに支えられながら自分も成長しようやくここまで来られた。


アキト

「ヒカルさんが、俺の奥さんになるんだな」


緊張しながらも嬉しさが込み上げてくる。


バージンロード


ロジンに手を取られ、ヒカルはゆっくりとバージンロードを歩く。


家族、警察仲間、元SATの隊員たち。


楓も赤ちゃんを連れて参列しており、涙ぐんでいる。


その光景に、ヒカルは深く息を吸い込んだ。


そして祭壇の前でアキトと目が合った。


アキトは、心の底から彼女を愛している表情で見つめていた。


ヒカル

(この人と生きていくんだ)


胸が熱くなる。


誓いの言葉


神父

「互いを愛し、支え合い、いかなる時も傍にいると誓いますか?」


アキト

「誓います。何度でも、何があっても、必ずヒカルさんを守ります」


ヒカル

「誓います。あなたと生きる未来を、私は選びました」


ふたりは指輪を交換した。


ヒカルの指に輝くリングは、戦いや痛みではなく、

未来と安心を象徴する光だった。


神父

「それでは…

新郎新婦の、初めてのキスを」


アキトはそっとヒカルを抱き寄せ、優しく唇を重ねた。


会場は大きな拍手に包まれる。


披露宴


披露宴では、ヒカルの元上司・警視庁の仲間が涙を浮かべながら語る。


「日向警部は、俺たちの誇りだ」

「これからは、幸せな人生を歩んでほしい」


楓が赤ちゃんを抱きながら

「ヒカルさん、本当におめでとうございます! これからも友達ですからね!」


と言って抱きつき、会場は笑いに包まれた。


アキトの弟も照れくさそうに祝福する。



「兄貴…よかったな。本当によかった。こんなに

綺麗な嫁さんもらってさ!!」


アキトは涙ぐみ、ヒカルはそっと手を握り返す。


式の後の静かな時間


夕暮れ。

式を終え、ふたりは海辺に寄り道した。


ヒカルはそっとアキトの肩に寄りかかる。


ヒカル

「アキト、私を生かしてくれて、本当にありがとう」


アキト

「ヒカルさんが、俺を救ってくれたんだよ。

俺…ヒカルさんがいない人生なんて、考えられない」


波の音がふたりを包み込む。


ヒカル

「これから先、どんな日が来ても…私たちは一緒だよ」


アキト

「うん。ずっと、ずっと」


ふたりは手を重ねたまま、暮れてゆく海を見つめていた。


こうして、

元SAT狙撃班班長と、不器用なオタク青年の、

不思議であたたかい恋物語は、新たなスタートを切った。



それぞれの朝


結婚してしばらく経った春の朝。


ヒカルは交番勤務に戻り、穏やかで規則正しい日々を送っていた。


アキトは放課後デイサービスで働き、子どもたちへの療育に熱心に向き合い始めていた。


「アキト、今日も子どもたちの相手、大変でしょ?」


出勤前のキッチンでヒカルがコーヒーを渡す。


「大変だけど……俺、子どもたちの『できた!』って顔を見るのが好きなんだよね。もっとできること増やしたいなって思ってる」


アキトの表情は、初めて会った頃とは比べものにならないほど明るく、自信に満ちていた。


ヒカルは微笑む。

あなた、本当に変わったな。


自分も支えられていると、いつも感じていた。



ある日、アキトは施設の責任者に呼ばれた。


「黒部くん。児童発達支援管理責任者の資格、取ってみないか?」


予想もしなかった提案に、アキトは言葉を失う。


「え……僕がですか? 僕でいいんですか?」


「利用児のお母さんたちから、”黒部さんの支援で子どもが変わった”って声が多いんだよ。


君は、子どもを尊重する姿勢が誰よりも強い。期待してる」


アキトの胸が熱くなる。

昔は就活に落ち続け、何をやっても上手くいかず、弟にすら見下されていた自分が

誰かに“期待”されるなんて。


帰宅すると、ヒカルが夕食を作って待っていた。


報告を聞いたヒカルは、目を輝かせて言った。


「すごいじゃん、アキト。

あなた、本当に変わったね。誇らしいよ」


アキトは照れくさそうに俯く。


「ヒカルが…さ

俺を信じてくれたからだよ。」


その言葉に

ヒカルの胸がじんとなる。


ヒカルの異変


ある休日。


ヒカルは朝から体が重く、微熱のようなだるさが続いていた。


アキトは気づいて

心配そうに覗き込む。


「ヒカル、最近疲れてる? もしかしてまた無理してない?」


「ううん、たぶん

ただの疲れ」


言いながらも、心の奥に妙な違和感があった。


その数日後、勤務中にふっと眩暈が起き、座り込んでしまう。


同僚に支えられて休憩室へ運ばれ、

そのまま早退して帰宅した。


アキトは慌てて病院に付き添った。


診察室で、医師が告げた言葉は…。


「妊娠、してますよ」


ヒカルもアキトも、ぽかんと固まった。


「え?」


「ヒカル、と俺…の…赤ちゃん…?」


一拍遅れて、ヒカルの目からぽろりと涙がこぼれる。


「うん…赤ちゃん…。」


二人は手を取り合い、喜びと驚きが一気に押し寄せる。


新しい日々の準備


妊娠が分かってから、アキトの表情は日に日に優しくなった。


「ヒカル、重いもの持たないでね。

床掃除は俺がやるから」


「え、いいよ。そんなに気を遣わなくても」


「気を遣わせてくれよ。パパになるんだから」


そう言って笑うアキトの顔に、ヒカルの胸はいっぱいになった。


アキトは研修を重ね、

ついに

児童発達支援管理責任者

児発管の資格認定を受けた。


アキトは真っ先にヒカルに電話をかけた。


『ヒカル! 俺…

正式に児発管になれたんだよ!』


「本当に? おめでとう!!

あなたなら絶対なれるって思ってた」


電話越しに嬉し泣きしそうになる。


アキトは震える声で言う。


『これからは、ヒカルと、赤ちゃんのためにも…

もっと仕事頑張るよ。いい家庭を作りたい』


ヒカルはお腹をそっと撫でて、小さく呟く。


「私も、あなたとなら

絶対、幸せになれる」




育まれる未来へ


夜、2人のマンション。

ヒカルはお腹に手を当て、寝息を立てるアキトの肩に寄りかかっていた。


過酷な任務の中で命を落としかけた自分が、

今はこんな温かい時間を過ごしている。


アキトは眠ったまま、ヒカルの手を握り返す。


優しい、安心する手。


ヒカルは微笑んだ。


「この子と、あなたと…生きていけるんだね」


彼女の瞳には、

確かな未来への光が宿っていた。


妊娠後期、ヒカルの不安


ヒカルは妊娠9ヶ月。

警察官としての現場復帰はしていないが、交番での穏やかな勤務を続けながら、

家ではアキトの他愛ない話に癒やされる毎日だ。


しかし夜になると、ヒカルは時折不安に押し潰されそうになる。


「本当に私、母になれるのかな。」


「なれるよ。ヒカルなら絶対に。」


アキトは隣に座り、そっとヒカルの肩を抱く。


SAT狙撃班の元隊長として数々の修羅場をくぐり抜けてきたヒカルでも、

新しい命の誕生は未知の恐怖だった。


それでもアキトは、彼女が弱音を吐く時は最後まで寄り添い、

ただ側にいることで支え続けていた。


陣痛開始、深夜の病院へ


ある深夜


「あ、痛っ……。アキト…違和感…これ……陣痛かも。」


アキトは飛び起きた。


SATの出動ベルよりも早く反応し、準備を整え、ヒカルを車に乗せる。


病院に着くと、ヒカルは強い陣痛に顔をゆがめながらも、


「大丈夫。私、逃げない…」

と自分に言い聞かせるように呟いた。


アキトはヒカルの手を握りながら

「逃げなくていい。俺がここにいる。」


と優しく返した。


-ロジンと白石駆けつける


朝方、ロジンと白石も病院へ到着した。


白石は焦った顔で受付を駆け寄り、

「孫が……あ、いや、娘が……えっと…姪が…。」

と軽く混乱している。


ロジンはその横で深く息を吸い、

「ヒカル、大丈夫かしら

不安で、怖くないかしら。」

と胸に手を当てて祈った。


白石はロジンの肩に手を置き、

「大丈夫だ。ヒカルは強い子だよ。」

と、父のような柔らかい声で言った。


分娩室

アキト、立ち会う


ヒカルは汗で髪が張り付きながらも、

歯を食いしばって陣痛に耐え続けた。


「アキト……手……離さないで……!」


「離さない!一秒たりとも!」


アキトは必死に声をかけ続け、

ヒカルの痛みに寄り添っていく。


医師が言った。


「次のいきみで出ますよ!」


ヒカルは全身の力を込め、

「——ッ!!」

と叫んだ。


そして——


「おぎゃぁぁぁ!!」


新しい命の産声が部屋いっぱいに響いた。


ヒカルは涙を流し、アキトは目を覆いながら震える声で言った。


「ヒカル…ありがとう…ありがとう。やった!!」


家族の初対面


ロジンと白石が分娩室に呼ばれる。


ロジンは生まれた赤ちゃんを抱き、顔を真っ赤にして泣き崩れた。


「ヒカル…よく頑張った…ね…。なんて、可愛い子!!」


白石は涙をこらえながら、

ヒカルの頭を優しく撫でて言った。


「おめでとう、ヒカル。お前は本当に……本当に立派だ。」


ヒカルは微笑む。

「パパ、ママ…ありがとう。」


アキトはそんな3人を見ながら、

「俺も、この家族の一員なんだな。」

と胸の奥が熱くなった。


ロジンはアキトに微笑んだ。


「アキト君…ありがとう。これからも

ヒカルを頼むわ。」


「はい。絶対に幸せにします!!。」


病室での静かな幸福


夜。

病室には静かな空気が流れていた。


赤ちゃんを胸に抱くヒカルは小さく息を吐いた。


「……この子の名前、どうしようか。」

アキトはベッドに座り、赤ん坊のほっぺを優しく触れながら言う。


「……ヒカルの光と、俺の希望が混ざるような名前がいいね。」


「うん…」


「光希(みつき)でどうかな?」


「いい名前…光希…。産まれてきてくれてありがとう。」


ヒカルが光希を抱きしめながら言う。


その姿を見て

アキトも優しく微笑んだ。



ヒカルとアキトが結婚してから5年。


千葉県郊外の静かな住宅街に、3人家族の穏やかな生活が根づいていた。


光希の朝(みつき)


「ママ、きょう幼稚園で えいご の発表なんだよ!」


まだ身長110cmにも満たない光希は、くりくりした瞳を輝かせながらヒカルに抱きつく。


「うん、知ってるよ。がんばってね、光希」


SATを退いたヒカルは、今は地域課の巡査部長として交番勤務。


忙しくても毎朝、光希の髪を整えてリボンを結ぶのが日課だった。


光希は好奇心旺盛で、小さなことにもすぐ興味を示す。


しかし

ヒカル譲りの慎重さも持ち合わせており、走り回る他の園児を横目に、

「ここはあぶない」と冷静に判断することも多い。


アキトは、放課後デイサービスで経験を積み、児童発達支援管理責任者(児発管)として毎日

忙しいが、家族との時間を大切にするやさしい父親だった。


幼稚園での光希の姿


光希は幼稚園でも有名な「小さな天才」だった。


ある日、先生が驚いて電話してきた。


『光希ちゃん、今日 “9 ÷ 3 = 3” を暗算で出したんですよ』


ヒカル「へぇ…やっぱり光希、すごいわね…」


光希は英語も、ヒカルが

昔使っていた教材を見て

自然に覚えていった。

「りんごはappleでしょ?」と得意げに言う姿に、家族はみんな笑顔になる。


**3. おじいちゃん達の訪問**


週末、ロジンが遊びに来る。


光希は走ってロジンに抱きつく。


「ばぁば!!えいごのテスト100てんだったよ。」


「ええ、さすがね光希」


ロジンが頭をなでる。


ロジンはヒカルの育児に目を細め、「あなた、私よりずっと良いお母さんね」と言う。


だがヒカルは首を振る。


「私じゃなくて、みんなが光希を守ってくれるからよ。」




その夜…

アキトは、寝る前の光希の髪を乾かしながら言った。


「光希は、好きなことを見つければいいよ。パパもママも応援するからね」


光希は布団に潜り、キラキラした瞳で答えた。


「うん!じゃあね…

わたし、えいごのせんせいになりたいな!

そしたら、ママやパパにいっぱい教えてあげるの!」


ヒカルとアキトは顔を見合わせ、笑い合った。


小さな光希が、もう未来を描き始めている。


その姿に、2人は静かに幸せを噛みしめた。


そして

家族は続いていく


光希はまだ5歳。

これから先、もっとたくさんの不思議と夢に出会うだろう。


ヒカルとアキトは、手を取り合いながらその成長を見守る。


ロジンも、祖母として全力で光希を甘やかし、愛し、支えていく。


家族のあたたかさに包まれた光希の物語は

これからますます輝いていく。







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