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「あ、えーっと…誰でしたっけ」
まただ。またこの会話だ。彼女は隣に住んでいるお姉さん。多分俺より年上だと思う。
会う度に髪型が変わっていて、その長い銀髪がポニーテールになったり、ツインテールになったりハーフアップになったり。近づくとふわりと立ち込めるフローラルな花の香りが鼻腔をくすぐる。彼女は白いセーターをいつも身につけていて、エプロンをその上から着ている。ここに来て、俺はまだ半年ほどだが、ほぼ、毎日出会うため、彼女の服装はもう完璧に覚えている自信がある
「隣の部屋の○○ですって……何回言えばいいんですか……」
「あ…そうでしたね〜○○さん♪うんうん素敵な名前ですね〜」
彼女は一方的に名前を聞いては他愛もない会話を一方的にして立ち去るという意味不明な行動をする。意味不明というよりは、自由奔放でまさに猫のようだった。
ある日、ひょんな事から彼女の家にお邪魔する事になった。
部屋は綺麗に整頓されており、驚くほど、殺風景でどこか、心細くなってしまう。リビングのど真ん中に置いてある白いダイニングテーブルの上には食べかけのグラタンが鎮座している。そうだ。この人も人間だ。自炊くらいはする。なぜか、そんな思考に陥ってしまう。
彼女の部屋と思われる場所にはふわふわのカーペットが敷かれ、その上に白くて丸い小さなテーブルがあった。机の上には書きかけのレポートのタブが開かれているパソコン、そして電子タバコがあった。
「あの……白色お好きなんですか?」
「ん?そうですよ白色って何だか落ち着くんです♪さ、遠慮せずに座っちゃってください♪」
そのまま、彼女と話を進めていくと、どうやら、彼女は俺が入居する1年ほど前からこのマンションに住んでいるそう。彼女は軽い精神疾患を患っているらしく、あまり外に出る事がないという。よく見ると、彼女の部屋には薬があり、それも綺麗に整頓されている。いいな。俺もこんな綺麗な部屋に住んでみたい。しばらくすると彼女はうっとりとしたため息を吐き、俺に近寄る
「もっとです…もっと近寄ってください…貴方は普段何を考え何を発し、何を理解しているのか、私に全部教えてください…」
「え?!ち、近過ぎますよ!!」
「近い…?ふふっ…面白い冗談を言う方ですね」
彼女はふふっと笑いを溢す。
「私達は壁一つ隔てたただの隣人同士……ですが今こうして新たな関係を紡ごうとしてるんです…こんなに幻想的で夢にまで見た光景…待ち切れるわけがないでしょう…?!さあ…もっと近くに…!!さあ…さあ……」
彼女の息が荒くなり、頬が段々と真紅に染まっていく。名前すら覚えてもらっていない相手にここまで尽くされるのは嫌。なはずなのに。どこか、望んでしまっている自分がいるのも事実。
「ダメです!!俺まだ童貞ですし!!」
言ってしまった。興奮状態の彼女にとってこの言葉は禁句だ。彼女は驚愕の色で顔を染めそして顔を紅潮させる
「ああ…….素晴らしい……!!○○さん!貴方は私の興味を最大限に引き出してくる……実に面白くて興味深い……!!さらに貴方を知りたくなってきました!もっと….!近くに!!」
これはダメだと悟った。この人に何を言っても無駄だ。この人は俺を隅々まで喰おうとしてるマットレスの鈍い感覚が背中越しに広がる。押し倒された。華奢な人に押し倒された。その事実が信じられず俺は口を意味もなく開く。何かを発する訳でもない。ただ単純に信じられないという気持ちでいっぱいいっぱいである