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「本当にごめんね、迷惑かけて」
「いいって。じゃ、適当に寛いでいいから」
「うん」
まさか彼女でもないのに、またしても小谷くんの部屋にお邪魔して夜を過ごす事になろうとは。
(……小谷くん、何とも思わないのかな?)
私なんて意識する対象にもならないのかもしれないけど、人と関わる事が好きではないと噂されているのに困っていれば助けてくれる彼は、何を思っているのか気になるところ。
(……まぁ、すごく助かってるからいいけど。でも、このままお世話になりっぱなしは悪いよね)
「そういえば、明後日旅行行くんだよな?」
「うん」
「戸締り、きちんとしてけよ?」
「わ、分かってるよ……」
正直、旅行は乗り気じゃない。杏子と二人なら良かったけど、浦部くんと楠木くんが一緒だから。
勿論二人が嫌いな訳じゃないけど、やっぱり異性が居るのと居ないのとでは心持ちも違う。
「一緒に行く男とは仲良くなった訳?」
「ううん、最初の頃はメッセージのやり取りしてたけど、私があんまりマメな方じゃないから続かなくて」
「お前、紹介してもらってそれもどうなの?」
「べ、別に私がお願いした訳じゃないもん。それに、男の子って、ちょっと苦手だから」
「ふーん?」
「な、何?」
「いや、俺も男だけど?」
「そ、それが?」
「いや、俺はいい訳?」
「その、なんて言うか、小谷くんは違うの」
確かに小谷くんも異性だけど、彼は他の男の子とは違う。
それは恋愛感情を抱いている訳でもなく、かと言って男の人と意識していない訳でもない。
上手く言えないけど、特別という言葉が相応しい気がする。
「何それ」
「うーん、上手く説明出来ないけど、信頼出来る友達っていうか、家族……みたいな? そんな安心感がある感じ……かな?」
「へぇ?」
私にとっての家族は叔父さん夫婦で、正直彼らの居る空間に安心感を感じた事はなかった。
でも、小谷くんは家族くらい近い存在というか、今は誰よりも信頼出来る人……と言えるかもしれない。
「変、かな?」
「別に、いいんじゃね?」
「そう?」
「大抵女って『特別=恋愛』に結びつけようとするだろ?」
「そんな事も無いと思うけど……」
「そうか? まぁ、俺の知ってる奴がってだけかもしれねぇな」
「…………それって、親しい女の子がって事?」
「いや、そういう訳じゃねぇよ。悪い、今のは忘れて」
「う、うん、分かった」
聞いてはいけない事だったのだろうか。流れから『特別=恋愛』と結びつけようとする小谷くんの知っている人というのは女の子で、否定はしたけど他の人よりは親しい間柄なのではないかと思う。
(何だろ、何か、気になる……)
「ま、俺は由井からしたら男って訳じゃ無さそうだし、恋愛とか面倒な事にならなくて良かったわ」
「え? あ、うん」
確かに、彼に恋愛感情を抱いた事は無い。
こうして二人きりで夜を共にしても安心出来るくらいに信頼している家族のような存在だ。
だから、これまでは彼が私をどう思っているかなんてそこまで気にはならなかった。
(小谷くんにとって……私はどういう存在なんだろう?)
それなのに、いつの間にか彼にとっての自分の存在はどういったものなのか気になり始めてしまっていた。