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どんよりとした雲が一日中空を覆っている。
俺でなくても誰もが傘を持っているような、じめじめとした嫌な日だ。あらゆる可能性を想定し、嵩張る折りたたみ傘を毎日持って来ている。が、今日はさすがに普通の傘を持って登校したのだった。
部活が始まる頃には雷も鳴り、警報が出そうな勢いで雨も降り出した。
さすがに警報クラスともなると部活も休みになり、完全下校という形になる。
このくらいの雨なら部活はできる!と気合いの精神で、の弦一郎も黙ったくらいだ。俺も雨足が強くなる前に帰宅したかった。
さて、帰ろうかと下駄箱に行き着いたところで1人女子が立ち往生してるのに気付いた。
同じクラスのあいつだと分かるのには時間はかからず、何故入り口付近で立ち尽くしているのか気になった。
「どうしたそんなところで」
「え、あの?あ!柳くん!」
「迎えでも来るのか?」
「いや、こないです…」
しゅん、と効果音が付きそうな表情だった。雨の日にそんな顔をすると気分が落ち込むぞ、と言うと困ったように笑った。
「ならば早く帰るべきだ。雨が弱くなることはないぞ」
「そうしたいんだけど、その…」
「まさか傘が無いのか、朝からいかにも雨が降りますという日に」
「全くその通りです…」
驚いた。ありえないだろう、とも思ったがそれを口に出すことはない。
現に傘を持って来ていないのだから過去のことについて言及しても仕方が無い。
「ならば俺の傘に入るか」
「えええ!濡れます!」
「これも何かの縁だ、大人しく入れ」
半ば強引だったが傘に入れた。
最初こそ戸惑っていたが背に腹は変えられなかったようだ。
一歩外に出ると滝にでも入ったのか、と思う位けたたましく傘が鳴った。
俺の傘の中で、くっつき過ぎないよう、それでいて俺が濡れないよう頑張っている姿が可愛らしいと思った。
傘を忘れてくれたことが少し嬉しいと思ってしまう。
今後はもう少し深く彼女のことを知って行きたい、という欲が生まれた雨の日。
悪くない。