召喚ドワーフが驚きの声を上げる間もなく、突然激しい揺れが襲う。そして目の前の地面一帯に亀裂が走りだした。激しい震動で足下は海面のように波打ち、それによってドワーフたちが立っていられないえぐれた地面となった。
「う、うわぁぁぁぁ!? じ、地面がえぐれて――」
「うぅっ、退避退避!」
シーニャを取り囲んでいたドワーフたちは取り乱す仲間を連れ、いったんそこから離れていく。ドワーフたちが離れたのもつかの間、アックがかけていた霊獣の守りが薄まり効力が切れようとしていた。
「ウニャニャニャ……!? お、落ちてしまうのだ!!」
焦りだしたシーニャの眼前には、えぐれた地面と底が見えない穴が広がっている。
身動きが取れないまま水膜に守られていたうえ、咄嗟に回避する余裕のないシーニャは揺れが続く中、穴に落ちてしまいそうな状況に陥っていた。
「ウ、ウニャゥゥッ!! アック、アック~! お、落ちるのだ!! 嫌なのだ、落ちたくないのだ!」
必死にしがみついていたシーニャだったが、収まらない揺れで穴に吸い込まれてしまう。
「アックアック、アック~!!」
「――っとと、間に合ったか。シーニャ、もう大丈夫だ」
「ウ~ウウゥ……怖くて目が開けられないのだ……」
穴に落ちてしまったシーニャの姿は、暗闇空間が解けた時点で見えていた。そこからすぐに彼女を抱っこして、風魔法で空に浮かび、彼女の回復を待つことに。
「怖かったのだ、怖すぎたのだ……ウニャ」
「シーニャ、遅くなってごめんな。落ち着いてゆっくりと目を開けてくれ」
「――ウ、ウニャ、アックが見えるのだ! アック、来てくれたのだ?」
「一人にさせて怖い目に遭わせてしまったな。このまま休んでいいからな」
「フニャ……アックが言うならそうするのだ」
通常のシーニャなら油断が生じないものだった。だが、霊獣の守りでかえって動作を遅れさせてしまった。そのせいで穴に落ち、ショックで疲労と恐怖を感じたようだ。
「ルティ! シーニャを頼む!!」
「はいっっ!!」
「フィーサ――!」
「はいなの!! イスティさまに呼ばれる前に戻っておいたなの! 小さなドワーフにお仕置きするなの!!」
「じゃあ向かうぞ」
さすがはフィーサだな。おれが考えていることを先読みしてくれている。
「それとイスティさま。わらわは、片手剣に変化しとくなの! 存分に振り回して欲しいなの」
「片手剣に変化出来るのか! そういうことなら『エンチャント・ダーク』と。これで行くか」
◇◇
暗闇空間にいたおれは闇魔法を発動させた。魔神フォルネウスは未熟な末裔が召喚した幻獣だったこともあり、唱えた闇魔法にあっさり屈する。
そこからは電光石火の連続だった。
サメの姿をさせていたフォルネウスを従え、シーニャがいる地上へと動いた。ドワーフたちは不安定な場所から離れ、どこかに身を隠している。それならあえてフォルネウスを泳がし、幻獣召喚した奴の所に導いてもらうことにした。
◇◇
「ル、ルピ。あっち、静かになった? なったならボクはフォルネウスを戻して……」
「幻獣、戻って来た。帰還命令、命令して、フォル」
「してして! 命令、命令」
「する、するよ」
森の陰の窪みの中に、小さな数人の子供の声が聞こえる。正確な場所は見えないが、フォルネウスの巨躯は真っすぐにそこへ向かいだす。
距離が縮まったおかげで、小さなドワーフたちの名前もここにきてようやく判明した。もっともその名前を知ったところで勝負はすでに決しているが。
「よ、よし、幻獣フォルネウス、帰還だ!」
「ギュイイイイイイイ!!」
「えっ!?」
懐柔したフォルネウスは尖れた歯を見せつけながら、ドワーフの命令に反する動きを見せた。ギリギリの所で攻撃をしない指示だったが忠実に守ってくれたようだ。
「……行くぞ、フィーサ」
ドワーフたちが戸惑う中、おれは片手剣となった神剣フィーサと錆びた片手剣を両手にしながら急襲。神剣フィーサによるエンチャント攻撃をドワーフたちではなく、フォルネウスに直撃させた。
「な、ななな……ボクのフォルネウスがあぁぁぁぁ!!」
騒いだドワーフのうち、フォルネウスを召喚した奴を特定。すかさず錆びた片手剣を対象のドワーフに向けて、頭上から振り下ろした。
すると、ジュゥッとした音と炎が剣を受け止め、目の前に現れていた。
「させない、させないぞ……人間。幻獣サラマンダーで燃え尽きてしまえ!!」
「――! なるほど、火の精霊竜ってやつか」
「人間許さない、許さない。燃えて無くなれ! 仲間、守る、守る」
炎の強さを見るに、このドワーフたちのリーダーで一番魔力の強い者か。しかしこれでようやく幻獣戦も終えられそうだ。
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