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「は~…だりぃ」
旅行から帰ってきた2日後。
まだ疲れは取れていなかった。
もちろん温泉に入り気持ちはリフレッシュはできたものの、結構な距離を移動したためか、肉体的に疲れていた。
昨日も今日も大学も休みにしていた。こんな状態で勉強なんかできっこない。
もう時計は11時を指していたが、まだベッドの中にいた。顔も洗っていない。
肌荒れが心配なので、重たい体をしぶしぶ起こして洗面台に向かった。
「…ふぅ、」
スキンケアをし、歯を磨き、朝ごはん兼昼ごはんを食べ終わった。
まだ体はどこか重い。
リビングのソファに寝っ転がり、パソコンでYouTubeを開く。
そろそろ個人のチャンネル投稿しなきゃなあ…とか思いながら、オススメ欄をスクロールしていく。
STPRメンバーのチャンネルは全員登録しているからか、オススメ欄の8~9割はメンバーのチャンネルの動画だった。
その中から「久しぶりに2人でフォトナ、ヤッチャイマースWWWWW」という既視感のあるテロップの動画があった。12分前。
「あ…これぷりっつくんのだ…」
多分、旅行で編集していた動画だ。翌日にあげてる…頭悪いんじゃないか…?
「無理しないで言ったのに…。」
そうボソっと呟く。
動画をタップする。
手元の有線イヤホンをとり、音量をあげる。
すると「はいどうも!ぷりっつと〜?」と元気な声が聞こえる。それに続いて、あっきぃくんの声も聞こえる。
「からあげもぐもぐ!どうもあっきぃでーす!」
「よいしょお!」
(仲良いよなあ…)
そりゃあそうだ。STPRに所属する前からの仲なのだから。俺なんか何の関わりもなかったのだから。
よく話してもらっているだけ、いい方なはずだ。
いや、ぷりっつくんが寛容なだけなのかもしれない。
そんなことを考えているうちに動画は本題に進んでいた。
高評価をしてコメント欄を開く。
「ここのぷりっつくん可愛いw」
「まじで面白すぎる。そして相変わらずフォトナが上手い」
「あっきぃくんのここがツボすぎて一生笑ってるw」
それな。やっぱり面白いよな。
ぷりっつくんだもん。
編集もテロップも見やすいよな。うんうん。
「あきぷり尊い!まじでもっと絡んでほしい!」
「やっぱりあきぷりだよね」
「久しぶりにここの絡み見れて嬉しい」
( ………っ )
…そうだよな。
やっぱりこの2人の絡みを求めている人は多いはず。
「昔からのペアって本当に良い。好き」
( このコメント…いいね200… )
昔からのペア。昔からの仲。
それはどうやっても追いつけないアドバンテージだ。
「…はあ、」
ため息をつきながら、動画を一時停止して、YouTubeを閉じる。
少し頭がズキッとした気がしたので、倒れるようにソファに横になる。
(…別に、俺も前からぷりっつくんと関わりがあったら、もっと仲いいし。)
午後2時すぎ。
起き上がる気力もなく、ソファでそのままダラダラしていると、同じグループのリーダーで長年の仲の心音からLINEがきた。
「ちょっと企画で話したいことがあるから、今からカフェいける?旅行明けでごめん、無理しないでね」
また随分と急だ。
まあこういうヤツなのは知ってるので今更何も言わないが。
「おけ、場所送って」と返事をして、服を取りにクローゼットに向かった。
先に着いたのは何故か誘われた俺だった。
「先カフェ入ってるで」とLINEして、カランッと音が鳴る扉を開けて店内に入り、窓際の席に座る。
何を頼まないのも落ち着かないので、コーヒーだけを注文する。
ぼんやりと景色を眺めていると、ズキッと頭痛がした。
「、…っ”、」
実は電車を乗ってる時もずっと頭が痛かった。
家を出る時は、どうせ治るだろとか思っていたが、そろそろ無視しがたい痛さになってきた。
昨日からずっとだ。やはり疲れが取れてないのだろうか。
コーヒーを半分まで飲んだところで、カフェの扉の鈴が鳴った。
「いらっしゃいませ、何名様ですか?」と聞く店員に「あ、もう先に友達に入ってもらってるんで」と断りをいれた彼は、俺を見つけるなり控えめに手を振って歩いてくる。
「らぴす〜おつかれ〜、いきなりごめんな」
「ん、大丈夫。そっちもお疲れ様」
心音は俺の正面の席に座り、鞄を机の下のカゴに入れる。もちろんブランドものだ。流石。
ふと心音の頭に目がいく。見覚えのない帽子をかぶっていたので、不思議に思って聞く。
「帽子、新しいやつ?やんな?」
すると心音はパッと目を輝かせて、頷く。
「え!そうそう。最近もらったんだよね、いいっしょ」
「うん。バケハのイメージなかったから、新鮮でええわ。似合ってるで」
「うぇい、せんきゅ。笑」
長年変わらないニカッと笑う顔に釣られて、俺も顔が綻びそうになる。
「…本当は、旅行のときに着けてこうとしたんだけど、なくしたら嫌だったからやめたんよね。」
心音は大事そうに帽子をポンポンっと撫でる。
「あーなるほどね。落としそうだもんね。」
「そうそう」
「…で、わざわざ集まったし。早めに本題いこっか」
「はいよ」
「次やろうと思ってる大型の企画の案が_」
そういいながら、心音は携帯を取り出す。
俺らは仕事用とプライベート用でスマホを2つ使い分けているが、どちらもiPhoneなので区別がつきにくい。
「…あ、こっちじゃねぇわ、」
心音が間違えてプライベート用を取り出しかけた時、俺はスマホの裏のプリクラを見逃さなかった。
「__え、あっきぃくん?」
「……げッ、」
心音は分かりやすく顔を赤らめる。
「え、プリクラとったん!?見して見して!!何!?どういうこと!?デートっ!?」
「おぅい!らぴすダルいって!一旦黙れやァ!/」
照れる心音の止める声などガン無視。
ここぞとばかりに質問する。
「え、ちょ、どこ出かけたん!?2人だけ!?」
「あ”〜もう…お前ダルすぎ。……別に普通に出かけただけだし」
「何人で!?2人だけ!?」
「…っ〜…はぁぁ”、/」
心音が諦めた顔でため息を吐くと、ボソッと呟く。
「……2人だけど、/」
「ひゅ〜!!↑」
「はい、ウザい。黙れ〜」
「で!?どこ行ったん!?」
「………言わないと駄目?」
「うん、心音の本名ポストするで。」
「ちゃんと最悪。」
「………新宿で映画、」
「ええ!?映画!?ラブラブやん…!!」
「うるさ……最悪すぎ、/」
「え、じゃあ帽子もその時もらったん?」
「……うん」
「ひゅ〜!大事にしちゃって〜!」
「うざ、!!…別に、物に罪はないだろうが!」
分かりやすく顔を赤くして俯き気味な心音が、どうもワンちゃんみたいで、頬が緩くなる。あんまりしない心音のこういう顔は貴重なのだ。
それが新鮮でどこか誰かと似ていて面白くて、思わず心音を茶化す。
「も〜心音ったら…あっきぃくんのこと大好きやんw」
「………まあ、付き合ってるし?」
「………え、?」
「………/////」
心音は自分の赤くなった顔を落ち着かせるように、頼んだばかりのコーヒーをゴクッと音を鳴らして飲む。
「え”!?ちょ、ま、どゆこと、!??」
「………あ〜もう、この話終わりっ!!仕事すんぞ!!」
「ちょっと待て話を逸らすなァァ!!どういうことや!!心音!!!」
「えっと、次の企画なんだけど、先輩方も誘おうと思ってて、____。(ガン無視)」
「ちょ、おい!!心音!!説明しろ!!!」
俺は仕方がないので、企画の話を速攻で終わらせ、あっきぃくんとの話を根掘り葉掘り聞くことにした。
心音は、企画の話が終わったら嫌な予感がしたのか帰ろうとした。だが俺はそこでデカいパフェを2つ頼んで「割り勘な。今ここ出るなら、金だけ置いてけよ?」と言うと、悔しがりながらおとなしく座った。よし勝った。
心音からの話をまとめるに、
・最近付き合った
・まだキスまで
・帽子は付き合った日にもらった
・プリクラ撮ったのが初デート
らしい。
結構いい歳してんのに、なんでこんなに初々しいのか。なんやねん。
「ええなあ…幸せそうで。」
「…………そりゃ、どうも?」
「うざ。w」
「「ww」」
一通り笑い、パフェも食べ終わりそうな頃、心音は何かを思いついた顔をして口を開いた。
「…てかさ!」
「?」
「らぴすは好きな人いねぇの?」
「………」
「……んー笑」
「おらんかなぁ…?笑」
好きな人なんか、もう活動を始めてから1回もつくっていない。
純粋な交際でも、世間的にはあまりよくは思われないからだ。
俺らはアイドルだから。
「はあ?つまんないって!!こんだけ俺のこと煽っといて…」
「ごめんってば笑」
心音は不服そうだ。すまん。
「え〜、そうだなあ。誰かなあ。らぴすが好きそうな人」
「勝手に決めんなやw」
「……あ!らぴす、ぷりっつくんとか仲いいじゃん!」
「……!」
……ぷりっつくん。
なぜか、朝に動画を見た時の感情が再び湧いてきた。
…何故かあまり長話にしたくない気持ちになる。
「……んー笑、そうやなぁ。いい先輩やとは思ってるで」
「え、普通によくない?そこの2人。ぷりっつくんめっちゃ優しいし、かっこいいし」
知ってるわ、そんなこと。
少なくとも、心音よりはぷりっつくんのことを知ってるつもりだし、話しているつもりだ。
「……早くしないと取られちゃうよ?」
心音は真面目な顔で言う。
「え、誰に。笑」「てか、好きやないし」
「えー……誰だろ、」
「……あっきぃくんとか?」
「……っ」
あっきぃくん…。
あの動画のコメント。
あれだけでも沢山「あきぷり」を好きだという人が沢山いることが分かった。
それだけでも、どこか嫌だと思ったのに、
やっぱり心音から見ても、その2人はお似合い_
「_ちょっとぉ!!」
心音は声を荒らげる。
「なに?」
「…いやいや、そこはさ! 『 あっきぃくんは心音と付き合ってるじゃんw 』 ってツッコんでよ!!」
言われてハッとする。咄嗟に誤魔化す。
「……ッ、ごめんごめん笑」
「も〜」
そうだよな。なんで何をそんなにガチで考えてるんだ?俺。
あっきぃくんは、心音と付き合ってる。
俺が不安になる要素なんかないはず…
…なのに。
(なんで俺、不安になってんだ?)
_ 今、思い出した。
さっき心音の照れ顔を見て、ふと誰かと重なった感覚がした。
きっとぷりっつくんだ。
いつもツンツン気味なのに、後輩には優しくて、頼りになる。なのに、たまに照れるところが可愛くて。
そして無邪気に子供みたいに笑いかけてくれる。
笑い方が似ていたからか、無意識に重ねていた。
…なんで、ぷりっつくんなんだ?
_ 好きだから?
「………いや、笑、…流石にな……?笑」
「ん?何が?」
「……」
「……んー、なんでもないで」
俺は深く考えることをやめた。
この気持ちの正解を見つけてないふりをした。
心音より先に伝票を持って立ち上がる。今日は奢るべきだろう。
「お、奢ってくれんの」
「まあ、あっきぃくんとのお祝いってことで」
「うぇい、流石らぴす。スパダリだわ」
「彼氏いんのにそれ言わんほうがええやろ」
「お会計、~~~~ 円です。」
「クレカ一括で」
「またのご来店お待ちしております。」
カランッ。
扉を開けると、変わらない鈴の音が鳴った。
心音には「俺、このあとヒカリエ行くから〜」と言われ、すぐに別れた。
おとなしく帰ってもよかったが、あまり普段こない所なので、少し散策してみることにした。
いや、この気持ちを紛らわしたかっただけなのかもしれない。
いつの間にか頭の痛みはひいていた。ラッキーとか思いながら、俺は有名な百貨店に入った。
百貨店特有の不特定多数の香水の匂いに包まれながら、エスカレーターを上る。
俺の好きな服屋さんがあったので、何を考えずにヌルっと入る。
そろそろ本格的に半袖かあ。と思い、黒っぽいTシャツが並ぶコーナーに入ると、
「……え、」
すると今、1番会いたくなかった人がいた。
「…お、らぴす?え、奇遇やね!おつかれさん!」
ぷりっつくんは無邪気にニコッと笑った。
前見たときと変わらない大好きな笑顔だった。
「昨日ぶりやな〜」
「そうですね笑」
(うわぁぁあああ…)
どうでもいい世間話を何とか繋いていたが、俺はすでに心臓が爆発しそうだった。
ぷりっつくんを『好き』だと認識したからか、どうも落ち着かない。普通に接せているか不安でしかない。バレたら誤魔化すすべもない。
そんな俺の思いもしらないぷりっつくんは、普通に話しかけてくる。
「らぴす何か買う?」
「あ、いや、ふらっと入っただけなんで。多分買わないっす」
「そう?じゃあ俺、これ買おうかなあ〜」
そういってぷりっつくんが手に取ったのは、バケハだった。
…ん?これどっかで見た気が…。
「…あ!!」
「?」
「これ、心音とあっきぃくんの……!!」
2人のお揃いの帽子だ。ここのブランドだったのか。気が付かなかった。
「?何の話?」
頭にハテナマークを浮かべるぷりっつくん。
心音には悪いと思いつつ、別に言ったら駄目とも言われなかったので、
要点をしぼり、心音とあっきぃくんが付き合ってることや、初デートでこの帽子をお揃いにしたことなどを説明した。
付き合っていたことはぷりっつくんもあっきぃくん経由で聞いていたらしいが、帽子のことまでは知らなかったらしく、驚いていた。
そして俺と同じ感想をこぼした。
「なんか初々しいなあ……いい歳してるのに…」
「本当それなです、普通に羨ましい」
「んーじゃあ、この帽子は買わんほうがええな?カップルとお揃いになってまうもんな」
「そういうことっすねw」
ぷりっつくんは帽子を元の棚に戻すと、隣の帽子を取った。
「え〜…じゃあ、これとか?」
ぷりっつくんは白色ベースの黒いラインの入った帽子をかぶってみせた。かわいい。
「いいっすね!めっちゃ似合ってます」
「まあ、俺はバケハ似合うからなあ」
「自分で言うんすかww」
「w」
ぷりっつくんはかぶっていた帽子を取って言う。
「……らぴすちょっとかがんでや」
「…?はい」
俺は素直にかがむ。
すると、俺の頭にその帽子がかぶせられた。
「…ッ…え、/」
ぷりっつくんが近くて緊張する。
しかも身長が俺のほうが10センチ程高いので、かがむとぴったり目線が合う。
ぷりっつくんは頭をポンポンっと撫でて、満足気な顔をする。
「……よし!おっけ!どう?鏡見てみ」
「ぁ、はい、」
言われるがまま鏡を見る。普段あまり白色の帽子をかぶらないので、新鮮だ。
「おおー!ええやん!似合ってるで!!」
「え、あ、ありがとう…ございます、/」
普通に嬉しくて照れ隠しもできず、おどおどしながらお礼を言う。
「じゃあ、これでええな?」
「…?……あ、似合ってましたよ!」
「おう、ありがと!買ってくるわ!待ってて!!」
「あ…はい…?」
(行っちゃった…俺もついて行ったらよかったかな?)
数分後、ぷりっつくんが戻ってきた。
なぜか手にはあの白色のバケハが2つあった。
「…え、なんで2つ…?」
「?」
「そりゃ、らぴすの分やけど。」
「………え?」
「え、あ、嫌やった…?」
「いや!!全然そんなことないです…!だけど、少しびっくりして…」
むしろ嬉しすぎたぐらいだ。
「なーんや、よかった。焦ったわw」
ホッとして微笑むぷりっつくんは、仮にも先輩なのにやはり可愛いと思った。
「あ、ていうかお金…!」
結構なブランドものなので、いい値段するはずだ。流石に奢られるのは申し訳なさすぎる。
「気にせんでええって。俺があげたいだけやから」
優しいぷりっつくん。
「でも……」
俺にもプライドはあるので、財布を取り出そうとする。
すると、ぷりっつくんは背伸びをして、俺に帽子をかぶせる。
「…ほら、似合ってるから、この分はチャラ!な!」
「…えぇ…悪いですよぉ…」
「大丈夫やって!俺も先輩やし!」
旅行の時に、無理やり窓側のベッドを奪ってきた人とは思えない。先輩という理由はこういう時に使ってほしいものだ。
ぷりっつくんは俺と同じ帽子をかぶると、こちらを向いて微笑んだ。
「これで俺らもお揃いやな!」
「…あ、はい…そうですね_
_え?/」
『俺らも』…??
それって。
それって、もしかして。
「……っ!/」
思わず立ち止まる俺。
「えっ、ちょ…そういうこと…ですか…?/」
「……だって、らぴす。俺のことを好きなんやろ?」
「あ…あれは……!」
旅行で言った、あの『大好き』は先輩として。
だけど、俺が今思ってる『大好き』は?
「……っ」
「…ッ、好き、ですけど、、!//」
「……え。」
「……ぷりっつくんはッ、!?/」
「……ッ…」
「…っ…俺のこと、好き、ですかッ?//」
ぷりっつくんは驚いたような表情のあと、顔がボワッと赤くなった。
すると、それを隠すように前を向いて歩き出し、小声で呟いた。
「………まあ、嫌いではない、けど、/」
耳まで赤くなっていたのを俺は見逃さなかった。
心音たちの初々しくなる理由が少しわかった気がした。
コメント
8件
何度読んでも尊いです…!
きゃぁぁぁぁぁあ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!!!!!!!!!!!!尊すぎてちょっと世界救えます!!!!天才ですか?!?!天才ですよね?!?!?!!!最高すぎて!!!!やばいです!!!!!神様!!!!!!