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ソファーで横になって、家の中を見渡していた。
1人では使うには大きすぎる冷蔵庫や洗濯機、自分は食べないであろうお菓子、六つの椅子と長すぎるテーブル。
私には家族がいた。六人家族で、市営県営の多子世帯専用の家で、バリヤフリーも行き届いており、何よりすごい広くて家賃が安い。生活は正直きつかったが、それでも、笑顔の絶えない家庭だったのかなって思っていた。
咲と出会ったのは仕事場で、いわゆる職場恋愛だった。
当時の私は、五年付き合っていた彼女と別れて、一人孤独を感じていた。このまま結婚するのだと思っていたが、別れの瞬間はあっさりで付き合っていた年月なんて関係ないなって思った。
そんな傷心中に咲と出会った。彼女の名前は後藤咲、咲は中途採用で入社。すごい積極的で、わからないことも細かく質問したり、自分から率先して仕事をする子だった。
ある日、彼女の歓迎会をするということで、みんなで食事に行った。賑やかな歓迎会になって、普段おとなしい人も、ハメを外すぐらいだった。その帰りのことだ、 咲から声をかけられた。
「渡邊さん、渡邊さんはどこ住みですか?」
咲は、話す時は人の目を見て話す子だった。私は目を合わせられず、適当なところを見て答えた。
「この近くに住んでるから、歩いて帰れる距離だよ。」
咲は、笑顔で答える。
「そうなんですね、飲んでるから気をつけて帰ってくださいね、私は旦那が迎えに来るのでそれ待ちです。」
私は驚きながら返答した。
「結婚してたんだね」
咲も驚いた顔をして答える。
「あれ?話したと思いますし、職場に旦那がよく迎えにくるからご存知かと思いました。」
傷心中の私には周りのことに興味がなかった。
そんな話をしていると、一台の車が向かってきた。どうやら咲の迎えの車のようだ。
私の周りは既婚者が多いが、たいてい旦那さんが迎えに来るところは円満だって勝手に私は思っていた。だが咲のところはそれとは異なる感じに思えた。咲は迎えが来たというのに表情は暗かった。車が止まった直後旦那と呼ばれる人の怒鳴り声が聞こえ、子どもの泣き声が聞こえた。
最初話した時とは違う表情で咲は車に乗り込んで行った。
翌日出勤すると、咲は欠勤していた。休憩時間は咲のことを話す声が嫌でも聞こえてきた。
「後藤さんどうしたのかな?皆勤賞目指しますよ!って張り切ってたし、歓迎会もしたばかりだったのに」
「体調でも悪いのかしら」
「家庭の事情じゃない?」
「それか仕事がきつくて、休んだとか」
「ウチの職場、長続きする人いないから」
そんな内容の会話だった。話の内容に特に興味はなかったが、歓迎会の帰りのことを思い出すと少しだけ心配になった。でも私には関係ないと思いながらその日の仕事をいつも通りこなした。
仕事終わり、帰り道のスーパーに寄って買い物をしていたら、咲を見かけた。
咲は夕飯の買い物に来ていた、顔には絆創膏のようなものが貼ってあった。
私には関係ないと思っていたが、あの時は何故か声をかけてしまいました。
「後藤さん、お疲れ様です。」
咲は驚いた顔をして、顔を逸らして返答した。
「お疲れ様です、買い物ですか?今日は休んでしまい、ご迷惑をおかけしました。」
私はなんとなく気づいていたが、気づいていない程で会話を続けた。
「いいんだよ、困った時はみんなで助け合わないとね、俺が休んだ時もよろしくね。」
咲は私の顔を見ることなく、急ぐように話を終わらせようとしていた。
「ありがとうございます。明後日には行けそうなので、失礼します。」
足早に店を出ようとする咲に、つい声をかけてしまった。
「あの‥もし困ったことがあったら、俺でよければ話ぐらい聞くから」
咲は足を止めて振り返り、お辞儀をして店を出て行った。
余計なことを言ったのかもしれない、そう思いながら買い物を終え帰宅した。