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── ヨークスフィルン ──
青い空! 蒼い海!
ようこそ! ここは数あるリージョンの中でも有数の観光地!
開放的な砂浜で、服なんて脱ぎ捨てて楽しんじゃおう!
ただし時間は守ってねっ!
もしも帰るのが遅くなってしまったら……───
「イヤッフゥゥゥ! 来たぜ楽園!」
「うおおおおおお!!」
屈強な男達が各々叫びながら、浜辺を駆け抜けていく。そして多くの観光客がその肉体を見て感嘆の声をあげる。
野生生物達との戦いで得た肉体美は、シーカー達の密かな自慢なのだ。
そんな厳つい者達の中心に、さらに一際目立つ者達がいる。
その存在に気づいた海の男達は、ごくりと生唾を飲み込んでいた。
「おー!」(海だ! これ絶対海だ!)
「んー、気持ちいい日差しねー」
赤い太陽が見える白い砂浜で、手を繋ぎながらトテトテと駆ける華奢な女性達。男達に囲まれながらもひたすら目立つその存在は、浜辺の人々の視線を集めていた。
「うふふ、さすがアリエッタちゃんの考えた水着! 男性達の視線は釘付けですわね」
「斬新で色とりどりですからねぇ。女性達の視線まで集めてますよ」
「後で良さそうなお店と取引にいきますわよ! こんなチャンス逃せませんわ!」
意気込んで、その豊かな胸を揺らすノエラ。着ている水着は、胸元からおへそまでV字カットされた、セクシーな黒のワンピース。ワンポイントにコサージュもつけて、妖艶で美しい大人の魅力を振り撒いている。
揺れた瞬間、周囲の男達から感嘆のため息が漏れ、同行している女性に殴られるという痛ましい事件が同時多発していた。
「ノエラさんってば、水着で売り込む気満々ね」
「というか、凄いバディよねぇ……服屋になったらああなるのかしら?」
こちらはネフテリアとリリの王族コンビ。
2人とも血筋に恵まれたお陰か、ボディラインの美しさは一級品。特に城から逃げては走り回るネフテリアの健康的な体は、日光に照らされてさらに映えていた。
そんな彼女達が着ている水着はフリルビキニ。以前ネフテリアがドレスを着ていた事をアリエッタが覚えていて、そこから何故かフリルだけをピックアップ。胸の部分を腕ごとフリルで囲い、華やかさを演出している。
2人ともが王族だとは全く理解していないが、なんとなく似ていると思い、同じようなタイプの水着をデザインしていたのだ。
違いがあるとすれば、ネフテリアが黄ベースで二の腕にフリルを降ろし両肩を出すオフショルダー型、リリが紫ベースで片方だけ肩ごとフリルで覆うワンショルダー型である。
「まさか水着がここまでオシャレになるとはねー。やっぱりあの子は天才だわ」
「そうですね。自分も水着を着てみたいと思ったのは久しぶりですよ」
ネフテリアの後ろに控えていたオスルェンシスが、感心しながら自分の体を見つめている。
ネフテリア達と違い、アリエッタにモデルとして描かれることが無かったオスルェンシスやフラウリージェの店員達。だが、指定がないだけで、サイズさえ合わせれば自由に作ることが出来るのが衣服である。描かれていた絵の中から好きなのを選び、時間が許す限り量産していたのだった。
オスルェンシスは、前から見ればワンピース、後ろから見ればビキニに見える水色のモノキニ。真っ黒な肌とのコントラストでかなり目立ち、遠くにいるシャダルデルク人の男性が、思わず見とれていたりする。
「魅力的な女性が多いせいで、私への視線に殺気が混じっていますね……離れていいですか?」
「リリがゆるさんだろ? あきらめろ」
早くも気が滅入っているロンデルが着ているのは、紺のサーフパンツと薄手のパーカー。アリエッタはラッシュパーカーをイメージしていたが、生地の指定などは出来ない為、ただの薄いパーカーである。肩には相変わらずのフェルトーレンが、小さなサングラスをかけて乗っている。
そして膝まであるサーフパンツは技術的に青一色でしかないが、ノエラが張り切って新技術の刺繍を試み、炎のような模様を完成させていた。
パーカーの前を開けて歩いているので、シックスパックがチラチラ見える。そんなナイスミドルを、女性達が注目しないわけがなかった。
「くそー、わちもセクシーなミズギがよかったぞ! これではオトナのミリョクがハンゲンではないか」
『ゼロは半分でもゼロ……』
「なんかいったか?」
『いいえ?』
ツッコミも否定も綺麗にハモられたのは、ピンクのフリルワンピースを着たピアーニャ。何故か少し長い尻尾とネコミミスイムキャップがついている。
完全にアリエッタの趣味というか、ピアーニャの可愛らしさを引き立たせようとする強い意志しか感じないような逸品だった。
周囲の女性陣の「かわいいー」という声が聞こえ、不貞腐れながら前方のアリエッタ達を見るのだった。
「こんなに見られると、流石にちょっと恥ずかしいね」
少し照れた様子で歩くミューゼは、緑をベースにした基本的な三角ビキニ。それは成熟直前の体を主張するシンプルな形。しかし胸の中心とボトムの両側に大き目のリボンがついていて、可愛らしさも備わっている。
ヨークスフィルンで一般的に出回っている物とはひと味違うその水着を着たミューゼは、若い女性達から羨望の眼差しを向けられていた。
「もしかして、アリエッタの服を着るだけでモテモテになれるのよ?」
ナイスバディなパフィが着ているのは、赤をベースにしたホルターネックタイプのビキニ。胸の上で交差した生地で胸を寄せてあげて、完璧なまでに主張している。
しかも首から胸の上部にかけては、かなり細い糸で作られた生地になっているのでシースルーとなっている。つまり、谷間が透けて見えているのだ。
それに気づいた男達が、少し前屈みになっていた。
「アリエッタの価値がまた上がったし」
クリムの水着は左右が青と赤で分かれているVネックのハイレグワンピース。やたら派手で挑発的かと思いきや、薄地のパレオを下半身に巻いて微妙に隠している。風が凪ぐ度にフワリとゆらめき、その脚を際立たせている。
腰横の僅かな肌色とパレオによるチラリズムは、シーカーの男達まで興奮させていた。
(うぅ、やっぱり恥ずかしい……)
《流石は私のアリエッタ! 注目の的ね!》
最後に、ビクビクしながらミューゼと手を繋いでいるアリエッタ。今回の水着のデザイナーとして、ノエラ達に崇められながら日々を過ごしていた。
元々フラウリージェでノエラが手に持っていたビキニを見て、自分もそれを着るのかと恐怖したのがきっかけだった。しかし、それを出されたら着るしかないのが、今のアリエッタの立場である。
ならば代案を出して、着ても恥ずかしくない水着を作ってもらえれば!と、全力で沢山の水着と服を描いていった。水着に関しては、モデルの人物画で明確に着る人物を指定までして。
そしてそれはほぼ成功した。アリエッタが似合うと思った通りに、水着が専用に作られていったのである。
しかし……
(タンキニを指定したのに、なんで白ワンピになったんだろう……)
なんとシャツとショートパンツといった形状のせいで、タンキニはノエラに水着として認識されなかった。その為、一番肝心なアリエッタに限って、水着を指定するという作戦が失敗していたのだ。それでも店で見た小さなビキニよりはマシと思い、なんとか歩いている。
今着ているのは、白のフリルワンピース。少女の魅力を最大限に発揮する、清楚で可愛いシンプルなもの。
美少女なアリエッタが着れば、もちろん目立つ。それは本人があまり望んでいない形の魅力を手にした瞬間だった。元成人男性には最大級の試練である。
観光に来ている少年達と一部の変態の熱い視線をその身に浴びて、アリエッタは波打ち際へとたどり着いた。
「それじゃ行ってくるのよ」
「うん、いってらっしゃーい」
パフィとクリムは海に向かって駆けていった。アリエッタの面倒は交代で見る事にしていたのだ。
背の低いアリエッタは、浅瀬で充分楽しめる。海水を手で触れようとしてしゃがんだ所に、丁度波がぶつかってきて、コテンと尻餅をついていた。
「あうっ」
「かわいすぎかっ」
しばらくはアリエッタの好きに遊ばせ、ミューゼは傍でただ様子を見守るだけのつもりである。
そこにピアーニャとネフテリアがやってきた。
「相変わらず罪作りな子よねー。王女のわたくしより視線集めちゃって」
「狙われないように気を付けないとですね」
「それはダイジョウブだろ。そのためのシーカーのオトコたちだ」
シーカー達の同行を許可したのは、トラブルの対処と防波堤の為だった。表向きには王族がいるという理由ではあるが、本当はアリエッタ達に悪い虫がつかないようにするのが目的だったりする。
本人達は短い間で交代する事になっているものの、水着美女達と一緒にバカンスが出来ると大喜びなのだ。
さらに、前もって「過度じゃなければ声をかけて一緒に遊んでもいい」という約束まで取り付けて、やる気を漲らせていた。既に一部のシーカーの男性が、フラウリージェ店員と遊んでいるのが見える。
もちろん同行したシーカーには女性もいる。こちらも仕事半分、遊び半分で、海を満喫するつもりなのだ。中には笑顔でアリエッタを見守りながら、良い男の近くでさりげなくアピールする者もいたりする。
そういうのは教育に悪いから、離れてやってくれと思うピアーニャであった。
「ぴあーにゃ!」(よーし、お姉さんとして、一緒に遊んであげないとな!)
「う、うむ。わかってるから、ひっぱるな」
2人の小さな女の子が浅瀬でパシャパシャ遊んでいる……という普通の光景に見えるが、片方はリージョンシーカーの総長である。周囲のシーカー達が笑いを堪えきれるわけがなく、交代で離れ、見えない場所に行って大笑いするという珍事が相次いだ。
「ふい~……」
「疲れたの? ずっと遊んでいたからね~」
しばらく波で遊んでいたが、テンションが上がり過ぎて疲れてしまったアリエッタ。ミューゼに抱かれて砂浜で休憩。ロンデルの手配で簡易天幕が設置されていた。
ピアーニャも一緒になって休んでいると、隠れて大笑いしにいったシーカーが慌てて戻ってきて、ロンデルに耳打ちした。
「……あの岩場の陰に大量の血が」
ヨークスフィルンの浜辺で、何かが起ころうとしている。