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るしゅ
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**その夜、星はなかった。**
薫は戸口に立っていた。背後の暗い廊下、前方には下へと続く階段。明かりはついていなかった。彼女の細く、微動だにしないシルエットだけが、二階の窓から差し込む淡い街灯の光を背に、黒く浮かび上がっていた。
彼女は見下ろした。
長い間。
何かを待つように。許可を。あるいは最後の迷いが燃え尽き、すでに決まっていたことだけが残るのを待つように。
迷いはなかった。彼女はただ立っていた。
彼女は電話を取り出した。闇の中で画面が一瞬白い長方形に光った。番号を探し、通話ボタンを押した。
コール音。一度。二度。
「もしもし?」眠そうで、苛立った声。眠りから引きずり出された人間のかすれ声。こんな深夜に電話するのは誰だ?
「私からで、迷惑かしら?」薫が言った。平坦に。ほとんど退屈そうに。まるで天気予報を確かめるために電話しているかのように。
一色は一瞬、沈黙した。眠気は瞬時に消え去った。薫には電話越しにそれ感じ取れた。特定の声を聞いた時の、人間はいつもそうなる。頭が理解する前に、体が目を覚ます。
「薫……私、私は……」
「誘拐した人たち、どこに隠した?」
短い間があった。一色は分かっていないふりをしなかった。それが正しい対応だった。薫を相手にごまかすのは高くつく。
「地下室よ。あの、同じ奴」
薫はうつむいた。数秒間、自分のブーツを見つめた。黒い。きれい。今のところは。
「よかった」と彼女は静かに言った。「そうだろうと思った」
彼女は通話を切り、電話をポケットにしまった。
もう少しだけ戸口に立っていた。家の静けさに耳を澄ました。どこか二階で蛇口が水滴を落としていた。一定に、無関心に。外で車が通り過ぎ、ヘッドライトが廊下の天井を滑り、消えた。
それから彼女は振り返り、廊下の突き当たりにある物置へと歩いていった。
扉がきしんだ。家の中でただ一つの音。中は錆、古い埃、そして何か木質で乾いたものの匂いがした。彼女は手探りでハンマーを見つけた。柄は冷たく、重く、手に馴染んだ。これを手に取るのは初めてではなかった。彼女は持ち上げた。手の中で重さを確かめた。
いいやつだ。重い。片方は尖っている。
一番上の棚に、マスクが置いてあった。
白い。長い耳が付いている。描かれた目は歪んで非対称で、描いた者が急いでいたのか、あるいは同じにする気がなかったのか。永遠の笑み。それは何も表現せず、それゆえにすべてを表現していた。
ウサギの顔面。
薫はそれを棚から取り、前に掲げた。マスクが彼女を見つめ、彼女がマスクを見つめた。そして彼女はそれをかぶった。
ゴムが後頭部で食い込んだ。穴から見える世界は少し狭くなり、少し暗くなり、少しだけ正しくなった。
彼女はハンマーを手に取り、物置を出た。
下への階段は狭かった。壁はコンクリートで冷たく、湿気が染み出る小さなひび割れで覆われていた。薫はゆっくりと降りていった。滑るのが怖いからではない。急ぐ理由がなかったからだ。下で待っているすべてのものは、どこへも行かない。彼女はそれを確信していた。
彼女は段数を覚えていた。どの段がきしまないかも知っていた。
地下には、天井からむき出しの針金で吊るされた電球が一つだけ灯っていて、どこからともなく吹く隙間風にゆっくりと揺れていた。弱い黄色い光。影はそれに伴いゆっくりと、円を描くように、時計の針のように動いていた。
縛られた三人の男たちが壁に寄りかかって座っていた。
太いマリンロープ、手首と足首に何重にも巻かれている。口には猿ぐつわはなかった。一色はここでは誰にも聞こえないことを知っていた。あるいは聞きたくないだろう。
二人はスーツ姿だった。くしゃくしゃで、汚れていた。地下室で数日過ごしただけのことはあった。五十歳くらいの大柄な男、学校の事務長。後退した髪の生え際と、人を見下ろすことに慣れた重い顔。今は下から見上げていた。その隣には、副校長、もっと若く、眼鏡をかけていて、片方のレンズにはひびが入っていた。彼の手は絶えず細かい震えで震えていた。
三人目は老人だった。小柄で、乾いていて、まるで去年の枯れ葉のようだった。巻き添えだ。彼は間違った時に間違った場所にいて、見てはいけないものを見てしまい、今ここにいた。彼は他の者より背筋を伸ばして座っていた。頭は下げていたが、背筋はまっすぐだった。縛られていても、彼は自分が猫背になるのを拒否しているかのように。
薫はゆっくりと近づいた。ハンマーは太腿に沿って下がっていた。マスクはその描かれた笑みで彼らを見つめていた。
事務長が最初に彼女を見た。
マスクを見た。次にハンマーを見た。彼の顔の中で何かが、ガラスのように素早く砕けた。彼は全身を後ろに引きつらせたが、ロープがそれを許さず、たださらに強く壁に押し付けられ、肩は耳まで上がり、顎は引っ込んだ。突然とても小さくなった大柄な男。
副校長は目を閉じた。ただ閉じて、二度と開けなかった。彼が見なければ、そのどれも存在しないと決心したかのように。
薫は彼らの前で止まった。
彼女は首をゆっくりと、鳥が地面の何かを調べるように傾げた。
「ほら、鬼が出たよ」と彼女は静かに言った。考え深げに。その声は穏やかで、天気の話やパンがなくなったことを話すような声だった。「他にすることもなかったのか?学校を閉鎖して?」
事務長は口を開けた。閉じた。また開けた。
「聞いてくれ…」彼は始めた。声は震えていた。彼は唾を飲み込み、再試みた。「聞いてくれ、嬢ちゃん、これは全部、別の方法で解決できるんだ。こういうのを扱える人間がいて…」
「いるでしょうね」と薫は同意した。「たくさんの人がね。みんな別の方法で解決したがる。面白いのは、誰もそれについて前もって考えなかったってことだ。」
事務長は黙った。
薫は老人に視線を移した。
「それで、あなたはどうなんだい、この老いぼれ?」彼女は言った。その声には好奇心のようなものが現れていた。「あなたには何の関係もなかっただろう。通り過ぎればよかった。自分の人生を生きればよかった。孫の世話でもしてさ。」
老人はゆっくりと頭を上げた。彼はマスクを見つめた。その目は明るく、色あせていて、多くのものを見て、もう驚かなくなった人々が持つような目だった。
彼は答えなかった。ただ顎の筋肉がこわばるだけだった。
薫はもう一秒、彼の前に立った。それから背筋を伸ばした。
彼女はハンマーを離さずに、もう一方の手で電話を取り出した。
番号を見つけ、押した。
「もしもし。」
「聞いている」と明瞭でビジネスライクな声が答えた。眠気はない。太田は決して正しい時には眠らない。
「みんなに伝えて。明日。古い学校の近くで。一つ話し合うことがある。」
短い間があった。
太田は短く静かに笑った。同意。
「わかった。」
薫は電話をしまった。彼女は立っていた。電球が揺れ、影が壁を這い、伸び、縮み、また伸びた。
彼女は三人の男の前をゆっくりと歩いた。ハンマーは太腿に沿っている。足音は静かで、均一だった。彼女のブーツはカツカツと鳴らなかった。彼女はとっくに不必要な音を立てずに歩くことを学んでいた。
彼女は立ち止まった。
彼らに背を向けた。
そのまま立った。長い間。耐えられなくなるほど長い間。
「あのね」と彼女はついに言った。
その声は静かだった。ほとんど柔らかかった。長い間考えてきたことについて話す時、もはや他の誰の同意も必要としない時の声だ。
「私ね、人を殺すの。直接的であれ間接的であれ、それは同じこと。違いなんてないの。結果は同じ。」
目を閉じたまま座っていた副校長が、静かにうめいた。痛みからではない。内に秘めきれないほど大きくなった恐怖から。
薫は振り返らなかった。
「ただなんとなく殺す?理由があって殺す?理由がなくて?」彼女はそれを疑問形で言ったが、答えを待たなかった。「どれも退屈すぎる。人間すぎる。人間はいつだって理由を探す。正当化を。後で自分に言い聞かせるためにね。『仕方なかった』『守っていた』『救っていた』って。」
彼女は振り返った。
マスクは変わらぬ笑みで彼らを見つめていた。
「殺人…それは道徳なのよ。一部の人にとってはね。でも私にとっては、善も悪もない。ただ行動とその結果があるだけ。英雄はこのガタガタの世界を救いながら、あなたをバラバラにすることもできる。悪役はあなただけのために世界を破壊することもできる。で、道徳はどこにあるの?それはどこに存在するの?見せてよ。そうすれば、もしかしたら信じるかも。」
事務長は浅く速い呼吸をしていた。黄色い電球の光で、彼の額に汗が光っていた。
「お前は病気だ」と彼はささやいた。侮辱としてではなく。事実の陳述として、彼が自分に許せる最後の言葉として。
薫は彼を見た。
「いいえ」と彼女は簡潔に言った。「私は正直なだけ。それは違う。」
彼女は再び背を向けた。ゆっくりと、まるで反対側の壁を調べるように。その壁はコンクリートで灰色、暗い湿気の染みがあった。特に面白いものは何もなかった。
「悪を超えること、それが力」彼女は静かに続けた。「何か荘厳なものになること。人々が道徳的または非道徳的と呼ぶものを超えること。それはただの文字でできた檻に過ぎない。美しい檻よ。多くの人は一生その中で生き、それを自由と呼ぶ。」
電球が揺れた。
「私はとっくに檻から出ている」間。「あなたたちはそれを知らなかった。今、知ったわ。」
彼女は向き直った。
「それで、何て言う?」
事務長はロープと背後の壁が許す限り顔をそむけた。副校長はさらに強く縮み上がり、彼の眼鏡は鼻先までずり落ち、ひび割れたレンズが電球の光を捉え、一瞬光った。
老人は顔を上げた。
その明るい色あせた目がマスクを見つめた。ハンマーを見つめた。そして、白いプラスチックと描かれた笑顔の奥に、彼には見えない顔がある彼女を見つめた。
「殺すつもりなら、殺せ」と彼はしわがれた声で言った。老いているが、しっかりとした声だ。「なぜ引き延ばす?」
沈黙。
電球が揺れた。
薫は正確に二秒間、微動だにしなかった。
それから彼女の中で何かが、静かに、まるでスイッチのようにカチッと音を立てた。彼女がこれまでずっと、ただの礼儀として持ちこたえていた最後の細い糸が、ついに切れたかのように。
彼女は鋭く一歩前に踏み出した。
ハンマーが上がり、先端が下がって落ちた。
最初の叫び声が紙のように地下室を裂いた。生々しく、動物じみていて、この低いコンクリート空間では耳をつんざくものだった。血がすぐに噴き出した。熱く、暗く、驚くほど大量だった。壁への飛沫、コンクリートの床、白いマスク、彼女のジャケットの袖。赤と白。赤と灰色。
薫は止まらなかった。
二撃目。三撃目。間を置かず、ただひたすらに、怒りや激情もなく、とっくにやるべきで、今までその時間がなかった仕事を遂行するかのように。鈍い音。叫び声、最初は大きく、次に小さく、そしてただの喘ぎ声へ。その後、何もなくなった。
ハンマーは上がり、落ちた。
上がり、落ちた。
静かになるまで。
薫は止まった。
彼女は均等に呼吸していた。肩は震えていなかった。手はしっかりしていた、ただ、柄を握る指の関節だけが白くなっていた。
電球が揺れた。
血がゆっくりとコンクリートの床に広がり、ひび割れを見つけ、静かに、急がずに、まるで全ての時間があるかのように。地下室は鉄と何か甘くて重い、後に残るものの匂いがした。彼女はこの匂いを知っていた。それは彼女を驚かせなかった。
薫はハンマーを下ろした。指を緩めた。柄は彼女の手に残ったが、握りは弱くなった。
彼女は残されたものの上に立っていた。
それから彼女はゆっくりとマスクを外した。
それを見つめた。描かれた笑顔は同じように変わらず見つめ返した。血の飛沫もマスクにかかっていた。右耳の近くに三つの暗い染み。
薫は首を少し傾げた。
「あなたは変わらないわね」と彼女はマスクに静かに言った。「それは良い性質だ。」
彼女はマスクを脇に挟んだ。ハンマーは床に置きっぱなしにした。単に手を離した。鈍い金属音を立てて落ち、その響きは地下室に長くこだました。
そして彼女は階段へと歩いていった。
同じ段。どこを踏むべきか知っていた。
上は暗い廊下だった。蛇口が滴っていた。窓の外は夜、彼女が降りていった時と同じだった。何もなかったかのように。
薫は浴室に着いた。水を出した。冷たかった。お湯はまだ届いていなかった。彼女はその下に手を差し伸べた。水が暗いものを彼女の指から洗い流すのを見つめた。ゆっくりと、渦を巻いて排水口へと消えていった。
それから彼女は鏡を見た。
普通の顔。穏やか。黒い髪が少し乱れている。頬に、すぐには気づかなかった小さな染みがあった。彼女はそれを濡れた指で拭い取った。
水を止めた。
彼女は廊下に出た。部屋へ歩いていった。ジャケットを脱がずにベッドに横たわった。天井を見つめた。
窓の外、夜明けが始まっていた。かすかで、灰色で、ためらいがちだった。鳥たちはまだ歌っていなかった。街はまだ目を覚ましていなかった。
薫は目を閉じた。
自分がしたことについて考えなかった。考えることなど何もなかった。すべてはずっと前に決まっていた。彼女が戸口に立ち、見下ろしていたあの時に。
彼女はそれを実行しただけだ。
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