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《これからは、父さんも母さんも自分の好きなように生きてね。どこにいても僕は父さんと母さんの子どもだから。僕のことは心配しなくていいよ》
それが圭太からのメッセージだった。
「……だってさ」
「なに、一人前にませたこと言ってるんだろう、圭太ったら」
「確かに。いつのまにか大人になったんだな。当たり前と言えば当たり前だけどさ」
そして、俺も杏奈も歳をとった……。
◇◇◇◇◇
俺と杏奈との関係(実は離婚していること)は、圭太が大学に入る時に説明したと杏奈が言っていた。
一応知っておいた方がいいと判断したからだとか。
返事はあっけなかったようで、なんだか力が抜けた、らしい。
いつだったか、杏奈が風邪をひいて寝込んでいた時に、俺と並んで洗い物をしながら圭太が言っていたことを思い出した。
「うちってさ、《《下手したら》》よその家より夫婦仲いいよね」
今思えば、あのセリフは
『離婚してるのにしてない夫婦より仲がいい』
という意味だったのだろう。
それは自分《圭太》のために、多少無理してそうしているのだと思っていたのかもしれないと今ならわかる。
「なぁ、あれかな?圭太は俺と杏奈が、圭太のために無理して一緒に暮らしてるとでも思ってたのかな?」
「もしかしてそうかもしれないね。だから自分が家を出ていけば、もう一緒に暮らす必要もないから好きにしていいよってことかもね」
_____杏奈もそう思ったのか
「……で、どうする?」
いい機会だから、お互いのこれからを確認しておきたい。
「どうって?」
「養育費はもういらないけど、慰謝料も払えるくらいは貯金できただろ?杏奈は晴れて家を出ていくことができるんだよ?」
慰謝料としてある程度の貯金ができるまで、という約束でのそのままの暮らしだった。
「んー、どうしようかな。あなたはどうしたい?私に出ていって欲しい?」
杏奈が真剣な目で俺を見た。
「いや、できるならこのまま一緒に暮ら
したい」
杏奈の真摯な問いに、俺もまっすぐに答えた。
杏奈と目線がつながり、しばし見つめ合った。
俺の正直な考えだと伝わってほしい、そう祈りながら返事を待った。
「なんだ、気が合うね!私もそう思ってたとこ」
パッと明るく答える杏奈。
「………ぷっ!」
「あはは!」
思いがけない返事に、うれしくて笑った。
_____やった、同じことを考えていてくれたんだ
プロポーズを受けてくれた時より、今の返事が何倍もうれしい。
笑いながら込み上げてくるものがあって、照れ臭くて隠すためにまた指輪を見つめたふりをした。
_____圭太、ありがとうな