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⚠︎︎キャラ崩壊⚠︎︎
依存体質な直哉
×
DV癖のある甚爾
⚠︎︎BL⚠︎︎
※付き合ってます
雨が降っていた。
古びたアパートの窓を叩く音が、部屋の静けさをやけに強く際立たせている。
薄暗い部屋の隅で、禪院直哉は膝を抱えて座っていた。
頬には薄く赤い痕が残っている。
さっき、殴られたばかりだった。
けれど直哉は泣かなかった。ただぼんやりと、床に転がる煙草の箱を見つめている。
玄関のドアが開く音がした。
濡れた足音。
甚爾「……まだ起きとったんか」
低い声。
伏黒甚爾だった。
コンビニ袋を片手にぶら下げ、面倒臭そうに髪をかき上げる。その姿を見ただけで、直哉の胸はぎゅっと締め付けられる。
怖い。
でも、安心する。
その矛盾を、直哉自身もうまく理解できていなかった。
甚爾「飯」
甚爾は机に適当に弁当を置く。
直哉「……いらん」
甚爾「食え」
直哉「食欲ない」
甚爾「勝手にしろ」
投げるような言葉。
優しさなんてない。
それでも直哉は、甚爾が自分の分の飯を買ってきたことに気づいていた。
その小さな事実だけで、苦しくなるくらい嬉しくなってしまう自分が嫌だった。
直哉「……なんで戻ってきたん」
ぽつりと直哉が言う。
甚爾は煙草に火をつけながら、「は?」とだけ返した。
直哉「俺のこと嫌いやろ」
甚爾「別に」
直哉「殴るし」
甚爾「お前がうるせぇからだろ」
冷たい声。
普通なら、そこで離れるべきなのだ。
怖がって逃げるべきだった。
でも直哉は、逃げられなかった。
むしろ。
直哉「……ほな、俺がおらんくなったら困る?」
そんなことを聞いてしまう。
甚爾は一瞬だけ黙った。
煙草の煙がゆっくり天井へ昇る。
甚爾「知らねぇよ」
ぶっきらぼうな返事。
けれど直哉は、それだけで十分だった。
完全には捨てられていない。
それだけで、またここに居ていい理由になる。
直哉は自分でも異常だと思っていた。
殴られた時は怖い。
怒鳴られると心臓が縮む。
物を投げる音がすると肩が跳ねる。
なのに、甚爾がいなくなる方がもっと怖かった。
昔からそうだった。
禪院家では、優しくされることなんてほとんどなかった。
認められるには強くなければならない。
価値がなければ、見向きもされない。
だから直哉は、誰かに執着されることに飢えていた。
たとえそれが歪んだ形でも。
直哉「……甚爾」
甚爾「あ?」
直哉「俺、ちゃんと役に立っとる?」
甚爾は面倒臭そうに視線を向ける。
甚爾「急に何だよ」
直哉「ええから」
しばらく沈黙が落ちた。
雨音だけが響く。
やがて甚爾は、小さく舌打ちした。
甚爾「……少なくとも、今ここにいる」
その言葉を聞いた瞬間、直哉は泣きそうになった。
たったそれだけ。
「いてもいい」とも、「必要」だとも言っていない。
曖昧で、不器用で、冷たい言葉。
それなのに。
直哉には救いみたいに聞こえてしまった。
直哉「……そっか」
笑う。
少しだけ安心したように。
そんな直哉を見て、甚爾は眉をしかめた。
依存している。
それくらい、甚爾にも分かっていた。
自分はまともな人間じゃない。
人を大事に扱う方法も知らない。
イラつけば手が出るし、機嫌が悪ければ怒鳴る。
それでも直哉は離れない。
離れられない。
その事実が時々、妙に胸につかえた。
甚爾「お前さ」
直哉「ん?」
甚爾「もっとマシな奴んとこ行けよ」
突然の言葉だった。
直哉は目を丸くする。
直哉「……なんで」
甚爾「俺みてぇなのと一緒にいてもろくなことねぇ」
直哉「嫌や」
即答だった。
甚爾が少し驚いた顔をする。
直哉は俯きながら、小さく続けた。
直哉「俺、ひとり嫌いやもん」
その声は、ひどく幼かった。
強気で傲慢な禪院直哉ではなく、ただ誰かに見捨てられたくない子供みたいだった。
甚爾は何も言わない。
ただ煙草を灰皿に押し付け、ソファへ倒れ込む。
甚爾「……勝手にしろ」
投げやりな返事。
でも直哉は、その言葉にまた安心してしまう。
この関係が正しいなんて、思っていなかった。
苦しくて、歪で、壊れそうで。
それでも二人とも、不器用すぎて離れ方を知らなかった。
雨はまだ降り続いていた。