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#ご本人様とは関係ありません
あざらし
10
#ご本人様には関係ありません
たべ
103
目が覚めた。知らない天井だった。白くてミミズが這ったような嫌な柄の天井だった。
僕の家じゃない。せらの家でもない。
ならここは死後の世界ってやつだろうか。随分現代的で外がうるさいな。眩しいし、カーテンが意味を為していない様に見える。
…カーテン?
違和感に苛まれ、ガバッ!と上体を起こす。キョロキョロと周りを見渡せば、真っ白い部屋だった。
僕の状態は薄緑の病衣服で、白い布団がかけられてて、後ろには枕とコンセントが付いている壁。
急いで布団を剥ぎ取ってベッドから降り、カーテンを開ければ普通に外の景色が見えた。
木とビルが立ち並んでいて、鳥がないて、道路には車も走っている。
嘘、嘘だ。
「…ぼ、く、……死ねなかった、?」
頭は軽くパニックになっていた。意味がわからない。なんで?死ねたはずだったのに。
せらと、せーのって、首を括って本を蹴って、苦しくて苦しくて暴れたじゃん。でもその後だんだん頭が働かなくなってって、じわじわ気持ちよくて、それで意識を落として、死ぬって気持ちいいんだって、最後に思ったはずだった。
なのに、僕はこうして生きていた。
ドッドッドッドッ、心臓が脈打っている。
いやだ、なんで。
せらふ、せらはどうしてるんだろう。
そもそも、何日寝てた?1日も寝てない?それとも、随分長く寝ていたりしたんだろうか。
勝手に外に出ていいわけじゃないだろうし、どうしよう。
ひとりが怖い。どうしてそばにいないの、せら。
部屋の隅に蹲ってこれからどうしようか考えていると、不意にガラリとドアが開いた。
誰が来たんだろう。知ってるやつならいいな。もっといえば、せ、らだったら…
そんな淡い期待を抱きながら、顔を上げて訪問者を見る。
せらとは違う髪の毛。赤じゃない目ん玉。
黒の服じゃなくて、白い服。
だぼだぼの個性的なファッションじゃなくて、カジュアルなパーカー。
思い描いていた理想の人じゃなかった。
そいつは、ベッドに居ない僕を見て焦り、周りを見渡したあとこちらを見て目を丸くした。
「ッ、か、なと……?」
「…ひば…」
「、かな、かなっ、奏斗奏斗奏斗ッ!!」
荷物と見舞い品らしき花束を床にほっぽって、僕に駆け寄る。
そのまま僕の手を引っ張って立たせ、ぎゅぅ〜〜〜〜っと痛いくらい抱きしめてきた。
あれ、コイツこんなに細かったっけ、と思った。
前から食べないやつだったけど、なんだか病的に細い。目の下のくまもびっしり蓄えて、そこら辺の病人より病人らしかった。
そう言えば僕の手もなんか骨張ってるかも。筋肉落ちちゃったかな。
そんなことをぼんやり考えていると、服が湿った感覚が。
ちょっと嫌だし気持ち悪かったけど、可哀想なくらいわんわん泣いていたので文句は言わないことにした。
「何泣いてんの、お前泣き顔ぶっさ…」
「だ、だっ゛て゛、かな、と゛も、ッせ、らお゛も、部屋行っ゛たら”、ぐったりしてて゛ッ!」
「せら、っ、お、首、吊ってて゛!おまえっ、縄ちぎれて落ちてるし゛!おれ、おれっ、わけわかんなくて、死んじゃったかと思って゛!」
生きててよかった!と子供みたいに、ひばは泣いた。
涙のせいで呼吸が上手く出来てなくて、ひゅっ、ひゅっ、て喉が鳴っていた。
大粒の涙を僕の服で拭うもんだから、もうびしょ濡れになっていく。
騒ぎを聞き付けた看護師達がわらわらとやってきて、どこかに連絡を入れていたけど、ひばをなだめるのに精一杯だった僕にはあまり興味がなかった。
それより、せらはどこなんだろう。
すっかり、聞くタイミングを逃してしまったなあ、とひばの頭を撫でながら思う。
そんな事をやっている間に医者が来てしまって、ひばは引き剥がされることになった……のだが。
「無理、離れたくない…絶対離さないから!」
「ちょっと、ひば…」
ひばの駄々っ子みたいな猛抗議に医者が折れ、そのまま診察が開始されることになった。
ここがどこかわかるかとか、どこか異常はないかとか、食欲はあるかとか。
最後にちょっと聴診器で呼吸の音を確かめられ、解放された。健康体というお墨付きだった。
結局、宣言通りひばは診察が終わるまで一ミリたりとも離れなかった。頑固者め。
…日が傾いて、すっかり夕焼けがさす部屋の中。
ひばとふたりきり。
僕は一週間くらい寝ていたとか、ここは病院の個室の中で、入院費用は事務所が出してくれているとか、色んなことが分かったけど、肝心のせらの話だけは、皆してくれなかった。
まるで、その話だけ避けているようだった。
聞くなら今しかない。
鼻歌を歌いながら、上機嫌で花を花瓶に活けているひばに声をかけた。
「ねえ、せらは?」
「ひばさ、僕たちを見つけたなら知ってるでしょ?」
ぴた、と鼻歌と動きが止まる。
ひばはこっちを見ないまま、なんでそんなこと聞くんだ?って。
「いや、聞くでしょ。…僕達の関係、分かってたでしょ」
「ねえ、絶対知ってるよね。教えてよ。」
「…奏斗はさ!」
くる、とこちらに向き直って、ひばが笑顔を見せる。
作り笑顔なのがバレバレだったけど、夕日をバッグに見せたその顔がせらと重なった。
「…知らない方がいいことだって、あると思うだろ?」
「……なに、それ」
「…あー……えっと……その…」
後ろめたそうに目線を逸らして、ぽりぽり、と頬を掻く。
頬っぺには、アキラには言わないようにって言われてるんだけどな…と言わんばかりに書いてあった。もっと隠しなよ。
「口止めされてんでしょ、アキラから。」
「え”っ!…い、いや〜…そんなことは…」
目を上に横に下に…ぐるぐる逸らしながら、手をバタバタ動かして「あっ、そういえばさ…」と話題を逸らそうとする雲雀。
相手にせずじい、と見つめていると、だんだん元気が無くなって…人差し指同士をくっつけて指をいじいじし始めた。
だって…とか、あの…とか、う…とか、なんか自信なさげにうだうだ言っている。
雲雀は、優しいやつだ。それは、僕が誰より知ってる。
そのひばがここまで言ってくれないんだから、きっとせらは、もういないんだと思った。
布団の上で組んでいた指に、力が入る。
爪が突き刺さって、ちょっと痛い。
「…せら、もう、いないんでしょ」
「奏斗」
「…………わかってた、知ってたよ」
「置いていかないって、約束、したのに」
「せら、ッ、…っ、ふ、…に、僕の、未来、ッ全部あげるってッいったのにな、ぁ、」
視界がぼやけて、ぽた、と涙が指輪に落ちた。
せらから貰ったあの指輪が、唯一の形見になってしまったのが寂しくて辛くて嫌で、膝を曲げて顔を埋めた。
「奏斗、」
ひばが口を開いた瞬間、ポーン、と館内放送が流れる。
面会時間の終了らしかった。
それを聞いた彼は悔しそうに眉を寄せて、必死に泣くまいと耐えていた
「…これ…奏斗のスマホ。」
「あと、せらおのも。」
「…………おれ、俺さ、凄く、申し訳ないけど……」
「、俺は、奏斗だけでも生きててくれて、良かったって思ってる」
「ごめん。……また、来るから、」
カラカラカラ…ばたん、と、ドアが閉まって、彼は帰った。廊下から、すん、すん…と鼻をすする音が聞こえる。
ベッドサイドの小さなテーブルには、僕とせらのスマホが並べて置かれていた。
「…ばか…割れてんじゃん」
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