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樹海付近のムツキの家。ナジュミネも機嫌をようやく直した翌日のことである。ちなみに、彼女が機嫌を直すまでにいろいろとあったが割愛する。
ムツキは彼女の機嫌が直って一安心かと思いきや、また新たな悩みを抱えていた。
「はあ……」
ムツキはソファに座って、前屈みになり、悩ましげな表情をしつつ手で顔を覆っている。次の瞬間には大きな溜め息を吐いて、とぼとぼと歩き出したかと思えば、すぐ近くでくつろいでいたコイハを有無も言わさずに後ろから抱きしめて、そのままひょいと持ち上げてからロッキングチェアに座る。
「はあ……ユウが帰ってこない……」
「ハビー……俺を……ぬいぐるみか何かと思っていないか?」
ムツキの様子を察してすぐには反応しなかったコイハがここでようやくおずおずと呟く。しかし、彼女から嫌悪感が発せられてなく、彼女の発している雰囲気は少しの心配と少しのドキドキ感が入り混じっていた。
「あ、すまない。うっかり、その、ごめん……もし良かったら、ちょっとこのままでいさせてくれ……」
まるで子どもが寂しくてぬいぐるみを抱き締めるような雰囲気で、ムツキがコイハを抱いている。そんな状況で彼女が無下にできるわけもなく、小さく溜め息を零す。
「はあ……まったく……」
「ありがとう……」
ムツキが弱弱しい返事をするので、サラフェまでも反応し始める。
「らしくないですね」
「あ、ごめん」
「いえ、その……」
ムツキがさらにしょんぼりとし始めたので、サラフェは思わず狼狽えてしまう。そこにすかさずキルバギリーがフォローに入る。
「マスター。サラフェはマスターを励まそうと、もしくは、慰めようとしているのです」
「そうなのか? ありがとう」
「い、いえ、別に、いつもと違うとサラフェも調子が狂うだけです」
サラフェは真っ赤になった顔を見られないようにしながら、元のくつろいでいた場所に戻る。代わりに、ナジュミネがムツキの方へと寄ってくる。
「まあ、まあ。ところで、旦那様、そんなに気を落とすな。たしかに、ユウを昨日から見てないが、……いつからいないんだ?」
ナジュミネにそう訊ねられて、ムツキが思い出しながら答える。
「もっと前から、みんなを見送ったその日からっぽいんだ」
その時、リゥパやメイリも会話に参加し始める。
「すると、ユウ様がいなくなって、もう5日くらいになるのかしら?」
「ダーリンが覚えてるので、ユウってそんなに長く家を空けることあったの?」
「まあ、10日くらい、いなかったことならある」
ムツキは以前からユウが数回ほど長期間家を空けて何かを探していたことを思い出す。今この時まで特に気に掛けていなかったが、彼女が何を探していたのだろうかと気になり始める。
「じゃあ、そういうことなんじゃないか?」
「いや、違うんだ……」
ムツキはコイハの言葉を否定した。
「マスター、前と何が違うのですか?」
「俺の【コール】に出ないんだ。前はむしろ、ユウからたくさん【コール】がきていたのに、今回、1度もないんだ……」
今までのユウの長期間のお出かけは1日に1度は【コール】でなんとなくの場所を伝えてきていた。心配しないでほしいとも言っていたので、ムツキはそういう【コール】なのだという理解だった。
それが今回全くないどころか、彼から【コール】をしても出てこないので、何かあったのかと心配している。
「それは心配にもなりますね……」
「皆、見ろ。旦那様が……」
サラフェがそう呟くと、ナジュミネがびっくりした顔をしてムツキの方を見ている。
「……あぁ……ユウ、元気なのか? いや、どこかでケガしているのか? どうして、連絡をしてくれないんだ? 【コール】ができないくらいの何かがあったのか? いや、もしかして、……別の男ができたのか? 多夫も認められているから止めはしないけど、でも、だから、【コール】にも出ないのか? 別の男との生活ができてきて、この生活が嫌になって、出て行ったのか? 待て待て、そんな様子は……いや、最近、俺が冷たかったのか? そんなことないつもりだったが、寂しくさせてしまったのか? どういうことだ……うーん……」
ムツキは見たことも聞いたこともない別の男を想像し、ユウがその男に嬉しそうにくっついている姿を想像する。彼もハーレムを築いている以上、彼女が逆ハーレムを築いていても文句は言えない。ただ、一緒に住めなくなると思うと、心がざわつくようだった。
「あぁ……ムッちゃん、なんか、変なスパイラルに入って、全く思ってもないことまで口走っているわね……。ユウ様が聞いたら、それこそ激昂して出ていくわよ……」
リゥパは冷静にムツキの心配を杞憂と断じていた。