咲き始めた桜を横目で見ながらシンは走っていた。
右手には卒業証書の入った筒を握りしめて…
やっと訪れた約束の日。
式が終わると同時に教室を飛び出した。
同級生達の引き止める声などシンの耳には微塵も入らなかった。
ただひたすら愛おしい人の待つ場所へ向かって走った。
息切れしながら店に着くと勢いよく扉を開ける。
バンッ!
「湊さんっ!はぁ…はぁ…」
「びっくりした…。もう終わったのか?卒業式」
シンは湊に駆け寄ると抱きしめた。
「おぃ…」
「約束通り湊さんを貰いにきました…」
湊は周りを見渡す。
店には常連さん達が集まっていた。
「シン…一旦離れろ…」
「イヤです…もう離しません…」
「みんな見てる…」
小声で言った。
「構いません…」
湊を抱きしめる腕に力が入る。
きっと何を言っても無駄だ…
「ったく……」
観念したように湊はシンの背中をポンポンと叩く。
「良かったね~晃くん。イケメンの彼氏ができて。笑」
客の1人が言った。
「まぁ…笑」
照れながら頭をかく。
否定はしなかった…
「シン。もう離して欲しいんですけど…」
「もう少しだけ…」
「さっきからもう少しだけもう少しだけって…とっくにみんな帰ったぞ…」
「だったら尚更…まだ離したくないです…」
「……」
「……」
「まだか…」
「まだです…」
「……」
「……」
「おぃ……」
「イヤです…」
「渡せねぇだろ……」
湊の言葉に反応してシンがようやく離れた。
「何かくれるんですかっ」
「ったく…反応はぇーな。笑」
やっとシンから解放された湊はベンチに座る。
シンも湊の前の椅子に座った。
「その前に……合格と卒業おめでとう。シン」
湊はシンの頭を撫でる。
「ありがとうございます…」
照れくさそうにシンは笑ってみせた。
「遅くなっちまったけど…合格祝い渡すって約束したろ?」
「もう貰いました」
「は?何もあげてねぇよ」
即答するシンにきょとんとする。
「湊さん…」
「へっ?」
「今日は湊さんを貰いにきたんです」
当たり前じゃないですか。と、でも言いたげな顔でシンは答えた。
「あっそ…じゃ、いらないんだな…」
ポケットに手を入れてシンの前にかざす。
「これって…」
湊の家の合鍵だった。
「来るんだろ?家に」
「いいんですか…?」
「卒業したら部屋無くなるんだろ」
「覚えててくれたんですか…」
「受け取らねぇのかよ…」
「いりますっ!」
素早く湊の手から鍵を取る。
「…笑」
あまりの機敏な動きに湊は笑ってしまう。
「………」
湊の部屋の鍵をじっと見つめたままシンは嬉しそうに眺めている。
「何黙ってんだよ……」
「嬉し過ぎて…上手く言葉が出てこなくて…」
困りながら話すシンは鍵を見つめたままだった。
「ばーか…笑」
つい笑ってしまう。
「……」
「とりあえずシンちゃんは一度実家に帰ってご家族と会ってこい。家に来るのはそれからだ」
「でも…」
「でもじゃねーよ。きちんと挨拶してきなさいっ!じゃねーと……今度からお前のご家族に合わす顔がねーだろ…」
今度…その言葉がシンの胸に突き刺さる。
嬉し過ぎて笑みがこぼれる。
「はい」
そう返事をした。
「待ってるから…」
はにかみながら言う湊が可愛くてシンはもう一度湊を抱きしめた。
「必ず行くから…待ってて…」
実家に戻ると卒業の報告をし、挨拶を済ませ荷物をまとめるとシンは急いで湊のアパートに向った。
貰ったばかりの鍵を使って玄関のドアをそっと開ける。
「ただいま…」
顔を覗かせるとそこには湊が立っていた。
「おかえり。シン…」
ずっと願っていた光景が目の前に広がる。
抑えきれない想いがシンの中で溢れ出す。
湊はシンの荷物を受け取ろうと手を伸ばすとその手をシンは掴み湊を引き寄せる。
欲しくて欲しくてたまらなかった宝物をシンはやっと手に入れた。
「もう二度と離さない…」
再び湊を強く抱きしめた。
「またかよ……笑」
少しあきれ顔で笑う湊はそれを受け入れた。
「シン…今度はいつまでそうやってるつもりだ?」
「……」
「答えろばか…笑」
「ずっと触れていたい…」
「…触れすぎだっーの…笑」
「離れたくない…」
「もうどこにも行かねぇよ」
「わかってます。どこにも行かせません…」
「話しがあるから…」
「このまま聞きます…」
「このまま追い出すぞ…」
「それは困りますっ」
「冗談だよ。ばーか。笑」
「……」
「とにかく早く入れっ!」
「はい」
ダイニングテーブルに向かい合って座ると、湊は真剣な顔で話し始める。
「お前と付き合うって事はお前の未来を奪う事になる…」
「奪うって…大げさじゃ…」
「いーから。最後まで聞け…」
「……はい」
「お前が俺の過去を受け入れてくれたように、俺はお前の未来を守る責任がある。今までのように逃げ出したり投げ出したりしたくねぇんだ。ちゃんとした大人としてお前を守るから。お前が迷わないように支えるから……だから…俺と…付き合ってください…」
「湊さん…」
「返事は…?」
「俺が湊さんを守ります」
「ん?」
「俺と付き合ってください」
「あのな…俺が聞いてるんですけど…」
「断るわけないでしょ?だから、湊さんの返事は?」
「…しょーがねーな」
「俺の事好きですか?」
「めんどくせぇ…笑」
「返事は?」
「……好きだよ。シン…」
「やっぱり離したくないっ」
身を乗り出し湊の手を握りしめる。
「あほかっ!うぜぇから早く荷物片付けてこいっ!」
「恋人に向かって、うぜぇとか酷すぎます…」
「本当めんどくせぇ恋人だな…笑」
シンが荷物を整理し始めると
「さてと…」
湊は立ち上がると寝室に向った。
ベッドに片膝をつきカーテンに手をかけると左右に開く。
「やっと…開けられた…」
独り言のように呟く。
越してきてから初めて寝室に陽の光が差し込む。
当たり前だが窓の外にシンの部屋は見えない。でも部屋の中にはシンの姿があった。
それがどれほど湊の安定剤になるのか…きっとシンは気がついていない…
陽の光より眩しく…温かく…穏やかな…
湊だけの太陽…
「湊さん何やってるんですか?」
近づいてくるシンの姿は陽の光を浴びてさらに眩しく見えた。
「シン…」
湊はシンに手を伸ばし引き寄せる。
「…大好きだよ……シン」
ベッドに倒れ込みシンに口づける。
「もう離さねぇからな…覚悟しとけよ…」
「もちろん。俺も一生手放すつもりないんで…」
これからは隣にシンがいる…
これからは隣に湊さんがいる…
俺達はまだ始まったばかりだ…
おわり
【あとがき】
祝!連載無事終了!
なんとか書き終わりました…
良かった…バンされなくて…汗&笑
そして、ここから始まります。笑
番外編として、恋人編が始まります。
連載としてではなく、ただ恋人編が書きたいだけなので、突発的に書きますね。笑
色々問題があるので……番外編は、フォロワー様限定公開にさせていただきます。ご了承くださいませ…
長いお話でしたが、最後までお付き合いいただき、ありがとうございましたm(_ _)m
まだ書きたい話しがあります。
ただ、時間が無さすぎてお待たせしてしまうかもしれません…
なるべく早めに投稿できるようにしますね♪
次回作は、こちらの番外編か本編になるか…お楽しみに…笑
それでは、また次回作でお会いできますように…
月乃水萌
コメント
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ハッピーエンドでおわってよかった🥰 おわってしまってー!番外編も楽しみにしてますね💕︎💕︎
わー!終わっちゃった! でもハッピーエンドが見れて嬉しい😍 番外編めちゃめちゃ楽しみにしてます!😆