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布団の中で目を閉じても、
仕事のメールが頭から離れない。
なのに隣の和室から、
ふわりと薬草の香りがする。
私はそっと、襖を開けた。
「……伊作くん、起きてたの?」
「はい。ちょっと、現代の“くすり”について調べてました。
漢方も薬局で買えるなんて、本当にすごいですね…!」
小さなスタンドライトのもとで、
ノートにメモを取りながら、彼は振り向いた。
「あなたは、どうしてそんなに疲れているんですか?」
「……仕事が、終わらないから」
「じゃあ、終わらせなきゃいけないんでしょうか?」
「うん……“責任”ってやつかな」
困ったように、諦めたように
笑った私の表情をみて、
少し考えてから彼は静かに言った。
「責任というのは、自分を犠牲にして
背負うものではないと思います。
……僕は、保健委員長だから
誰であろうと怪我人を助けます。
でも、僕が倒れてしまったら、
他の人を助けることもできなくなってしまいます」
「……」
「あなたも、自分を大切にしてください。
……じゃないと、僕は悲しいです」
心がじんわり、熱くなった。
泣いてしまいそうだったので、
私は布団に潜り込んで、「うん」とだけ答えた。
――不思議な夢を見た。
伊作くんと一緒に、
野山を歩いて薬草を摘んでいた。
草の香り、川の音、風の匂い。
なにもかもが懐かしくて、優しくて――
「美咲さん、ここにも薬草がありますよ」
私の名前を呼ぶ伊作くんの声が、
あまりにあたたかくて、目が覚めたあとも、
胸の奥がじんわりとしていた。