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くそっ!まずった・・・やっちまった、大変な事になった
自分もアリスも・・・・政治家になるということはもはや自分だけではなく、二人の・・・いや、自分を取り囲むみんなの夢だったのに・・・
これでもうおしまいだ、耳鳴りがして吐きそうだ
「くそっ!」
北斗が言う
「この新聞社へ抗議の電話をしてやるっ!鬼龍院の言った事の裏取りもしないで、謝罪文と訂正文を出させてやるっっ!」
「いいえ!ダメよ!これ以上本質からズレさせちゃいけないわ、あんたがアリスの事を持ち出したら向こうの思う壺よ!今回の選挙にアリスは関係ないって事を証明しないと!」
元気づけるように貞子が北斗の肩を叩く
ああ・・・アリス・・・・今頃何も知らずに一人この新聞を読んだら、どれほどのショックを受けるだろうか
さらにこの新聞社のホームページの、タブレットの画面一面にも北斗と鬼龍院が映っていた
北斗は怒りで心臓が激しく打つのを感じながら次のページをめくった
そのページにはさらに「問題の令嬢」と記され、今より数年若いアリスの写真が載っていた、どこかで撮られたんだう。ITOMOTOジュエリーの幹部団の集合写真の、一番前のセンターに彼女はいた、上品にいかにも親しげで穏やかな笑みを浮かべている
あまりのことに情報を処理できない
「くそっ!!」
もう一度北斗が吐き捨てた
「どうしてヤツらはあの場所にいたんだ?」
「そこだよ」
信夫が北斗の横にカップコーヒーをコトンと置いた
それを見て荒れている北斗に、優しく寄り添おうとしている彼の態度に、少しだけど冷静になれた
「ヤツらはこの選挙戦を馬鹿らしい恋愛のもつれの、延長戦だという風にしたがっているんだ 」
「もっとも鬼龍院はそうかもしれないわよ」
フンッと貞子は鼻を鳴らす、信夫は目を細める
「姉さんは黙ってて!僕の考えはこうだ!このまま正当に北斗と戦えば、鬼龍院は負けると思っているんだよ。だから北斗の奥さんのアリスさんを何らかの、スキャンダルに巻き込みたいんだ」
「クソみたいなやつね! 」
貞子が百子のお尻をポンポン叩きながら言う
「それで!今日鬼龍院の政策案が出たんだよ!ほらっ!これを見て!完全に新聞社と鬼龍院はグルだ! 」
三人がタブレットを覗き込むと、見出しに赤文字でドンッと出て来た
「鬼龍院候補の斬新な政策アイディア周防町の未来の為に! 」
「55歳以上全員に年に2回10万円支給~~?」
貞子が大声を上げたので、ついに不穏な空気を嗅ぎ取った百子が泣き出した
北斗は胃が縮む思いをした、いったい鬼龍院は何を考えているんだろう、この先の展開がまったく読めない
「無理よ!こんなの!完全に票集めのための政策じゃない!! 」
「・・・でも・・・ひっかかるヤツ達はいるよ・・この画面を見て」
信夫がタブレットに移されている。政治ニュースサイトの鬼龍院政策案の記事の下を指さした
もうすでに500件もついている、コメント欄を上から下に見て行く
―みんなして周防町に住もうぜ!―
―コイツが議長になったら毎年20万もらえる―
―そんな政策通るわけないよ!―
―非課税世帯はどうなるんだ―
―55歳以上なら誰でも無条件らしい―
―鬼龍院の笑顔のGIF画像3枚―
―20万円現金が封筒からはみ出た画像2枚―
「タイミングが良すぎるんだ、今から僕の北斗陣営達と作戦会議をするから、ちょっと来て! 」
そう信夫にせかされるまま、彼のデスクトップパソコンの椅子に座らされる
すると画面が4つぐらい次々と開き、その向こうには見知らぬ人達がいた
「僕の今回のインターネットの仲間だよ、要するに彼らも北斗陣営だよ、右から広報担当者、危機管理マネージャー、当選戦略家・・・」
北斗は次々スカイプ画面で信夫から紹介され、驚いたが一人一人に丁寧に挨拶をし、日頃自分を手伝ってくれている事に感謝の言葉を示した
その後の3時間は耐えがたい時間が続いた
今やデスクトップの画面は20人ほどの、スカイプ窓が開いており、北斗はこんなにも信夫の仲間がいたのに驚き、同時に公開処刑にあっている気分にもなった。そしてその窓の一つにあの永原さんもいた
北斗は思い出すのも頭に血がのぼるのを何とか抑えて、しかしキチンとあの日鬼龍院がやってきて、どういう経緯であの写真を撮られたか
そして記事の内容はどこまでが本当で、どこまでが嘘なのか、鬼龍院は何を話したのか、彼らに誠心誠意心を込めて覚えている限りヒアリングした
自分が鬼龍院の胸ぐらを掴んで自動販売機に、叩きつけたくだりの話をした時は声が小さくなり、とても苦痛だった、後悔してもしきれない
モニターの向こうの全員は黙って険しい顔をして、だけど北斗の誠意ある言葉をじっと聞いた
そして一人の広報担当者が新聞記者に告訴する、声明の草案を読み上げた
北斗の各SNSやHPに告知する文言も一緒に、みんな真剣に考えてくれた
北斗はその草案に全く異論はないと許可を出し、そこからさらに2時間後ようやく彼らに開放された
そこからも信夫達はこの件に対して、インターネットに載せるのに「訂正文」にするか、「謝罪文」にするか、またどのスペースにどのタイミングで、何日間載せるかなどを延々と議論していた
一人は事実無根の内容でも、有権者を心配させたのだから「謝罪文」がいいと言った
しかしもう一人は「謝罪」だと、全面的にこちらが非を認めたことになるとも言った
北斗は街宣は今日一日控える事にし、さらに信夫率いる広報集団から指示が出るまで、有権者訪問も禁止され
一日中事務所で事務仕事をしながら、自分のしたことがこれほどの人に影響を与えているのだと反省してもしきれなかった
信夫達は夕方までスカイプで、あらゆるSNSで反応している、ユーザーのモデルをチャートやグラフでデーターにしながら、今後の対策案を打ち出していた
本当に心強い味方だと感謝した、北斗一人では絶対ここまで出来なかっただろう
あの時鬼龍院に何を言われても、手を出すべきではなかったのだ
アリスの今朝の優しい笑顔を思い浮かべ、一気に胃にコーヒーを流し込んだ
相変わらず胃の中はひっくり返りそうだった