「太宰さん、今日はいい天気ですね!」
「嗚呼、とても良い入水日和だよ」
僕と太宰さんは探偵社の残り少なくなってきたお茶の葉を買い足す為、商店街へ来ていました。
「あ、太宰さん、お店ありましたよ」
「いいや敦くんその店は今日は定休日だ」
「わぁ本当ですね、どうしましょう…っていうかなんで先に云ってくれなかったんですか?!」
「あはは」
太宰さんはいつも通り、のらりくらりとしていて、考えていることがよくわかりません。
「そうだね…二丁目裏通りの店が今開いてて一番お茶の葉の安い店だよ」
「そうなんですね!ではそこに行くことにしましょう!」
「おー……おぉおオオォォォオオオォ」
裏通りに入る為、脇道に入ると、そこで、
ばったり芥川と、黒い外套に帽子を被った芥川の連れの人に会いました。
「 !だっ太宰さん、お早う御座います」
「嗚呼」
芥川は太宰さんに尊敬の眼差しを向け、丁寧に挨拶をする。
「げぇ」
連れの人が太宰さんを見て、蛙を踏み潰したような顔をした。
彼は太宰さんがよっぽど嫌いなようです…
「うっうぇ、何で此処に居るんだよ…中也はポートマフィアの番犬じゃなかったのかい?」
連れの人は太宰さんの知り合いのようです。
中也さんと云う人らしい。
「あ゛ぁ?五月蝿ぇ!黙っとけ糞太宰!手前こそ仕事さぼってどうしたんだ?」
「全く、非道いなぁ中也は。私はちゃんとお茶の葉を買うと云う任務があるんだよ」
「茶っ葉より包帯を買わなくていいのか?」
「そんなことより中也は牛乳でも飲んでなさい」
「っ…五月蝿え!俺は小さくなんかねぇんだからな!」
「私何も云ってないんだけど」
二人は仲が悪そうに見えるが、案外とても仲良しなのかもしれないと思う。
側を見ると芥川も二人の会話をポカンと見つめていました。
「なぁ芥川…あの二人の関係ってなんなんだ…?」
不思議に思った僕は芥川に小声で聞いてみた。
「…嗚呼、太宰さんが抜ける前、あの二人は”双黒”と呼ばれた最強の二人組だ。
つまり中原さんは太宰さんの旧い相棒だ」
「へぇ、なんで相棒だったのにあんなに仲が悪そうなんだろう…」
「…そうだろうか?僕には仲が良いように見えるが…」
「えっ、…確かに仲は良さそうだけどお互い揶揄(からか)ってるような感じだよね」
「うむ。それには僕も同感だ」
僕らが話している間も二人は懲りずにまだ揶揄い相っている。
ふ、と太宰さんがこちらに視線を寄越しました。
「芥川君、君、ちょっとこっち来なさい」
「…?はい、」
唐突に話しかけられた芥川は、困惑しながらも太宰さんに連れられ曲がり角の先へ消えていきました。どうしたんだろう。
路地に二人きりになると、中也さんに話しかけられました。
「なぁ、手前も大変だな、あんな包帯ぐるぐる巻き貧血厨二高身長自殺野郎を上司に持って」
「はい…よく仕事を押し付けられるんです」
中也さんは僕に盛大な哀れみの目を向け云いました。そして、ふいと顔を上に上げ、遠くを見る目をしました。
「嗚呼…彼奴は変わってねぇな…昔もよく部下に仕事押し付けてどっか行きやがってな…」
中也さんはあまり仕事内容には触れず、思い出話をします。
「ところで、二人、何話してるんでしょう?」
「さァ?酒の話じゃねえか?」
「絶対違うでしょ…」
僕たちは太宰さん達の会話に耳を澄ませました。
─────
『ふぅ、芥川君。』
『なんでしょう、太宰さん』
二つの靴音が止まる。
『芥川君、君ねぇ、敦くんと最近距離が近くないかい?』
『…?そうでしょうか』
『そうだよ!どう見ても最初の頃より距離が縮まってるよ!』
『それで…僕はどうしたら良いんでしょうか、』
急に太宰さんの声色が低く冷たくなる。
『当たり前じゃないの。あんまりうちの敦くんに関わらないでくれる?』
『っ!何故?』
『…次、敦くんと喋ったら────二回殴って五発撃つ』
『ハッ…!』
芥川が息を呑む。そして噛み締めるように言う。
『…わかりました』
『それで良い。さ!戻ろうじゃないか!』
太宰さんのテンションが急に高くなる。
『あの…太宰さん、』
『何だい?』
芥川の声が小さくなる。
『もしかして…人虎のことが好き…なんですか…?』
『?私は男と付き合う趣味はないよ』
『そうでしたか。良かったです…』
『うん?よかったね?』
───────
「…」
中也さんも言葉を見失っている。
凄く居心地が悪い。
「…可哀想に」
中也さんが此方を見てぼそりと呟いたが、小さく聞き取りづらかったので聞き間違いだと思いたいです。
「中也!敦くん!お待たせ!」
太宰さんの姿が角から現れる。
「あ、嗚呼…そうだな…おう」
「あー、えー、太宰さん…あっ!そうです!早くお茶の葉を買いに行きましょう!さ!早く!」
僕はなるべく早くその場から離れようとする。
「…?うん、そうだね」
「ね、早く行かないとお茶っ葉が無くなっちゃいますよ!
では!中也さんたち、さようなら!」
「おう」
僕はあかんべぇをする太宰さんを引っ張って足早に立ち去りました。
「あれ?敦くん…店通り過ぎたよ…?」
「え!?」
後日、芥川に会った時、露骨に無視されました。少し、悲しかったです…
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