結子さんのそんな姿をもっと見たいと思った。
仕事中では知り得ない、プライベートな姿。だから気づいたら誘っていた。
「昼、もう食べました?」
「ううん、食べてない」
「じゃあ、昼おごってください。それでチャラ」
俺は立ち上がる。それでチャラだなんて口実でしかない。
結子さんは不思議そうに俺を見上げた。
「それじゃダメです?」
「ダメじゃ、ないけど……」
ダメって言われたらちょっとショックだなと思いつつ、ダメと言わせない理由を持っている俺。意地悪かもしれない。だけどもう少し結子さんといたいという気持ちが行動を起こす。
結子さんが飲んでいたコーヒーの空のカップとクッキーの個包装ビニールをゴミ箱に捨てた。テーブルの上にはもう何もない。結子さんがここに居座る理由をなくした。そうして、ようやく結子さんは席を立った。
外に出ると結子さんは「さむっ」と呟いた。
よく見れば今日も薄いコート。目に見える防寒着といえばそれだけ。
「前から思ってたけど、畑中さんって薄着ですよね?」
「そう?」
「マフラーも手袋もしてないし」
「あー、そういえば確かに」
「そういえばって」
結子さんは両手を擦ってはあっと息をかけている。やっぱり寒そうだ。結子さんの白い手が血の気を失って白さを増している。見てられないなと、自分の手袋を渡した。
「なに?」
「寒そうだから」
「ありがとう。でも、いいの?」
「俺はこれ、あるから」
ポケットからカイロを取り出して見せる。結子さんは「おおっ」と感嘆の声を上げた。手袋よりカイロ渡した方がよかっただろうか?
「俺、寒がりなんですよね」
「女子か」
すかさずツッコまれた。
「それ、学生のときよく言われた」
懐かしい響き。あまりいい思い出がない学生生活。同じ言葉なのに結子さんが言うとどうしてこうくすぐったい気持ちになるのだろう。
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