テラーノベル
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サムネの制作作業中、ピコンとLINEの通知音が鳴った。普段ならば多少放置するのだが、この時間はチェックするようにしている。
なぜならば、グループの仲間えとからの連絡だから。
現在メンバー全員で生活しているシェアハウスでは女子の帰りが遅くなるときには男子に連絡をして迎えにきてもらうというルールができた。
るなが以前駅前で塾帰りに男から声をかけられたということがあったからだった。
保護者代わりにもなっている成人組は話合い、よそ様の大事なお嬢さんをお預かりしているのだからできることはしようとなった。
そのときにお姉さんであるのあやえとにも話を聞くと、男性陣に気を使ってかはっきりではないが男に声をかけられることがあると聞いてるなだけではなく女子みんな22時過ぎるときには迎えにきてもらうようにすることが決まったのだ。
到着時間が近くなってうりは家を出ようとする。
「あれ、うりりんどこ行くの?」
珍しくこの時間にリビングにいたじゃぱぱにうりは声をかけられた。
「えとさんのお迎え、だよね」
「あぁ、もうそんな時間か」
えとのお迎え常連組のなおきりとシヴァがじゃぱぱに返す。
「僕も行こうかなー」
「じゃあ、オレもー」
「付いてくるんすか。いいけど」
「えー、じゃあオレも行ってみようかなあ。えとさんオレには全然連絡くれねぇんだもん」
そこはえとさんの配慮だよと三人は宥めながら玄関の方へと向かう。するとたっつん、もふ、ヒロと出くわした。
「あれ、みんなでどこいくの?」
「こんな時間に?」
「オレも行きたいわー」
「えとさんのお迎えなんだってー」
「えとさんの迎え? あぁ、もうそんな時間なんやな」
「えとさんの迎えかー」
えとさんの迎えにあまりいい印象のないヒロは少し渋い顔をした。事情を知っているうりは笑いを堪える。なおきりはそんなうりをめざとく見つけてシヴァとたっつんを巻き込み事情を聞き出し笑う。
「えとさんホンマ!?」
「今度はオレとなおきりさんも呼んで無双の焼け野原にしたいって」
「オレも呼んで欲しいわあ。それ見たいよぉ」
「えっ!?なんの話」
「その役目うりとなおきりさんにあげるよぉ」
「ねえねえ!時間大丈夫なの?」
うりはハッとして時間を確認すると少し遅れてしまうのが確定していた。
「あぁっ!やばい、誰が来んのかわかんないけど行く人行くぞ!」
結局その場にいた全員で行くことになり、慌ただしくシェアハウスを出た。
学校でのグループワークの課題をみんなでファミレスでおおまかに片付けるとすっかりいい時間になってしまったのでシェアハウスのルールに則ってうりに連絡をした。
地元駅に着くと未だうりは付いていないようだった。頼んでいる側であるし、回数も多いので時間通りに来られる日ばかりではないのは承知している。
近くに大きな木がある花壇があるのでそこに腰掛けながら待っているのがえとのいつものことだ。
すっかり秋めいた夜は少し冷える。指先を自分の体温で温めながら待っていると視界の端に近づいてくる男に気がついた。
離れようと思ったけれど少し遅かったみたいで隣にどかりと座られてしまう。
「お姉さん一人?」
「迎え、待ってるんで」
「そうなの? じゃあオレとおしゃべりでもしながらさ、待ってようよ。迎えって彼氏?」
「身内です」
「へえ、そうなんだ」
えとは構ってほしくないと離れるが、離れればさらに距離を詰められてしまう。
「離れてくれない」
「えー別に何もしないって」
「いやだから」
「迎えにくる身内ってどうせ男なんでしょ? 待たせるような野郎やめておきなよ。大事にするタイプよ?オレ」
知らねーよとさすがに歩きながら合流した方がいいなと立ち上がると腕を掴まれる。
「どこ行くのー?」
「ちょ、離して」
「まあまあ、いいじゃんここで待ってれば、さ」
少しイカつめの見た目をした男は、ナンパするくらいには自信があるのだろう。えとの迎えにくる男は大したことないと決めつけたようだ。
男の力は華奢なえとには強く手を振り解くことさえできない。本格的に恐怖心が上がってきた。
「やめ、」
喉が引き攣りはじめたとき、掴まれた腕に振動が伝わる。同時に上がった息の方を見れば珍しく必死な顔したうりがいた。
「うり」
「てめぇ何してんだ」
勢いに驚いた男はえとの手をパッと離すが懲りてないようで。
「いやいや、女の子待たせるような男に言われたくねえのよ。ねぇ、お姉さん? 楽しくおしゃべりしてただけだよねぇ」
また手を伸ばそうとする男からえとを引き寄せ払おうとしたところを、男よりもガタイのいいシヴァの手が掴んだ。
さすがに自分よりもデカい男には怯んだようで目を白黒させている。
「うちの娘に何かようかなぁ?」
「動画にも収めてますし、出るとこ出てもいいですけど?差し出しましょうか、警察に」
嫌がるえとに再び手を伸ばそうとした瞬間がバッチリと収められたそれを見せられ男は立ち去ることしかできない。消しとけよとみっともない捨て台詞だけを残して。
「わりぃ、遅くなっちまって」
「ううん、きてくれてたすかった」
えとはまだ少し動揺しているのか話し方がいつもより幼い。遅かったと責めてくれてもいいのにとうりは顔を歪める。
引き寄せたのを解放したところで、小さく震えているのがわかって遅くなったことを後悔した。
「なおきりさん」
「うん。こっちおいでえとさん」
一旦、なおきりに任せたうりは自販機へと向かう。なおきりは遅くなってごめんねと俯く顔にかかる髪を耳にかけた。
めずらしく弱気な目でふるふると首を振るもんだからシヴァも大きく分厚い手でえとの頭を撫でた。
「えとさん、大丈夫だった?」
「え、じゃっぴ!? たっつん、もふくん、それにヒロくんまで」
おずおずと声をかけるじゃぱぱに、存在すら気がつく余裕のなかったえとは素直に驚く。そもそも、なんでこんなに大人数なのかと首を傾げた。
「いやね、えとさんのお迎え来たことないなーと思って」
「え、あぁ、じゃっぴはそうかもね。いやでも、そんなね、わざわざ時間割いてもらうのも悪いし。迎えなんて来たいわけでもないだろうし」
もちろん、うりとかなおきりさん、シヴァさんが来たいとかそう思ってるわけじゃないんだよとフォローを入れるがなおきりが来たいんだよとえとをなだめるのでえとはきょとんとする。
「あのなぁ、えとさん。一緒に生活するうえでこういうことも分かってることなんよ。いつでも頼ってええねんで」
「そうそう、うりとシヴァさんとなおきりさんが走りだした先で見た光景にびっくりしたし、えとさんも改めて守ってあげなきゃいけない女の子なんだって再認識したから」
優しくされて、先ほどまで怖かったえとの涙腺が緩む頃、自販機から帰ってきたうりから温かいココアを差し出される。
「待たせて悪かったな。寒かったろ」
ココア缶を握れば冷えた指先がじんわりと温まる感覚に体の緊張も緩んでいくのがわかる。さらにヒロくんから背中をさすられて、嫌だけど目に水の膜が張っていくのがわかった。
「さむかったあ」
ようやくでた不満らしい不満にじゃぱぱはえとの前髪をつるつると優しく撫でた。うりもわしゃわしゃっとえとの髪をかき混ぜるように撫でる。
「もうっ、ぐしゃぐしゃなんだけど!」
少し強く返すえとに安心したじゃぱぱはうりに倣ってわしゃと撫でて、みんなも一回ずつわしゃわしゃと撫でて、なおきりが最後に少し整えてあげていた。
「みんな、メンバーが大事なんですよ。素直に甘えていいんですから、特にえとさんも女の子なんだから」
再びえとの目に涙の膜を張る。
「なおきりさん、わざと泣かそうとしてるでしょ」
「バレたか」
鼻をスンッと鳴らし、ココアを開けて口をつける。暖かくて甘いそれに体の内側から安心が広がるようだった。
ポロリと涙が一粒落ちる。それを指で押さえた。
「よぉし、今日はみんなでゲームでもやってから寝ようぜ」
うりがえとと肩を組む。逆側からはじゃぱぱが腕を回した。
「おうっ!ってじゃっぴ、うり!重いってば潰れる!」
ようやく、戻った笑い声に安心して帰る。
「えとさん、たまにはオレも呼んでよね」
「え?呼ばれない方が良くない?」
「たまには頼られたいってはなし!」
「オレも呼んで欲しいわ」
「オレもー」
「オレもたまには合コン以外のタイミングで呼ばれたいわ」
「えっ、ヒロくんそれをなんで」
オレが言っちゃったもんねえとうりが逃げながら言う。先ほど聞いていなかったもふが合コン!?と騒ぎ、えとさん今度は僕が合コンのとき行きますからとなおきりが宣言してシヴァはついていくからとマイペースに。
「もー!うりぃ!」
「騒がしいやっちゃなあ」
とはいいつつ、先ほどポロリと涙を流した姿から一変して楽しそうにはしゃぐ姿にみんなは本当に良かったと安心したのだった。
コメント
2件
あ、最高です