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第四話:秘密のカウンセリング
仰向けになった結衣の視界に、冴木の端正な顔が入り込む。逆光に縁取られた彼のシルエットは、神聖な儀式を司る司祭のようでもあり、同時に獲物を冷徹に解体する執刀医のようでもあった。
「……随分と、可愛らしい顔をしてこちらを見ていらっしゃる」
冴木の慇懃な声が、結衣の耳朶に熱く触れる。
結衣は、オイルで濡れて光る自分の胸元を隠そうとしたが、冴木の両手がそれを優しく、けれど抗えない力で押さえつけた。
「隠す必要はありません。あなたの体のどこに、どれほどの歪みが潜んでいるのか……私はそのすべてを把握しなければならないのですから。よろしいですね?」
冴木はそう言いながら、結衣の鎖骨の窪みに再び琥珀色のオイルを落とした。熱い滴が肌を伝うたび、結衣の心臓は激しく跳ね上がる。
「結衣様。……あなたは職場で、随分と聞き分けの良い『いい子』を演じていらっしゃるようですね」
「……え?」
唐突に私生活に踏み込まれ、結衣の思考が止まる。
冴木の手は、鎖骨から肩の付け根、そして脇の下のリンパ節へと、吸い付くような動きで滑っていく。それは治療というにはあまりに粘りつくような、情欲を孕んだ愛撫に近かった。
「私には聞こえるのですよ。あなたがクライアントの理不尽な要求に『承知いたしました』と微笑みながら、心の中で流している涙の音が。あなたの首筋から肩にかけてのラインが、そう告白しています」
「……そんなの、仕事、ですから。社会人なら、みんな……っ」
「みんな、ではありません。あなたは特に、誰かに必要とされることを拒絶されるのが、死ぬほど怖い。……違いますか?」
冴木の親指が、脇の下の柔らかな部分を深く、執拗に刺激する。
痛みと、心臓に直結しているかのような鋭い快感が走り、結衣は「ああっ!」と短い声を上げた。
「……図星のようですね。そんなに自分を殺して、誰に認められたいのですか? ……それとも、誰かに支配されることでしか、自分の価値を見出せないのですか?」
冴木の言葉は、肉体を解す指先よりも深く、結衣の心の傷口を抉っていく。
結衣の目から、不意に涙が溢れた。連日の残業、孤独な夜、将来への漠然とした不安。それらをすべて見透かされ、剥き出しにされた羞恥心が、オイルの熱さと混ざり合って彼女を内側から壊していく。
「……はぁ、っ……せん、せい……もう、やめて……っ」
「やめませんよ。私は、あなたの体の『詰まり』をすべて取り除くと約束しましたから。……心の詰まりも、同様です」
冴木は結衣の涙を親指でそっと拭うと、その指をそのまま彼女の唇に這わせた。
「……泣きなさい。我慢する必要はありません。ここでは、あなたが何を望み、何を恐れているのか……すべて吐き出していいのです。私が、すべて受け止めて差し上げます」
冴木の手が、腹部から下腹部へと向かう。
紙ショーツの端に指をかけ、境界線ギリギリまで引き下げながら、彼は結衣の脚の付け根に溜まった老廃物を押し出すように、力強く、そして卑るほど滑らかに愛撫した。
「あ、ぁぁ……っ、……んっ!」
結衣は首を左右に振り、声を押し殺そうとした。だが、冴木はそれを許さない。
「声を出してください。私があなたに与えているのは、苦痛ですか? それとも……逃れられない『悦び』ですか? どちらなのですか、結衣様」
「……っ……悦、び……です……」
結衣は、ついに自らの口で敗北を認めた。
理性が完全に崩壊し、彼女はただ、冴木の手によって形作られる快感の波に身を任せるだけの肉塊と化した。
「……いいお返事です、結衣様。……あなたのその正直な体が、私にさらなる『治療』を強いているのがわかりますか?」
冴木が結衣の片足を高く持ち上げ、内腿の最も敏感な場所に顔を近づけた。
イランイランの香りが、さらに濃く、熱く、二人の間に充満する。
「……さあ、心の奥底にある声を、もっと聴かせてください。あなたが本当は、私に何をされたいのか。……その口で、私に強請ってみなさい」
結衣は、視界が涙と快感で滲む中、冴木の掌の中に、自分という存在が完全に溶けて消えていくのを感じていた。
もはや、ここにいるのは広告代理店の有能なOLではない。ただ一人の、愛と支配を渇望する女だった。
「……お願い、します。先生、私を……壊して……」
その囁きを聴いた瞬間、冴木の瞳に昏い光が宿った。
治療という名のカウンセリングは終わり、ここからは、理性を捨てた二人のための、深淵なる「裏コース」が始まろうとしていた。
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