テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
148
みぃ〜ฅ^•ω•^ฅ
5,703
Misia
100
聖次
932
持ち帰りでチェリーパイを注文したら、届くまではしばらく暇になる。特に話題もなく、ビールを飲んで静かに待っていると、陽気で嫌味な声がした。
「おお~? なんだ、まだ酒場にいやがったのかよ、シレント!」
騒がしい酒場の中をハッキリとした低い声が通り抜けてきて、シレントがジョッキを口から離す。口元についたあわを指で取り、ナプキンで拭った。
「やあ、ディル……。僕がどこにいようと勝手じゃないか?」
「何を偉そうに。俺らのパーティをクビになった可哀想で馬鹿で使えない荷物持ち様が、女連れて酒飲んで気楽に過ごしてるのが気になっちまってな」
テーブルが蹴り倒され、ジョッキが床を転がり、豆は飛び散った。
明らかな空気の変わり様に酒場にいた者たちが何が起きたと注目する。
「悪い悪い。足が引っ掛かっちまったよ」
下卑た笑いだ。連れの少女たちも、どう反応していいか分からない。
ギルドでもディルはそれなりに強い冒険者として知られており、酒場にもよく顔を出す。金払いの気前の良さから彼の本性を知らない者は、きっとシレントが何か気に障る、よほどのことをしたに違いないと思い始めた。
近くのテーブル席に銀貨を何枚か置いたディルは、その席にいる客からビールを奪うように取り、シレントの頭にたっぷりとぶちまける。
「飲みたかったんだろ? 俺の奢りだ、気にすんな」
行き過ぎているとは思いつつも、誰も何も言わない。
ただ、レアナだけが自分のジョッキを固く握りしめて────。
「ちょっといいか、クソガキ」
「あ? なんだ────」
ジョッキの取手だけが残るほどの打撃がディルの意識を飛ばす。
「なんだよ、今ので意識が飛ぶとかどんだけ弱いんだ。まさか銀級か?」
取手をぽいっ、と倒れたディルに向かって捨ててシレントに指で『来い』と合図を送り、レアナは気分を害したと酒場から出て行った。
「待ってくれ、レアナ。お勘定が……」
「シレントさん。ここはアタシたちが払っておくから」
迷惑料だとディルの後ろで見守っていた赤髪の少女が言った。
「ルル。でも、僕ら結構飲んだよ?」
「いいの。壊したのは彼だから、それくらいは払うはずよ」
「……わかった。じゃあお言葉に甘えて、ごちそうさま」
結果が裏切られたものだとしても、悪い子ではないんだよなあと縁を切るのは少し残念に思いながら、レアナの後を追いかけた。
酒場の扉を潜ってギルドの受付に来たら、レアナは今さっき思いきりジョッキで他人をぶん殴ったとは思えない穏やかさで、口説くような距離感をして受付嬢と話している。あれは違う人かな、とシレントは目を軽くこすった。
「遅いぞ、おっさん。さっさと依頼受けてダンジョン行こうぜ」
「何にも気にしてないんだね……。でも、仲間も集まってないよ?」
「あんな連中がいたら、また喧嘩になるだろ」
「それはそうだ。というか君、めちゃくちゃ強かったなあ」
魔物に一撃喰らっても倒れないような男が、ほんの油断があったとはいえ女性にジョッキで殴られたくらいで気を失うとは思えない。細身に見えて、相当な実力を持っているんだろうと讃えたつもりが、レアナは目を細めて微妙な顔をする。
「……おっさんも、あいつも馬鹿なんだな。冒険者になって何年経ってんだよ。ギルドの階級制度を知らないわけじゃねえだろ」
「あ、うん。知ってるけど。確か下から順に青銅級、銀級……金級?」
惜しい、とレアナが指をぱちっと鳴らした。
「金までは合ってるが、その先に白金級もある。数えるほどしかいないけどな。ギルド員証は持ってんだろ。そこに星の数と色で階級が分かるはずだけど」
「ああ、持ってるよ。今は持ってないけど、バッグに。……銀だったかな」
確か銀色の星が二つ付いていたような気がした、とぼんやり思い浮かべる。
「だろうな。っつうことは他のメンバーもそうさ。あんたの元仲間がずっと一緒にいたなら全員、間違いなく銀級だろ。そりゃ私には勝てねえよ」
ホットパンツの中に手を突っ込み、ゴソゴソ探す。
何をやっているんだとシレントは顔を背けて待った。
「あ、あったあった。ほれ、私のヤツ」
見せられたギルド員証に目を向けると、驚くべきことに金色の星が付いている。しかも三つも。冒険者の中でも上級者と言われる領域だ。
「きっ、君こんなに強いの!?」
「おうよ。実を言うと白金級の試験に合格したんだよ、昨日」
「えっ、なのにクビにされたの?」
「理由は言ったろ。方向性の違いって奴さ」
合わなかったのなら仕方ない。所詮、そこまでの縁。レアナは以前の仲間とも大して深く関わってもおらず、むしろいがみあっていたので気楽なものだ。
「それより光栄に思えよな。私と組めるんだぜ」
「本当に頼りないおじさんだけど平気?」
「強さよりも楽しさだろ。もうパーティ組むんだから」
「男前な子だなあ……。わかった、とことん付き合うよ」
二人のやり取りを見て、受付嬢も微笑ましくなる。こんな冒険者ばかりであればギルドの運営も楽なのに、などと夢を見ながら。
「それではお二人はパーティを結成されるということでよろしいですね。こちらの用紙に、パーティ名とメンバー全員の名前をご記入ください」
差し出された用紙に、シレントが名前を記入する。
「ねえ、レアナ。パーティの名前はどうする?」
「なんでもいいけど……こういうの大事だよな、ずっと使うから」
二人とも、他人任せでパーティの名前など考えたことはない。
もっと話し合っておけば良かったか、と顔を見合わせて苦笑いした。
「じゃあ……僕が決めちゃっていいかい?」
「おう、良いのが思いついたなら任せるよ。私にゃ考えるのはムリ」
お手上げ、と肩を竦めて笑う。
「それなら【メリー・バンチ】にしよう」
「なんだ、そりゃ。なんか意味のある言葉?」
「ああ、そうだ。これは古代語で【愉快な仲間たち】って意味だ」
「……へえ。悪くないな。覚えやすいし、それで行こう!」
捨てられた日。拾われた日。拾った日。
多少の違いはあれど気の合う二人には、今この瞬間に新しい旅が始まりを告げた。馬鹿馬鹿しいほど愉快で最高な旅の始まりだ。
「ところでパーティのリーダーはどちらでしょうか」
受付にそう尋ねられて、昂ぶり掛けた心が鎮まっていく。
「おじさん、リーダーって柄じゃないと思わない?」
「あ~、まあ……でもほら、何事も経験って言うだろ」
沈黙が静かに横切っていく。互いにジッと見つめ合って────。
「じゃあ私でいいか。でも大体の面倒はあんたに任せていいよな?」
「うん、賛成だ。荷運びからアイテムの管理までなんでもさせてもらうよ」
なんとなく。適当な空気感で話が進む。
それくらいでいい。それが面白い。
書類が受理されると、二人は軽くハイタッチして笑い合った。
「これからよろしくな、おっさん!」
「こちらこそ。仲良くしていこう、レアナ」
コメント
1件
うわっ、3話も一気に読んじゃった!🔥 最初のディルってクソ野郎ぶっ飛ばしたレアナマジでかっこよすぎる…「ちょっといいか、クソガキ」からのジョッキ一撃、脳汁出たわ。しかも白石級(ってか白金級!)ってまさかのトップ層やん!シレントが「君こんなに強いの!?」ってなるのめっちゃ分かる。パーティ名「メリー・バンチ」、古代語で愉快な仲間たちって意味も良いセンスしてて和んだわ。リーダー決めの適当な空気感も笑った。これからの冒険、めっちゃ楽しみ!🌟