みさきが死んでから一ヶ月ほど経った。梅雨に入り、辺りが、どんよりと重たい空気で包まれた頃、私の家に一人の女の子が訪ねてきた。その子は、いつかの病院で出会った雪ちゃんだった。雪ちゃんの体は雨でビシャビシャだった。そして雪ちゃんはまるで、梅雨の空のように曇った表情でこう言った。「私、私、友達を殺しちゃった。」その言葉を言うと雪ちゃんは泣き出してしまった。私はその言葉を聞いた時同時にみさきのことを思い出した。少し間を開けて私は、雪ちゃんにこう言った。「私と二人で逃げちゃおうか。」そう言うと雪ちゃんは小さくうなづいた。私は雪ちゃんを家の中に入れて、家での準備をした。着替えを持って財布を持った。持っていかないものは全て壊した。みさきとの写真も中学の頃の日記も。そして、私たちは逃げ出したこの、狭くて、残酷な世界から。家族も友達も全て捨てて、雪ちゃんと二人で。けれど、後悔はなかった。もうこの世界に意味などないと思ったからだ。持ってきたお金で食料を買って食べた。寝床なんてなかった。だから、ダンボールにくるまって寝た。けれど不快感はなかった。むしろ、今までついていた鉛が取れたように、体が軽かった。一週間で東京から青森まで歩いた。青森に着く頃には、私たちは親友と言っても誰も文句を言わないほど仲良くなっていた。そしてたまたま泊まっていた宿のテレビで、私が前通っていた学校で殺人事件が起きたと言うニュースが、放送されていた。男子生徒一人が男女含め五人を殺害したと言う内容のものだった。私にとってはもうどうでもよかった。昔通っていた学校も、友達も何もかも。そして私たちは朝宿を出た。そして線路を歩いている時、川が見えた。その川を見て、雪ちゃんは言った。「あの川みたいに、優しくてまっすぐな人になりたかった」その言葉はまるで中学生が、言ったとは思えないほど清んでいだと同時に、空っぽだった。何も無かった私と雪ちゃんにはもう何も残っていなかった。その夜、夕飯を食べた後、私が雪ちゃんと寝ていると雪ちゃんは眠れないのか、布団の上を転がり回っていた。私は、そんな雪ちゃんの頬にキスをして、優しく抱きしめて眠った。その日、私たちは山の中を歩いていた。夕方には山を抜けて海沿いの砂浜にたどり着いていた。私が夕飯の準備をしていると雪ちゃんは急に「ありがどう、ともういいよ」と言った。私には、何がもういいのか分からなかった。私がゆきちゃんに視線を飛ばすと、雪ちゃんはナイフを持っていた。そして雪ちゃんはもう一度、はっきりと言った「死ぬのは、私一人でいいよゆいお姉ちゃんありがとう」雪ちゃんは涙を流しながら、けれど嬉しそうにそう言った。そして、雪ちゃんは首を切った。まるで映画のワンシーンのように。昨日抱きしめて寝た雪ちゃんとは、まるで違う姿だった。そして私は、昨日と同じようにゆきちゃんを抱きしめた。まだ微かに、温もりの残った雪ちゃんを抱きしめた。私も雪ちゃんの後を追って死のうと思った。けれど、「死ぬのは私一人でいいよ」と言った雪ちゃんを思い出した。その言葉を思い出すと私は、死ぬことができなかった。その夜は、雪ちゃんと一緒に寝たこれが雪ちゃんと過ごした最後の夜だった。次の日、私は警察に捕まった。そして、約一ヶ月ぶりに家に帰った。私が家に帰るとお母さんは泣き崩れていた。そのあと、お母さんは私の頬をそして、叩き抱きしめてくれた。まるで私が雪ちゃんにしたように。
月日は経ち私は、社会人になった。今でもあの日のことを思い出す。私はその度、雪ちゃんにあの日の言えなかった言葉を言うのだった。「ありがとう、私を愛してくれて….さようなら」その言葉を言うと雪ちゃんは寂しそうにけれど嬉しそうに私の心の奥に消えてゆく。これは、ある一人の女の子の夏の物語だ….
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