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私がルクシア・ノクティスとしてこの世界に生まれてから、数日が経った。
赤ちゃんである私は、基本的に眠っているか、抱き上げられているかのどちらかだ。
けれど、意識だけははっきりしているせいで、周囲の様子がよく分かってしまう。
「ルクシア様、お目覚めですか?」
そう言って覗き込んでくるのは、柔らかな雰囲気の女性。
乳母だろうか。彼女は私を見るたび、必ず表情を緩める。
(……また、その顔)
まるで、壊れ物を見るような。
それでいて、とても大切なものを見るような顔。
原作での私は、幼い頃から「扱いづらい令嬢」として距離を置かれていたはずだ。
それなのに、この世界では。
「まあ……今日も本当にお可愛らしい……」
「見ているだけで、心が洗われるようだわ」
(大げさでは……?)
私が小さく手を動かすだけで、周囲がざわつく。
少し声を出せば、すぐに誰かが駆け寄ってくる。
(嫌われないように、って思ってたけど……
これは、嫌われないどころか……)
ふと、視線を感じた。
少し離れた場所で、一人の男性が静かにこちらを見ている。
整った顔立ちに、揺るぎない威厳。
それでいて、その眼差しは驚くほど穏やかだった。
「……よく眠れているようだな」
そう言って近づいてきたのは、
ルクシア・ノクティスの父親――アレクシス・ノクティス。
低く落ち着いた声が、優しく空気を震わせる。
(この人は……お父様……?
原作だと、もっと冷たかったはずなのに)
ルクシア・ノクティスは、
“愛されなかった悪役令嬢”の象徴だった。
でも。
小さな手を、そっと包み込まれる。
それだけで、胸の奥にじんわりと温かいものが広がっていく。
(……知らなかった)
愛されるって、
こんなにも静かで、
こんなにも怖いものなんだ。
期待してしまいそうになるから。
失うのが、怖くなるから。
それでも。
「ルクシア」
その名を呼ばれるたび、
私は確かに、ここに存在しているのだと実感する。
(……嫌われないように)
その決意は、まだ変わらない。