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プロローグ
王都レイヴァーンは、
夜になると別の顔を見せる。
昼は市場の喧騒と商人たちの声で満ちるこの街も、日が沈めば、灯りの下に笑顔を並べながら、その裏で暗い取引と陰謀が渦を巻く。
人々が知らない場所に、影が蠢いている。
その影のひとつがファルタスだった。
彼は三十二歳。十代の頃から裏の世界に生き、数えきれぬほどの任務を遂行してきた。
冷徹な判断力と、感情を殺すことを厭わぬ心。それらが彼を「最も信頼できる諜報員」と呼ばせてきた。
その夜も、彼は王宮の外縁に潜入し、密かに文書を抜き出していた。
灯火を頼りに文字を追う侍従の足音を避けながら、背筋をまっすぐに伸ばす。音を立てないことにかけては、熟練の技だった。
しかし――街に戻った後、
胸の奥に奇妙な違和感が残った。
“誰かに見られている”感覚。
尾行はなかった。気配も殺していた。
だが、背中にまとわりつく鋭い視線のようなものが、どうしても消えなかった。
その感覚は、数日後、形を持って現れることになる。